いつの日にか輝けるように

天乃彼方

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序章

約束

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 僕はその日も相変わらず星を見るために夜公園へと通った。
 いつもの様に家を抜け出して、これもいつもと変わらず公園のブランコに乗る。
 そうしていつもの様に夜空を見上げて星をただただ眺めた。
 それはいつもと何も変わらない光景だった。……のだが、その日にはいつもとは違った。何が違うのかと言うと……。
 
 
 
 隣に女の子がいることくらいかな?



 その少女は僕と同じようにブランコに乗って、空を見上げていた。それはもう溢れんばかりの笑顔で。
 僕は改めて少女を見ていた。
 黄金色の髪は嫌でも目に付いた。綺麗だというのもあるが、僕の周りの人たちで少女と同じ色はいなくて、黒ばかりであるからと言うのが一番だろう。
 そんな髪に目が行きがちだったが、改めて見てみると普通に可愛かった。
 いや、どちらかと言うと可愛いと言うよりは「綺麗」と言う言葉の方が似合う—そんな気がした。
 その理由は顔以外にもあった。
 体が全体的に細かったから。
 細いと言っても決してやつれているとかそう言う訳では無く、しっかりと肉がありながらも、それでいてなお細いというとこだ。引き締まっていると言った方が適正かな。
 まぁつまりでるとこは出ているってことですね。……出るとこって言ったらあそこだけでしょ。ほら、その……む、胸だよ!僕と同い年くらいの女の子で今隣に居る少女より大きい子なんていないよ!……って僕は何考えてんだよ!
 視線に気づいたのか少女が恥ずかしそうにこちらを向いた。
 
 「ど、どうしたの?」

 「いや!何でも無いんだ」

 見ていたのがばれて恥ずかしかったので、少し慌ててしまった。
 
 「いや……何でも無くはないや。一つだけ聞いてもいいかな?」

 僕は気になっていた事を聞くことにした。
 
 「うん。大丈夫だけど」
 
 少し不思議そうな表情で言う。

 「どうして僕に声をかけてきたの?」

 その理由が全く分からなかった。
 僕と少女は多分一度も会ったことが無いはずだ。なのにも関わらず、僕に声をかけてきた。それが不思議だった。
 そこまで考えて、実際に聞いた、その後に僕は気づいてしまった。

 (あれ?声かけたのって僕じゃね?)

 なんともバカな感じである。勘違いしてしまっていた。
 だけど、そんな僕の恥ずかしい勘違いに少女は気づくことは無く、真剣な顔で答えてくれた。

 「何でも声をかけたかだっけ……それはね、あなたが星を見ている時に、すごっく笑顔だったからかな」

 笑顔?

 「そう。笑顔だったんだ。実はね私結構星を見るのって好きなんだ~。でもね、ある事があってね、なんだか嫌になっちゃったんだよね」

 でも君は今もこうやって星を見ているよね。

 「そうだね。その理由はあなたなんだよ。あなたを始めて見かけた日、私は家を抜け出して公園に行ったの。それで何となく時間を潰そうかなとか思ってたら、あなたが丁度今みたいに星を見てたの。それで私は少しの間それを観察してたんだ」

 何?見てたの。恥ずかしいなぁ。

 「気づいてなかったの?それもそうか。その時は空から一瞬たりとも目を逸らしてなかったからね。まぁそれでね、純粋に笑顔だったの。あなたが。私は不思議に思ったんだ。どうしていつもと何も変わらない空を見てこんな表情を出来るんだろうって。それでね、私も空を見上げて見たの。そしたら、今まで曇って見えていた星が、輝きを取り戻して見えたの。その光景に私は驚いた。それと同時に、この人と一緒にいたら、私は何か変われるんじゃないかって思ったの。それで声をかけたってことなんだ」

 なんか恥ずかしいな。別に大した事ないし、僕はそんなつもりで見てた訳じゃないんだけどね。

 「ふふ、知ってるよ。……でもね、私にとっては大した事なんだよ。あなたのおかげで私の世界がもう一度晴れたそんな気がしたの」

 そっか……。それなら良かったよ。

 「だからね、その……おかしいのは分かってるんだけどありがとう。それでお願いが一つあるんだけど……」

 お願いって?

 「あのね……これからも一緒に……その……星を見てもいいかな?」

 どうしてそんなこと聞くのかなぁ?僕の答えはもう分かってるはずなのに。

 「僕の方こそお願いしたいくらいだよ。一人で見るよりも二人の方が楽しいし。それに、君に星のこと教えて欲しいしね」

 少女は僕の答えに安堵の表情を見せた。
 
 「ありがとう。私も二人の方が楽しいと思う……そういえば、私星に詳しいって言ったっけ?」

 首をかしげる少女に僕は説明する。

 「たしかに僕はそんな事一回も聞いてない。けど、君は星が好きだったって言ったよね?『星が』好きだって。僕は星を『見る』事が好きであって、星が好きってわけじゃないんだ。でも、君は『星』が好きなんでしょ?星自体が好きだってことは星に詳しいんじゃないのかな?って思っただけさ」

 ちなみに僕は昔から物事を推察する事も好きではあった。少しの手がかりから、正解まで導いていく行為が。

 「すごいね~私のちょっとした発言からそこまで言い当てるなんて。本当に凄いよ」

 そこで少女はとても大事な事を思い出したかのような表情になった。

 「そういえば、私あなたの名前聞いてないよね?しかも私も名前言ってなくない!?」

 ここに来て今更気づいたか。今までこんなに話してたのに、全く気づかないのもある意味すごいと思うけど。

 「僕の名前は星野天。よろしく」

 「私の名前は——だよ。こちらこそよろしくね」

 僕らは互いに差し出した手を握った。

 



「「ジャンケン、ポイッ!!」」

 



 僕が出したのはチョキ。彼女はグー。……ま、まぁまだ大丈夫。

 「あっち向いて……ほいっ!!」

 彼女の指のさす方は左。そして僕の顔が向く方は……左でした。
 
 「いや~天君弱いね」

 ほう、中々言ってくれるじゃないか。確かに負けたけども。
 僕らはそんな事をしている自分たちがおかしくなって大きな声で笑った。
 それからと言うものの、僕らは一緒に星を見ていた。
 必ず一緒ということはなく、一人で見ている時もあった。だけど、少女と見る星と比べて色褪せているように見えた。それまでは僕だけの色だったのだが、いつのまにか少女の色に染まっていた。
 隣で楽しそうに星を見上げているそんな顔を見ていることだけで僕は幸せだった。そんななんでもない日々が続いて欲しいと、その時の僕は心から願っていた。
 しかし世界とは残酷で僕のたった一つの願いすら汲み取ってくれなかった。

 

   君と星を見ていたい。




 僕たちが出会ったあの日に交わした約束を。僕の願いを。雲が星の光を遮ってしまうように、世界が僕たちから奪っていった。
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