いつの日にか輝けるように

天乃彼方

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第一章

日常から非日常へ

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 また僕は同じ夢を見た。変えたいとどれだけ願っても、決して変わらない、僕が後一歩踏み出せなかった過去の夢。
 過去の夢を見ることは、一般に今の現実から目を背けたいという逃避の感情があるから見るそうだ。
 けれど、今の僕は特に逃げたいとも思ってもいない。逃げたいと思うほど僕の現実は、悪い意味でも色付いていない。
 きっと、夢に見る過去に戻って、やり直したいと思っているから。やり直せるはずがないのは分かっているけれども、それでも、あの時伸ばせなかった手を、伝えられなかった言葉を、そんな思いを今にまで抱えているからこそ、僕はまたあの夢を見たんだと思う。
 
 「いつまでもあの時に縋っているのが、馬鹿馬鹿しく思えてくるよ」

 なんて呟いてみるが、心の乾きは直らない。
 そう。
 あの時を最後にして、僕の世界は色褪せ、乾いたものになっていた。

 「だったら早く学校に行く準備をしたらどうかな?」

 突如として背後から、僕以外の声が聞こえた。
 大して驚くことは無い。

 「おはよう、はる。もうそんな時間なの?」

 何故なら、声の主を知っているから。この朝の時間帯に僕の部屋に来るのは、僕は一人しか知らない。

 「おはよ~……じゃなくて、早く準備して。もうそんな時間なの」

 幼馴染の冬空春ふゆぞらはる
 背丈は、男子の僕より少しだけ小さいくらいで、女子としては大きい部類に入る。
 
 「早くしてってば!学校遅れちゃうでしょ!」

 春が急かすように言葉を並べるから、僕は渋々支度を始めた。
 いつもと何ら変わらない日々。飽きることを知らない僕の寝坊に、わざわざ起こしに来てくれる春。
 これで良いんだ。あの日から乾いてしまった僕の目は、心は、これ以上の景色を写したら眩しすぎて壊れてしまう。
 これで良い。自分に何度もそう言い聞かせる。春とのこの朝がありさえすれば、僕には十分だ。
 そんな思いを抱えて今日も僕は生きる。止まったままのあの時から、何も変化を求めない日々を。
 


 人の人生は突然変わる。それを本人が頼んでいても、頼んでいなくても。突然やってきて、世界を一変させていく。
 それはいつくるか誰にも分からない。だからこそ、そんなが僕のもとにもやってきて、僕の乾いた世界を変えていくなんて、その時の知らなかった。
 

 「今日も誰にも僕の平和を侵されないように」
 
 知らないからこそ、いつものように、そして今日から叶わなくなる願いを口にした。
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