マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

文字の大きさ
7 / 110

7.ピザトースト

しおりを挟む
有希ちゃんは、その翌週の夕方から、白シャツに黒パンツでバイトに入りはじめた。
「服装は、無理に真似しなくてもよかったんだよ。」
「でもみんなで揃ってるとかっこいいし、仲良しでうらやましかったから。」
「そうかそうか。いい子だね。有希ちゃんももう仲間だよ。白黒姿も似合ってるし、仲良くしようね。」
「・・はい。」
有希ちゃんは少し照れたように返事をした。
「それはそうと、今日はちょっと気になっていることがあってね・・・。遊!ちょっと留守番お願いしたい。今4時過ぎでしょ?この時間帯ならちょっと落ち着くからさ?有希ちゃんのことお願いよ!何かドリンクの指導しといてくれる? 15分。」
「いいっすよ~。」

初めて来た有希ちゃんは気になるけれども、マキノは有希ちゃんの面接をした日以来、バイクのバッテリーが元気なのかどうかずっと気になっていて、土日はとうとうバイクに触れることができず、今ようやくお客さんが途切れるタイミングを見計らって動かすことにしたのだ。
下の階の入り口の横に置いてあるVTR250のカバーをはずし、ガサガサと土間に放り込んだ。エンジンのかかっていない大きなバイクは、本当に重い大きな鉄のかたまりだ。ふむむむむぅと、うなりながら裏庭へ押してきた。
3月頃に一度走ってみたが、それ以来走ってはいない。このバッテリーは強い子のはず。さすがに上がったか?回るか・・どうだろ?おそるおそるセルをおしてみた。
きゅるるるるる きゅるるるるる ・・バッテリーは機能してる。
でも、なかなかエンジンかからない。もうダメかなぁ。
何度もキュルキュル回していると、本当にバッテリーが空っぽになってしまう。
一度セルを回すのを止めてしばらく間を空ける。あと一回だけ、やってみよう。
キュルルドゥルン・・ドドドドド・・・
「かかったー!」
自動チョークがかかっていてアイドリングが高い。エンジンが落ち着くまで乾いた布でほこりを払ったりしてから、ヘルメットを装着。
ブルンブルン。アクセルをふかした。うぉよかった。動いてくれて感謝!!

マキノはカフェエプロンをつけたまま、国道を走り去っていった。



「なんのことかわかんないでしょ?裏庭を見ててごらんよ。マキノさんが何するかわかるから。」
マキノが「15分!」と言い捨てて出ていくのをキョトンとした顔で見ていた有希ちゃんは、遊にそう言われて、ウッドデッキの上から裏庭の様子を観察していた。
マキノが重そうなバイクを引きずり出してきて、難しい顔をしてキュルキュルとエンジンをかけている。かと思ったら、ブルルンとエンジンがかかり小躍りしてバイクにまたがりかっ飛んで行った。
何も、今、バイクに乗らなくても・・。と思ったが、遊はただ、おもしろそうにニヤついているだけだ。
「あの人、ずっとアレを気にしてたんだよね。昨日も一日そわそわしてたけど時間がとれなくてさ。・・顔に出るんだよね。」
「・・・マキノさんって、ちょっと変わってる?」
「うん。随分変わってるよ。いい意味でね。」
遊が笑った。


マキノが行ってしまってすぐに、お客さんが3人来た。
「いらっしゃいませー。」
遊が、有希ちゃんに対応を指導することになった。
今日は真央ちゃんも来るはずだが、まだ来ていない。
「お盆は、カウンターの下のその棚にあって、そうそれ。おしぼりはここ、ここに置いてあるコップに、製氷機から・・氷2~3個入れて、そう。そして笑顔で“いらっしゃいませ。”わかった? いっておいでよ。メニュー見ないですぐ注文する人が多いから注文聞いたら復唱して。」
「はい。」

注文はピザトースト2つとブレンドコーヒー2つととカフェオレ1つだった。
遊は、慣れた様子でサイフォンの準備をはじめている。
「有希ちゃんは、カフェオレとコーヒーとどっちがいい?」
「カフェオレ。」
「じゃあ見といて。先にピザやっちゃうけど、今は見るだけで、覚えるのはあとでいいよ。」
遊は、口で説明をしながら、手早くピザトーストにかかる。
まずは食パンを出してマーガリンをさっと塗った。バターナイフと違って大きめのナイフにしているから、さっと一塗りだ。冷蔵庫のポケット側に立っているピザソースとピザ用の具がまとめて入っているトレイを冷蔵庫から出して、ピザソースをびゅっと出してそれもさっと伸ばし、ベーコン玉ねぎピーマンの順でパンの上に並べていって、その上にチーズをバラバラと乗せ、トースターの時間をセットした。そのままチーズがとろけるまで焼くと中心に火が通るまでにパンの下側が焼けすぎになってしまうので、最初のうちはそのまま焼いて、途中でアルミ箔の上に乗せるのだ。
遊は、次にブレンドを入れ始めた。これフラスコ、これロート、これがフィルターと簡単に説明をする。
有希ちゃんは、はじめてのことばかりなのでオタオタしていたが、「あとでもう一度言うし、覚えるまで何度でも教えるから、今は見とくだけでいい。」と言われてしっかり観察し始めた。フラスコにロートをぶすっと刺して、40秒測る間に遊はピザトーストをアルミ箔にのせた。
「最初のうちはオレみたいに作業しながらは待たないように。時計に集中したほうがいいよ。」と矛盾したことを言った。
「カフェオレの時の豆の量は1杯分だとこれぐらい。2杯分の時は、まんまその2倍じゃなくてこれぐらいで。」
「はい。」
「ミルクはこのカップで測る。そしてここにある小鍋で温める。沸騰させないように。」
「はい。」
トースターがチンと音を立てて、遊がピザトーストを取りだした。とろりと溶けたチーズがおいしそうだ。お皿にペーパーを敷いて乗せて、まな板の上でザクッと切ったピザトーストを乗せた。
「ピザトースト上がり。お待たせしましたって言って上手に置いてきて。」
「はい。」
素直に返事をして、出してきたものの、有希ちゃんは少し首をかしげて戻ってきた。
「上手に置いてきてって・・具体的にはどういうことですか?」
「マキノさんがそう言うんだよ。きっとおもてなしの気持ちでって意味だよ。」
と笑った。
「スマイル忘れずにね~。」
ドリンクを運ぶ有希ちゃんに、また遊が声をかけた。

お客様の分が落ち着くと、今度は有希ちゃんが自分の分のカフェオレを淹れるように、遊がさっきと同じように指示をし始めた。一度遊がしているところを見せてもらっているので、言葉で説明するだけだが有希ちゃんの作業はスムーズだ。

そこへ、ブォーンブォーンとバイクのエンジン音が近づいてきた。シフトを落して基本どおりエンジンブレーキをかけている。そのまま裏庭へ移動する気配がした。間もなくマキノが元気よく店の中に入ってきた。
「ごめんごめーん。いらっしゃいませ~。」みんなに謝って、お客さんに挨拶をしてから少し声を落して「お客さんあったんだね。」といたずらっ子のように笑った。

「これでも旦那さんがいるんだよ。新婚だしね。」
「ええっ・・・。」
有希ちゃんが目を丸くした。
マキノが目を吊り上げた。
「また遊は余計なことを言うでしょ。有希ちゃんもそこでおどろかないように。」
そして、棚のボウルをおろして、たまごとバターを取り出しパウンドケーキの用意を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。 クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...