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13.居場所を得る
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カズの働いていた花矢倉旅館の女将は、突然転がり込んできた遊のことを、咎めたりしなかった。
名前や連絡先、親のことも事情を聞かれて、正直に答えた。
「いくらカズ君の友達だからって、得体のしれない人を打ちに行くわけにはいかないから。」
「はい。」
そりゃそうだろう。でも、ここがダメだったら、行くところはない。
迷惑をかけられないとは思う。ダメだだったら出ていくだけ。
少し自暴自棄になっているかもしれない。まぁ、先のことはわからない。
「ここにいてはいけないなら、出ていきます。」
「ダメだって言ったら、家に帰るの?」
「・・・いいえ。」
そのところも正直な気持ちだった。
我儘な言い分だとは思っていたが、遊の意志は固かった。
その固い意志を見抜いていたのか、遊ぐらいの年恰好の板場見習いの扱いに慣れているのか、遊は、旅館の男子寮に住むことを許された。
女将は、遊の自宅に連絡をして、保護していることを伝えてくれた。
カズのボスである板長は保護者としての責任を負うと言ってくれ、遊は、当面の居場所を得た。
その日から、遊は、板場の仕事もさせてもらえることになり、下働きとして頑張った。
もらえる給料はわずかだったが、そのおかげで必要な衣類や日用品は買えたし、寝る場所と食べる物には困らなかった。充分生きていける。
スマホは持って出たが、しばらく電源は入れなかった。
ここの住所や電話番号は知っているはずだが、母親からの連絡はなかった。
安心したのもつかの間、観光シーズンを過ぎると忙しい時期が山を越えていたため、アルバイトも少なくなり、厨房に入ってもそれほど仕事がなく、自分がここいることはお荷物ではないか?と感じることが時折あった。
でも、そういう時ばかりではなく、夏休みになれば子ども連れの客が増え、お盆や紅葉シーズンも忙しくて、純粋に必要とされて、仕事をすれば喜ばれてほっとする。
でも、仕事が減ると、自分は不要になる・・その繰り返しだった。
2月から3月は、花見客の来るシーズンの少し前で、一年のうちで一番閑散としている時期だった。
そんなある日、ちょっとしたことで板長に叱られて、外の空気を吸いに休憩の間にカズとマキノの店へ来てみたら、思わぬ忙しさを見かねてそのまま旅館に戻らず、夕方までマキノの店の手伝いをしてしまった。
本当は、見ず知らずのお店の手伝いなんて、放っておけばよかったのに、オヤジさんに叱られているときに、もっと叱られることをするなんて、自分でもバカだと思ったが、何故かあの時、カズに「先に帰っといて。」と言ってしまった。
無理矢理作ってもらう仕事ではなく、必要とされることに飢えていたのかもそれない。
タイミングも悪かったし、さすがに戻りづらいな・・と思っていたが、マキノが全部段取りをしてくれて、旅館の女将とオヤジさんに話をつけて、遊の居場所をあっという間に確保した。
“居候”という不安定な立場でうろうろしていた遊は、マキノの店で居場所を得ることができた。
自分がカフェの仕事を覚えたことで、マキノが「楽になった。助かる。」と喜んでくれる。
毎日、ちゃんと自分に役割があってアテにされる、それが自分の存在意義になり、張りつめたココロを緩めてくれ、安堵を与えてくれた。
オレがそんなことを考えているとは、マキノ本人は分かっているのかどうか。
この能天気な顔では何もわかっていないように・・見えるなぁ。
いや、でも、この人単純だと思って油断していると、たまに鋭いところをついてくるから要注意なんだよ。
今日は、お店をお料理上手の仁美さんに任せて、2人でシューズを買いに来ている。
シフトをめちゃくちゃにして、きっと敏ちゃんが泣くよ。
それに、火曜日を早めに終わってママさんバレーに連れ出されることに勝手に決まってて、きっとそれも敏ちゃんが知ったら泣くだろうな。
「これいい。こっちのラインのほうがかっこいい。これにするわ。足首のところもハイカットでかっこいい。」
「高いじゃん。1回しかバレーしないんだったら、真央未来と同じような簡単なシューズでいいんじゃないの?カッコばっかり言ってるけどさ。」
「まぁ・・いや・・遊はどれにするの?」
「これ。」
自分は、あまり考えずに展示してあったアシックスにした。
ちょっと高いけど、バレーをかじっていた者としてはそれより安いのを買おうとは思えなかった。
マキノはミズノの足首まであるタイプにしようとしている。何でもいいけどね。
「わたし、足首があまりよくないんだ・・。」
「そう。それでハイカットなの?」
「うん。少しはましじゃないかなと思って。あと、肩もよくない。」
「なんなのそれ。バレーなんてできないじゃん。」
「ゆるーくならできるでしょ?」
「まぁねぇ・・。あ、マキノさん、サポーターもあったほうがいいんじゃない?」
「そう?」
「ボールを追いかけないと気が済まない性格でしょ。絶対ヒザを傷めると見た。あとソックスもあったほうがいいかな。」
「あっそう。・・物入りね。でもしかたないな。バレーが無理だったとしても、ウエアは春樹さんとジムに行くからきっと使う。だから、いいとしよう。」
「・・・。」
マキノは何故かいつも自分にはえらそうにしている。他のバイトさんにはしない態度だ。
ちょっと冗談を言うと、丁寧に拾ってつっこんだり食ってかかったりしてくれる。
それがおもしろくて、ついまたボケを入れてしまう。
この人そばにいると、・・・なんだかほっとした。
9歳という歳の差も感じないんだな。きっとこの人が幼いんだよ。
しかし、ちょっと前に「若さゆえに不安定。」と言われた時は、信用してくれよと思ったな。
予想外にマキノと春樹が自分の事を深く考えているのだということが伝わってきて驚いた。
自分が思っていたよりも、自分は考えが浅かったし、ガキだった。・・と思う。
家を出て、一人でもなんとかやれると思っていたが、たくさんの人に助けられているだけだった。
・・・マキノと会話をしているうちに、今のままではいけないというのはわかってきた。そして、マキノが、自分が自立できるようにと考えてくれているを知っている。
そういえば・・一番最初から高校に復帰することを、マキノは望んでいたな。
オレの出発点は、そこまで戻らないといけないのか・・・。
「・・リタイヤしたツケは大きいなぁ・・」
「あら。」
しまった。声に出てしまった。
「私はそれ、ツケって言わないと思うよ。」
オレが考え事していた内容を知っているかのようにしゃべりだしたな。この人。
「なんで?」
「考えないより考えたほうがいいし、くじけたことがない人よりくじけて立ち直った人のほうが、より深いんだよ?」
「なんのことだよ・・・。」
「要するに・・長い人生において、悩んだことは無駄な事は何一つないし、たどりついた答えは、結果それで正しいって事なのよ。」
「ますます、まったくわかんないよ。」
「もー・・・・わかんないかなぁ。」
「・・・。」
「遊。一度さ・・私とゆっくり腰を据えてしゃべってみようか。」
にやり。とマキノが笑った。
・・・職員室に呼び出されたような気分になった。
名前や連絡先、親のことも事情を聞かれて、正直に答えた。
「いくらカズ君の友達だからって、得体のしれない人を打ちに行くわけにはいかないから。」
「はい。」
そりゃそうだろう。でも、ここがダメだったら、行くところはない。
迷惑をかけられないとは思う。ダメだだったら出ていくだけ。
少し自暴自棄になっているかもしれない。まぁ、先のことはわからない。
「ここにいてはいけないなら、出ていきます。」
「ダメだって言ったら、家に帰るの?」
「・・・いいえ。」
そのところも正直な気持ちだった。
我儘な言い分だとは思っていたが、遊の意志は固かった。
その固い意志を見抜いていたのか、遊ぐらいの年恰好の板場見習いの扱いに慣れているのか、遊は、旅館の男子寮に住むことを許された。
女将は、遊の自宅に連絡をして、保護していることを伝えてくれた。
カズのボスである板長は保護者としての責任を負うと言ってくれ、遊は、当面の居場所を得た。
その日から、遊は、板場の仕事もさせてもらえることになり、下働きとして頑張った。
もらえる給料はわずかだったが、そのおかげで必要な衣類や日用品は買えたし、寝る場所と食べる物には困らなかった。充分生きていける。
スマホは持って出たが、しばらく電源は入れなかった。
ここの住所や電話番号は知っているはずだが、母親からの連絡はなかった。
安心したのもつかの間、観光シーズンを過ぎると忙しい時期が山を越えていたため、アルバイトも少なくなり、厨房に入ってもそれほど仕事がなく、自分がここいることはお荷物ではないか?と感じることが時折あった。
でも、そういう時ばかりではなく、夏休みになれば子ども連れの客が増え、お盆や紅葉シーズンも忙しくて、純粋に必要とされて、仕事をすれば喜ばれてほっとする。
でも、仕事が減ると、自分は不要になる・・その繰り返しだった。
2月から3月は、花見客の来るシーズンの少し前で、一年のうちで一番閑散としている時期だった。
そんなある日、ちょっとしたことで板長に叱られて、外の空気を吸いに休憩の間にカズとマキノの店へ来てみたら、思わぬ忙しさを見かねてそのまま旅館に戻らず、夕方までマキノの店の手伝いをしてしまった。
本当は、見ず知らずのお店の手伝いなんて、放っておけばよかったのに、オヤジさんに叱られているときに、もっと叱られることをするなんて、自分でもバカだと思ったが、何故かあの時、カズに「先に帰っといて。」と言ってしまった。
無理矢理作ってもらう仕事ではなく、必要とされることに飢えていたのかもそれない。
タイミングも悪かったし、さすがに戻りづらいな・・と思っていたが、マキノが全部段取りをしてくれて、旅館の女将とオヤジさんに話をつけて、遊の居場所をあっという間に確保した。
“居候”という不安定な立場でうろうろしていた遊は、マキノの店で居場所を得ることができた。
自分がカフェの仕事を覚えたことで、マキノが「楽になった。助かる。」と喜んでくれる。
毎日、ちゃんと自分に役割があってアテにされる、それが自分の存在意義になり、張りつめたココロを緩めてくれ、安堵を与えてくれた。
オレがそんなことを考えているとは、マキノ本人は分かっているのかどうか。
この能天気な顔では何もわかっていないように・・見えるなぁ。
いや、でも、この人単純だと思って油断していると、たまに鋭いところをついてくるから要注意なんだよ。
今日は、お店をお料理上手の仁美さんに任せて、2人でシューズを買いに来ている。
シフトをめちゃくちゃにして、きっと敏ちゃんが泣くよ。
それに、火曜日を早めに終わってママさんバレーに連れ出されることに勝手に決まってて、きっとそれも敏ちゃんが知ったら泣くだろうな。
「これいい。こっちのラインのほうがかっこいい。これにするわ。足首のところもハイカットでかっこいい。」
「高いじゃん。1回しかバレーしないんだったら、真央未来と同じような簡単なシューズでいいんじゃないの?カッコばっかり言ってるけどさ。」
「まぁ・・いや・・遊はどれにするの?」
「これ。」
自分は、あまり考えずに展示してあったアシックスにした。
ちょっと高いけど、バレーをかじっていた者としてはそれより安いのを買おうとは思えなかった。
マキノはミズノの足首まであるタイプにしようとしている。何でもいいけどね。
「わたし、足首があまりよくないんだ・・。」
「そう。それでハイカットなの?」
「うん。少しはましじゃないかなと思って。あと、肩もよくない。」
「なんなのそれ。バレーなんてできないじゃん。」
「ゆるーくならできるでしょ?」
「まぁねぇ・・。あ、マキノさん、サポーターもあったほうがいいんじゃない?」
「そう?」
「ボールを追いかけないと気が済まない性格でしょ。絶対ヒザを傷めると見た。あとソックスもあったほうがいいかな。」
「あっそう。・・物入りね。でもしかたないな。バレーが無理だったとしても、ウエアは春樹さんとジムに行くからきっと使う。だから、いいとしよう。」
「・・・。」
マキノは何故かいつも自分にはえらそうにしている。他のバイトさんにはしない態度だ。
ちょっと冗談を言うと、丁寧に拾ってつっこんだり食ってかかったりしてくれる。
それがおもしろくて、ついまたボケを入れてしまう。
この人そばにいると、・・・なんだかほっとした。
9歳という歳の差も感じないんだな。きっとこの人が幼いんだよ。
しかし、ちょっと前に「若さゆえに不安定。」と言われた時は、信用してくれよと思ったな。
予想外にマキノと春樹が自分の事を深く考えているのだということが伝わってきて驚いた。
自分が思っていたよりも、自分は考えが浅かったし、ガキだった。・・と思う。
家を出て、一人でもなんとかやれると思っていたが、たくさんの人に助けられているだけだった。
・・・マキノと会話をしているうちに、今のままではいけないというのはわかってきた。そして、マキノが、自分が自立できるようにと考えてくれているを知っている。
そういえば・・一番最初から高校に復帰することを、マキノは望んでいたな。
オレの出発点は、そこまで戻らないといけないのか・・・。
「・・リタイヤしたツケは大きいなぁ・・」
「あら。」
しまった。声に出てしまった。
「私はそれ、ツケって言わないと思うよ。」
オレが考え事していた内容を知っているかのようにしゃべりだしたな。この人。
「なんで?」
「考えないより考えたほうがいいし、くじけたことがない人よりくじけて立ち直った人のほうが、より深いんだよ?」
「なんのことだよ・・・。」
「要するに・・長い人生において、悩んだことは無駄な事は何一つないし、たどりついた答えは、結果それで正しいって事なのよ。」
「ますます、まったくわかんないよ。」
「もー・・・・わかんないかなぁ。」
「・・・。」
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にやり。とマキノが笑った。
・・・職員室に呼び出されたような気分になった。
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