マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

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87.雪の日、二人、お店番

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マキノは、いたいけな高校生二人に留守番を言いつけて、夕方の4時頃に帰って行ってしまった。
春樹さんの好きなごはんを作るんだって。なんてくだらない理由だ。

「何がバレンタインだよ。ね。」

独り言のつもりだったが、真央が聞こえていたらしく「マキノさんらしいよね。」と笑うのが聞こえた。


カランカラン
「いらっしゃいませ~。」
「コーヒーとカフェオレ。」
席に着くまでに注文をしたお客さんは、顔を知っている。
「雪がちらちらしてきたよ。」
「どうりで、寒いですねぇ。」
真央はすばやく銀盆にお水とおしぼりを載せて、その客について座敷へいく。
顔を知っていたので親しげに挨拶はしたけれど、オレはこの客の名前を知らない。

豆の粉をロートに入れようとして手を止めた。
「真央もカフェオレ飲む?」と聞いた。
3時頃は忙しくて、休憩する暇がなかったな・・と思ったのだ。
「うん。」
コーヒーは一つ分、カフェオレは3人分の豆をロートに入れて、フラスコをふたつ火にかける。


専門学校に進学しても、バイトをするならこういうカフェか喫茶店のようなところがあればいいなと思った。
ヒロトが言うには、ここはぬるすぎる、らしいけど。

「コーヒー・カフェオレ、あがったよ。」
声をかけると、真央はすぐそばできっちり待機していて、今日限定のブラウニーをソーサーにのせて、出しに行った。


遊はすでにカップケーキのラッピングをほいていたけれども、とりあえず聞いてみた。
「カップケーキ、今、食べてもいい?」
「どうぞ。」


自分と真央の分もカフェオレを入れたので、2人一緒に一息つく。
「私にもかじらせて。」
と真央が言った。
「味見してないの?」
「したけど、カフェオレと合いそうなんだもん。」
「それもそうだ。」


先に、自分が一口かぶりついた。
ほう・・・。しっとりとして、口の中でほろりとくずれる絶妙なやわらかさ。
甘さは控え目、入ってるのはピーナッツ?アーモンドかな。マカダミアナッツかも。
「なかなか。うまくできたじゃん。」
と言ってから、かじりかけのマフィンを真央に渡した。
「当然よ。」
真央は、かじりかけなのに嫌がりもせず屈託もなく、普通の顔でひとくち食べた。
「我ながら上出来だったと思ってるのよ。」
カフェオレと一緒に、ゆっくりと味わっている。

「ホワイトデーは期待してますからね。相場は10倍だそうですから。」
真央がそんなことを言うので何にしようかなと思いながら「そうだなー・・。」言葉を濁していると、真央はすぐに話題を変えた。
「ところで遊の学校の卒業式はいつ?」
「3月10日。」
「遊の・・・この店の卒業は?」
「まだ決めてないよ。けど、引っ越しは3月半ばにすると思う。引っ越し終わっても布団とかはここのを使ってるから、そのまんまぎりぎりまで生活してかもしれないな。」

「遊はここが気に入ってるんだね。」
「まあね。なんとなくね。おもしろいものも何もないけどね。真央はいつから行くの?」
「3月10日までには荷物を運びこんで、向こうで生活し始めるのは20日ぐらいからかなって考えてる。」
「そっかぁ。でも、いろいろ楽しみではあるよね。」
「うん。そうだね。」

ピピピと遊のスマホが鳴った。
ヒロトからの連絡だ。
カフェには寄らずに、実家に帰るとのこと。美緒さんが食事をごちそうしてくれるらしい。どいつもこいつも・・と遊は悪態をついた。

しばらくして「ごちそうさま。」と2人組のお客さんの一人が会計に立った。
もう一人が、玄関を開けると、ほつほつと白いものが舞うのが見えた。
「雪がひどくなってきたよ。今日はもう早めに閉めたほうがいいんじゃない?」
「ありがとうございました~。ほんと、そのほうがいいかもですねぇ。」
真央は、レジを開けて、お金を入れながらお客さんに愛想をした。



「真央、雪が本格的に降って来たみたいだよ。ちょっと道に積もってるけど帰れるの?」
真央も外に出てきて様子を見た。

「ダメそう?だったら迎えに来てもらうよ。あああ。原チャは持って帰っておきたかったけどなぁ・・。」
「あぶないだろ。滑るし。」
「うん・・わかってる。様子見るよ・・。」

この辺では、雪が積もるほど降るのは1年のうち数えるほどだ。
でも今回は、その本気を出した雪のようで、目の前の国道があっという間に白くなってきた。

「これは、どうも無理っぽいね。7時になったら電話して迎えに来てもらうよ・・。」
「うん。・・もうお客さんも来ないかもしれないし、早めに帰ってもいいんじゃない?」

「遊が作ったごはん食べてから帰るよ。うちに帰っても私の分がないと思うから。」
「ああそうか。じゃあ真央、原チャの鍵貸して。」
「何するの?」
「軒下に入れて、ハンドルロックとチェーンロックをして、カバーもかけとく。」
「わかった。ありがとう。」

遊が真央の原チャを片付けていると、また遊のスマホが鳴った。
今度はマキノからだ。
「雪が本格的に降ってきてるみたいだから、早めにお店を閉めて真央ちゃんを帰らせてあげて。」
とのことだった。

それを受けて真央が、家に電話をしたが、やはり7時頃が都合がいいようだ。

「じゃあ真央、何か夕ご飯作ってやるよ。何がいい?」
と尋ねた。
今日は土曜日で、日替わりランチがない。特別な献立は特に用意されていない。
「久しぶりにハンバーグが食べたいけどなー。」
「いいよ。また、仕込むから大丈夫。こんな日に留守番してやってるんだから少々の贅沢しても文句もでないさ。」
「遊は・・今日は随分根に持ってるんだねぇ。」
真央も、厨房に入ってきて、白い大き目のプレートを出してスープを温めはじめた。
「ごはん、だいぶ余っちゃったね。」
「そういう日もあるさ。冷蔵庫に入れとけばいいし、冷凍してもいいし、明日チャーハンだな。」
真央の出したプレートに、遊はサラダを盛りはじめた。
ハンバーグはソースの中で煮込んで、こふき芋とにんじんグラッセを添えて、一つのプレートに載せる。
「とろけるチーズも載せよう。」
「クレソンは省略。」
「オレ、クレソンも好きだけどなぁ?」
「まかないなのに、もったいないよ。」
「それもそうか。」
「わたしスープはコーンがやっぱり一番好きだな。」
「そうだな。オレは・・・。キャベツとベーコンのコンソメが結構好き。たまごの中華風もいいな。野菜を細かく刻んだミネストローネも。シンプルなじゃがいものポタージュもいいしな。ミキサーだすの面倒だけどな。あ、一番好きなのは、あさりのチャウダーだな。・・・まあ、どれも好きだな。」

「遊が脳内にスープ並べてる間にできたよ。さっさと食べようよ。」
いつもは厨房の中の小さいテーブルで食べるのだが、遊は何故かカウンターまで運んで、そこに座って食べ始めた。
「いただきまーす。」
遊のプレートの十五穀米は、お客さんに出す時よりも少し大盛りだった。
真央も、遊と同じようにカウンター席に座った。
「いただきます・・。」

有線が、静かに流れている。
「おいしー。」
「うん。・・・うまいよなぁ。」
遊は、ハンバーグをフォークで一口切って、チーズとソースをからめてご飯の上に載せ、いっしょにばくっと口に放り込んだ。

「ハンバーグって・・・家庭料理だよなぁ。」
「んー。」
「考えてみたら、マキノの料理って、家庭料理に毛が生えた感じだよなぁ。」
「あれ、えらそうなんだ。遊はまだ学校も行ってないのにそんなこと言う?」
「いや・・貶したんじゃなくてさ・・・・なんていうか、日替わりのメニューでも盛りつけ方とか付け合せも彩りもちゃんとしてて、そういうセンスはすげえなって、いつも思うんだけど。本格的なコース料理や懐石料理とはまた違う・・って思ってる。」
「そうだねぇ・・・じっくり勉強したわけじゃないって言ってるね。」
「なんか・・でも、料理の・・・天性の素質ってか・・なんて言っていいかわかんないけど、あるよな。」
「ああうん。思う思う。言いたいことわかる。でもそれね、私、遊にもあると思うよ。」
「えっ、そうか?」
「あるよ。絶対。・・・遊とマキノさん、どこか感性が似てると思う。真似してるから似てるのか、習ったからそうなったのか知らないけど。」
「へえ・・・でも、そう言われると嬉しいな。」

「私は、マキノさんは、今のままがいいなって思うんだよね。・・今より高級な料理作って値段が高くなったり、話題になったりして繁盛しすぎたりしても、たぶんなんか違うなーって思っちゃうと思う。」
「そうだなあ・・。」
「私たち、この町を出ちゃうけど・・ここにさえ来れば、家に帰ってきた時みたいに、ちょっと懐かしくて、家の料理よりもちょっとしゃれてるごはんが食べられる。この店って、そんな感じがちょうどいいように思うなぁ。」

「・・うん。」

そう言った後は、ふたりとも、しばらく黙ってモクモクと食べていた。


今日はもう、お客さんは来ないだろう。

「わたしたち・・もうすぐ、卒業なんだもんね。」
なんとなく上の空な感じで、真央がつぶやいた。
そして、まだ食べ終わっていないのに立ち上がって、ロッカーの棚から自分の荷物を下ろしてきた。




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