マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~

Repos

文字の大きさ
91 / 110

91.遊、熱を出す。

しおりを挟む
未来と、真央は、歓送迎会の翌日に旅立って行った。
遊も、日差しが柔らかな温かさを連れてくる穏やかな日に、引っ越しをした。
ご両親と一緒に部屋を整えると言っていたが、せっかく手に入れた自分の部屋には引っ越しの日に一泊だけして、またルポのカフェに戻ってきて、加奈子と綾乃の教育係を買って出ている。

せっかくお別れ会をしたのに、なかなか出て行かない遊に、マキノは少々不愛想に尋ねた。
「本当の出発はいつなのよ?」
「真央たちと一緒に遊びに行く約束をしたんだよ。その日の前日に移動するよ。何もそんないい方しなくてもいいじゃないか。」
「未練がましいのはよくないのよ?前向かないとダメだよ?」
「わかってるってー。」



そうして、遊が出発すると言ったその日になった。

以前から原付は自分で乗っていくと勇ましい事を言っていたので、せめてきちんとお見送りしてやろうと思っているのに、何時に出発する気なのか、なかなか上がってこない。

「遊は、いったい何をしてるの?」
様子を見に行くと、まだ布団の中にいた。
「あら遊・・・具合悪いの?」
「んー・・昨日も具合よくなかったんだ。なんか頭痛いし・・・起きれない。」
「遊・・・もしかして今日のような日に、うちに来てから1年間で初めての風邪?」
「・・・そうかな。」
「何か食べられる?」
「いらない・・。」
「じゃあ、水分だけとっといて。病院につれて行ってあげるから。」
「病院より・・・寝てたい・・。」
「何言ってんの・・インフルエンザだったらどうするのよ。病院だけは行きなさい。」
「・・・。」

「遊は、ますます出発の日が遅くなってくね。ここに置いてあった加湿空気清浄器を持って行っちゃったからじゃないの?空気乾燥して風邪ひいたんじゃない?」
「んー・・もう・・。ぽんぽん言わないでよ。頭にひびく。」
「はいはい。スポーツドリンク飲んだ?」
「んー・・。」
「下に車回すからね。」
店はイズミさんにまかせて、遊を車に放り込み、マキノが病院へと走った。


総合病院では、受付ギリギリの時間だったが、思ったよりも早く順番が来て、おかげで待ち時間が少なくて済んだ。結果、インフルエンザではなかった。

「明日がデートって日に、なんでそうなるのかな。そうだデート・・遊、真央とはどうなってんのよ。ちょっと聞きたかったのよ。」
「なんともなってないって・・。」
「ウソおっしゃい。」
「・・・なんでウソ言う必要あるんだよ・・。」
「なんだか最近仲良く見えるんだもの。私にぐらい正直にしゃべんなさいよ。」
「だから・・頭にひびくんだってば・・・。」
「私にぐらいは報告しなさいよ。」
「・・・。」
多少は病気で弱っているのか、遊はそれ以上言い返してこなかった。


薬を飲んで静かになった遊を見下ろしつつ、夜はどうしようかと迷っていると、夕方に戻ってきたヒロトが遊の様子を見てくれると申し出があった。
「でも・・ヒロトにうつると困るなぁ。」
「オレ、気をつけますよ。絶対とは言えないけど、隣の部屋にいるだけだし、元気だし、疲れもたまってないし大丈夫と思う。」
「・・・そう?じゃあお任せするかなぁ。・・いったい遊は、いつから具合悪かったのかしらね。」
「んー・・・わかんね。」
「朝はヒロトが5時に出て行って・・・私、7時に来るけどもっと早い方がいい?」
「ほっといてくれればいいって、寝てるだけだし。」
「そう?」

「ヒロト、悪いけど、遊が何か食べられそうだったらおかゆでも作ってあげてね。」
「了解っす。」
マキノは気にしながら自宅へと帰って行った。






翌朝。マキノは、カフェに来るとまず階段を降りて行って、遊に声をかけた。
「具合はどう?」
「んー・・・。」
「何か食べられる?」
「・・・。」
「水分とらないとダメだよ。お薬も飲まないと。」
「んー・・・。」
額に手を当てると、昨日より少し下がっているようだが、まだ熱っぽい。
「何か食べられそうだったら言ってよ。」
「・・・。」
ゼリーとスポーツドリンクをお布団の横のお盆に置いて上がってきた。豚汁でも作ってあげようかな・・。

今日は真央や未来と4人でデートするはずだった日。かわいそうに・・。

ついていてやりたいと思うけど、そこそこお客さんが入ったので、しばらく遊は放置になっていたが、昼過ぎに真央がたずねてきた。
「あれ、いらっしゃい。」
「未来のデートのおじゃまになりそうだから、私もキャンセルしたんですよ。」
「あー・・・悪いねー。遊のやつ、だらしないよねぇ。」
「病気じゃしょうがない。気になるから覗きに来ちゃった。」
そう言って、いちごとキンカンとオレンジをマキノに渡した。
「ありがとう・・。様子見お願いしてもいいかしら?」
「はい。そーっと行ってきます。」
真央は静かに階段を降りて行った。




真央が遊の部屋を覗くと、薬が効いているのか、遊はスースーと寝息を立てていた。
髪の毛が汗でおでこにはりついて見えた。
真央は自分のハンドタオルを水でしぼって戻ってきた。

遊の寝ている横に座ると、手でそっと髪の毛をよけて、タオルで汗をぬぐった。
遊がピクッとして、うっすらと目を開けた。

「汗が出るってことは、熱が下がってきてるのかもしれないね・・・。」
と声をかけた。
「真央・・きてくれたんだ?・・今日ごめんな。」
少し眠そうな鼻にかかった声で遊が言った。
「いいんだよ。」
「また今度・・・・あそびにいこうな。」
「うん。」
「真央が・・・まだオレに飽きてなかったらだけど。」
「・・ふっ。他のいい男を見つけてなかったらね。」


「・・悪いな。今、ちょっと眠くて・・。」
「うん。わかってる。そのまま寝てて。すぐ帰る。」

真央は額の汗をぬぐったタオルをもう一度畳みなおして、遊の額に載せた。
「冷たいのが・・気持ちいい。」
「遊・・・手を貸して。」
遊は、また一度少し目を開けて布団の中から片手を出した。
真央は遊の手を取った。
「こうしてても寝られる?寒くない?」
「うん。大丈夫・・・。」
遊は、すぐにまた目を閉じた。
真央は、遊と手をつないだまましばらくの間、横に座っていた。

遊の手は少し熱っぽかったが、山は越えているように思われた。
遊がまたスースーと寝息をたてはじめたのを確認して、遊の手を布団に戻し、真央は階段を上って行った。






「遊、一度起きたけどまた寝ました。汗かいてたから、熱は下がって来てるのかもしれないです。ヒーターは弱くしてあります。食べてありましたよ、これ。」
真央はゼリーの空き容器をゴミ箱に捨てた。
「真央ありがとう。ゼリー食べてあったのね。あ、真央は今日実家?泊まるの?カフェオレ飲んでいけば?」
「ううん。いいです。実家には寄るけど、明日予定してた用事もあるから、今日のうちに向こうへ戻ります。まだ自炊も慣れてないし、頑張らないと・・。」
「そうなんだ。わざわざ・・。遊ったらホント罰当たりだわ。」
「ううん・・・。」
真央はくすっと笑った。
「お仕事中おじゃましました。じゃあまた、遊びに来ます。」
「いつでも帰って来てね。元気で頑張ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
マキノが玄関まで見送りに出ると、真央は手を振ってから、背筋をすっと伸ばして実家の方へと歩いて行った。

真央と入れ違いに、お客さんの車が入ってきた。
「いらっしゃいませー。」
「コーヒーふたつ。」
「はあい。」
常連のお客さんは、お店の外で注文してきた。
一緒にお店の中へと戻った。

カランカランと、玄関のベルが鳴った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

処理中です...