マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos

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カフェ開業へ

ひと月分の〆

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事業拡大の方は、3人に相談して押さえて押さえてと諭されはしたが、結局のところマキノのは何もせずにいることができず、まずは、開店の時間を早めるだけですぐ始められるモーニングをやってみることにした。
これは段取りさえできていれば手間もさほどかからないし、しい料理も複雑な事を考える必要ない。。スープだけ夜のうちに玉ねぎをみじん切りにしてしっかり炒めておけば、ランチの時にもそのまま使えるからいい。焦げ付く心配のないさらりとしたスープがいいな。

気合いを入れて早起きをして、7時半に店を開けた。
玄関の横の、メランコリックな木の机・・これは、春樹さんが、小学校の古い校舎の図工室で使っていたものを、持って来てくれた。
絵具やインクの染みがついていて、どこか愛嬌のある机に、葛蔓を巻いたものを置き、その上に「モーニングはじめました。」のプレートを立て掛けた。そして、その横に朝市に買い物に来ていたおばさんから、松ぼっくりをもらったから、それもいっしょに飾った。
・・元旦からもう随分経つけど、あれ以来春樹さんは来てくれないなぁ・・とちらりと考えた。


モーニングサービスを始めてみると、意外と近所のおじさん達に好評だった。
仕事前や10時の休憩に注文してくれる。作業服を着ているけれど、製材所かな?何をしている人かはよくわからない。
モーニングのプレートは一日中出してあるので、それに興味を示してお昼から来てくれたお客さんも、面白がってモーニングできる?と言ったりする。
ご要望に応えて、モーニングの注文を受けたらどんな時間帯でも出すことにした。

モーニングに使うパンを、ポムのママさんから教えてもらったパン屋さんから仕入れることになったので、同時にレジ横の商品棚に日持ちするタイプのパンを並べるようにもなった。
郁美さんが気を利かせて設計してくれたレジ横正面の棚に商品を並べると、店先がまた一段と華やかになった。
ルミエールからも焼き菓子を入れるようになって、どちらも売値は本店と同じにして、少しだけ割り引いてもらって仕入れている。
売れればリベートが入るし、お店で出すこともできる。残ったら引き取ることになるけど、どちらも日持ちするものだし、たまにはスタッフで分けることもできるだろう。



ある日、山本モータースの奥さんがお友達と一緒に来てくれた。
近所の奥さんどうしで、うちのカフェのことを話していたそうだ。だんだん自分のお店が周知されていくのが、とてもうれしい。

「山本さん、今日はご主人はご一緒じゃないんですか?」
「お店の留守番があるからね。」
「そっか。あっ、わたしお願いがあるんですよ。」
「なあに?」
「その辺を走るのに自転車が欲しいんです。」
「ちゃんとしたメーカーがいい?4~5万するから、ちょっと遠いけど大型スーパーとかホームセンターのほうが手軽に手に入ると思うけど。」
「そうなんですか・・。」
「・・・ボロでいいならタダであげられる物があるよ?」
「タダ?・・タダですか?いいな。」
「捨てといてって言われただけだから。状態はひどいよ?」
「・・走ります?」
「パンクしてるから走らない。ちょっと錆びてて、クモの巣とホコリまみれだけど、カゴがあって走るだけならちょっと修理すれば問題ないよ。」
「カゴがあって走るならそれでいいです。修理代はもちろんお支払するので、それでお願いします。」
「マキノちゃんて、こだわらない人なのねぇ。」
「えへへ。」

中古の自転車は翌日には修理ができていてマキノのもとに届いた。きれいに掃除してワックスまでかけてくれてあってピカピカになっていた。
これがあれば、朝市に買い物に行くのにちょうどいい。



ある日は、ポムドテールのオーナー夫婦もお昼に遊びに来てくれてランチをごちそうした。
「ごちそうになっちゃってよかったのかしら・・。」
「はい、試食会にもお呼びできなかったし。・・あの紹介してくださったパン屋さん、おいしいですね。」
「でしょう。」
「ポムさんは、いろいろ参考にさせてもらってるんですよ。」
「それは光栄。これからもがんばってね。」
「はい。ありがとうございます。」


うちのパートさんたちは仕事の覚えも早くて、おいしいコーヒーも淹れられるようになったし、その日の食事も作るようになり、マキノは、ちょっと長めに時間をかけて買い物したりもできるようになってきた。

日曜日は、主婦パートさんたちは、お休みすることが増え、高校生バイトは2人でにぎやかに仕事をしてくれていた。彼女らはいつも仲がいい。時給も半分でいいと言うが、片方が仕事している間に、イズミさん達が時折連れてくる子どもたちと遊んでくれたり、手持無沙汰になるとナプキンを畳んだりお客さんが増えると接客を手伝ってくれたり、結局こまごました仕事をしてくれるので、その時の様子で判断して、仕事をしてくれた分はちゃんとバイト代として支払ってあげようと、お手製タイムカードに書き込んでいた。店のために働いてくれたことには報いてあげなくちゃと思う。


・・忙しい日曜日が終わった。少し日が伸びてきた。
そして、もうすぐ開店して一か月になる・・。

・・春樹さん、・・来てくれないなぁ・・。





1月31日 はじめての月末。初めての〆。
今日は、敏ちゃんが志願してシフトに入ってくれていた。なんだか、朝からはりきっている。一旦、5時に仕事を終えて自分の家のごはんなど用事を済ませて「残業残業。」と言いながらもう一度来てくれた。

伝票とやシートや領収書を渡すと、座敷の真中のテーブルに陣取って、伝票類を仕分けし始めた。そして、自分で作ってきたエクセルのシートをUSBでマキノのパソコンに落として、データをどんどん打ち込んでいく。

マキノ自身は、今日も板長さんから借りているレシピを打ちこまねばならなかったので、敏ちゃんに経理のことはすべて任せて、座敷に背を向けた格好で、カウンターに座っていた。

敏ちゃんは、マキノがつけていたタイムカードを見て、「これは研修期間なのか、質労働時間なのかわかりにくいねぇ。」とつぶやいた。
「利益が出てなくても、ちゃんとお給料は払うので労働時間にしておいてくださいよ。」
マキノは、一か月働いているうちに、今月はもう、利益のことは度外視でいいと考えていた。
最初は、本当にお客さんが来るのかどうか不安だったので、時給も確約していなかったし、下手したら半分ボランティアのようなことになるかもと、バイトのみんなにはあらかじめ謝っていたのだけれども、今後の状態を予想してみると、,今は赤字を出してでもお給料を出し、有能な人材は確保しておくべきだという考えに至る。多少のマイナスは、将来への投資だ。

「うん。心配はいらない。とりあえず赤字にはなってない。」
と、敏ちゃんが言った。

「あのね、備品や厨房の道具やら改築の分は初期投資だから償却というか別になるんだけど・・、純粋に売り上げから仕入と経費を引いたら、結構利益は上がってるのよね。」
「そうなんですか!」
「うん。でもその、上がってきた利益をマキノちゃん含むみんなの人件費として等分してしまったらもちろんダメなわけで・・」
「・・・あ・・自分の人件費なんて、忘れてました。」
「マキノちゃん・・・。」
敏ちゃんは、ダメな子を見るような生暖かい目でマキノを見た。
「まだ1か月だから、これからどんな経費が湧いてくるのかわかってないでしょう? 返済もあるんよ? 税金とか税金とか税金とか。消費税なんて、すごい高いんだよ。もろに払わなくちゃいけないんだから。ちゃんと取っておかきゃダメなの。」
「・・はい。」

「それにしても,マキノちゃんの労働時間・・・・。今後どうする?」 
「どうするって、なんですか?」
「定休日とか、つくらないの?」
「あー・・・・。まぁもうちょっとノンストップで・・。」
「そういうと思ったけどさ。若いから体力あるんだろうけど、そのうち倒れるよ・・。」
敏ちゃんはメガネをくいっとあげてふうと息を吐いた。
「あ、コーヒー淹れますね。」
「うん。ありがとう。」
敏ちゃんはメガネの美人さんだ。

「ワンコインのモーニングも悪くないけど、ほらあの、焼き立てロールとかさ、ああいうクオリティの高いものは、コストもかかってるんだから、それなりの値段をつけるべきだと思う。普通の食パンなら今のままでもいいけど二種類にするとかさ。そもそもあの手作りハンバーグお得すぎるよね。ランチ1,000円とか安すぎるよ。おまけにマキノちゃんたら知ってる人見るたびにサービスしてたし。」
「・・いや、あれは、最初だけで・・・。」
「ルミエールの焼き菓子も始まったけどさ、これオマケとか、やっちゃダメよ。物には正当な値段と言うものがあるんだからね。」
「・・はぃ・・わかってます。」
・・・なんだか、自分の行動の傾向が読まれていて、何も言い返せない。

「ま、マキノちゃんのそういう姿勢が好きなんだけどね。・・・はい。一応給料計算できたよ。見てくれる?あくまでも目安だから、マキノちゃんが決めてくれたらいいけど。」
「ありがとうございます。」

敏ちゃんが入力した表を見て、出てきた数字の意味を一つづつ見てみる。
売り上げがどれだけあったか、材料費と経費がどれだけかかったか、去年のうちに投資した分はどれか、いろいろな項目がわかりやすくきれいに色分けまでされていた。
そこから人件費としてはどれぐらいの割合をあてられるのかを出して、一人ずつの時間を確認して、それから逆算してはじき出された今月のバイト代が出ていた。
ええっ・・・一番たくさん来てくれていたイズミさんですら10万に満たない?
「えー・・・こんなのでいいんですか?」
「そんなもんよ。」
「じゃあ、ちょっとボーナス足しておきます。」
「んもう。ダメって言ったばかりなのに。」
「・・・あっこれ。敏ちゃん自分の時間を減らしてるでしょう。こんなわけがない。なんてことするんですか。」

「あはは。よく気付いたね・・細かい所なのに。だって最初お給料いらないって豪語したんだよ、私。今月ぐらいいいと思うんだけど。」
「そんなの本気にしてませんて・・・。」
「これは参考にしてくれたらいいわ。私以外の時間はいじってないから、正当な金額だよ。バイトに来てるのってひとりひとりは毎日じゃないから、思ったより時間は少ないんだよ。だから、みんなもこんなにあるとは思ってないと思うよ。」
「そっかな・・・」
「それに、この調子で行けばちゃんと予定通り返済できると思うよ。」
「そうですか。よかった・・。」
その言葉を聞くと、少し肩の力が抜けた。

「敏ちゃんってほんとに頼りになりますね。」
「ふ・・照れるわね。厨房ではいまいちぱっとしないからね。私は。」
「そんなことないですよ。みんな素敵です。ありがとうございました。あとは、もっと仕事増やして、みんなをこき使って、時間を増やせば渡せるお給料も増えるってことですよね。」

「そうそう。でもね、ずっと思ってたんだけどさ、マキノちゃんはちょっと休憩入れたほうがいいよ。」
「そんなこと言ってられませんよ。」
敏ちゃんが、すこし肩をすくめた。
「とにかく、これからも一緒に、がんばろうね。」
「はい!」
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