2 / 9
私の愛した藍色の壺-藍色の壺の精霊-
しおりを挟む私の愛した藍色の壺-藍色の壺の精霊-
私はエグゼクト。人には、少しばかり神経質といわれる、痩せぎすの没落貴族だ。
私の古い館には、使用人も少なく、館の手入れも行き届かない有様だ。私自身も倹約を余儀なくされている。
そんな私にも幸せはある。骨董品のお気に入りの異国の藍色の壺だ。美しい曲線を描いた文様が、私を魅了して、手放す事を許さない。私は、こよなくこの壺を愛した。
…しかし、ある朝、気付くと私の部屋から、この藍色の壺が無くなっていた。使用人たちにも問いただしたが、皆一様に、分からないという。
私は、各部屋を、倉を、館の隅々までを、探したが、藍色の壺は見つからなかった。私は途方に、そして悲嘆に暮れた。
次の日、客が来たという。見知らぬ女性で、名も名乗らないので、追い返しますかと使用人に聞かれるが、私は一応会う事にした。何か手掛かりになる予感がしたのだ。
応接室で待っていたのは、壺と同じ文様入りの、藍色をした異国の着物を着た女性だった。その艶やかな黒髪は腰まで届き、眼は蒼く、鼻筋はすっきりしており、形のいい口元には僅かに笑みを浮かべている。
その女性は私を蒼い瞳で見つめていて、応接室で、私が対面の席に着くと、こう告げた。
「占いで、この館の主が、探し物をしているという卦がでたんです。私でよければお力になります」
…しかし、私には何故だか分かってしまった。いや、私の眼は節穴ではないというべきか。この女(ひと)は、私が無くした壺そのものだと。外見ではなく、その独特の雰囲気が私にそう感じさせた。
…なので私はこう言った。回りくどくなく、直球でだ。
「そういうあなたが、私の探し物なのではないのかな?」
その女性はにっこりとそれは嬉しそうに微笑んで、あっさりこれを肯定する。
「はい。その通りです。私は、貴方の想いで出来た、壺の精霊なんです。本当ですよ?」
▼
彼女、藍色の壺の精霊は、自らを「レイア」と名乗った。自分を作った陶匠の娘の名なのだという。
彼女はそれから、ここで働くようになった。優雅に紅茶を入れてくれたり、綺麗に館を掃除してくれたり、時には、異国の料理の腕を振るってくれた。
私は、彼女にたずねた。
「どうして、私にこんなに親切にしてくれるのかな?」
「貴方が、それだけ私を愛でてくださっていたからですよ」
彼女は、壺の精霊だと言っていたが、私は、そうでなくとも彼女を愛おしく思うようになった。あるとき、私は彼女を抱きしめて、言った。
「レイア。あなたが何であろうと構わない。私と一緒になってくれないか」
レイアの返答は、少し寂し気なものだった。
「嬉しいです。私は、貴方の愛で出来ていますから。でも、同時に壺の精霊でもあります。人間として抱かれるようには出来ていません。私は、壺の姿に戻ります。また壺として、愛でて頂けますよね?」
そう言って、彼女はひとしずくの涙を流すと、白煙と共に藍色の、異国の紋様入りの壺に戻った。彼女を抱きしめていた私は、その本来の姿ともいえる藍色の壺を、取り落とさないのがやっとだった。
…その後も私は毎日のように、その藍色の壺を愛で続けた。またいつか、美しい女性の姿の壺の精霊「レイア」になってくれないものかと、密かな淡い気持ちを持ち続けて…。
(了)
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる