こんな破廉恥な悪役令嬢が出てくるゲームって何?!

高瀬ゆみ

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7.アメリの魔具(3)



「……貴方、これで、何をするって言ったかしら?」

 アメリが持つ魔具から嫌な圧を感じて、思わず後退る。これを使って、私に、何を……?

「ジェシカ様を笑顔にして差し上げますっ」
「いや、怖いわ!」

 『電マ』を使ってどうやって笑顔にするっていうのよ⁉
 私にそんな趣味はないわ!

 ヴヴヴ……と恐ろしい音を立てる卑猥なブツを持って、アメリがにじり寄ってくる。しかも持ち方がまた怖い。見せつけるように例のブツを顔の横に掲げながら、ニコニコ笑って近付いてくるのだ。

 いくら愛らしいピンク色で、小さなハートがたくさん書かれた可愛らしいデザインであったとしても、前世の記憶がある私からしたら胡散臭すぎて逆に怖い。

「ジェシカ様逃げないでください! 絶対に後悔させませんから!」
「ひいぃっ、嫌よ! 来ないで!」

 じりじりと攻防を繰り広げる私たち。
 一歩大きく前に踏み込んだことでその均衡を壊したアメリが、例のブツを私の顔に近付けた!

「~~~ッッ!」

 震える丸い先端がすぐ目の前まで来て、声にならない悲鳴を上げる。
 すると、今の今まで空気と化していたレイス様が、ハッと意識を取り戻したようで、私たちの間に入り、アメリから私を守るように両手を広げた。

「ア、アメリ! それは一体何なんだ⁉ あのクランベル嬢が怯えるほどのものなのか⁉」
「えっ、これは全然怖いものではないですよ」

 ――……嘘よッ! 安心安全なものは、そんな卑猥な音を出したり震えたりしないっ!

 ブンブンと頭を横に振って否定する。後ろを向いて私の反応を確認したレイス様が、再びアメリの方に向かい合う。

「クランベル嬢にとってはそうでないようです。アメリ、この棒のような魔具は何に使うものなのですか?」

 レイス様の問い掛けに、アメリはパァッと明るい表情になると元気良く答えた。

「これは、『肩こりトレールくん』です! 肩はもちろんですが、背中から腰、お尻から足の裏側まで、ありとあらゆるコリをとってくれる優れモノなんです!」

 そして胸を張って自信満々に言う。

「これでジェシカ様の強張ったアソコの筋肉も、ふにゃふにゃのゆるゆるにして差し上げます」
「『頬』ってちゃんと言いなさい!」

 レイス様の後ろから声を張り上げる。誤解を与える言い方はやめてほしい。

 でもまさか、マッサージャーが本当にマッサージ目的のものとは思わなかった。とはいえ肩こりをとるための物だと分かったあとでも、この形態はまごうことなく例のアレにしか見えない。

「その魔具はわたくしには要らないわ。貴方のおかげで、もう、元気になったから……」

 これ以上視界に入れていたくなくて、目線をそらしながらアメリに伝える。アメリは残念そうに「そうですか」と言うと、震えるソレをポケットに戻した。

「……とりあえず、教室に戻りましょうか」

 レイス様の声掛けに無言で頷く。
 なんだかドッと疲れてしまった。家に帰ったら執事のクロードにリラックス効果のあるお茶でも淹れてもらおう。

 思考は既に帰宅後のティータイムに飛びつつも、その前にこれだけは言わなければと私はレイス様に声を掛けた。

「レイス様」
「……なんです?」

 毛を逆立てた猫のような彼の態度を気にせず、私は続けた。

「アメリとの間に入ってもらえて助かったわ」

 まさかレイス様が助けてくれるとは思わなかった。素知らぬ顔をするかアメリの味方をするとばかり思っていたのに。
 仲介せざるを得ないくらい、余程異様な空気だったんだろうか。

「そういえば、以前にも同じようなことがあったわね」

 レイス様の背中に守られながら、思い出したことがある。
 確か七、八歳の頃だったか。とある貴族のティーパーティーに参加したとき、野犬が庭園に迷い込んだことがあった。そのとき、たまたま第一王子と側近二人と共にいたのだが、レイス様が私を庇うように前に出てくれたのだ。
 エドワード殿下を守るゴーシュ様と、そして私を守ろうとするレイス様。レイス様の小さな体は緊張で震えていたけれど、とても心強かったのを覚えている。
 そのときのことを思い出して、小さく微笑む。

 それだけで終わればよかったのに、あのあとクロードにその話をしたら、「……公爵令嬢たるもの一人で立ち向かえるようにならなければ」とか何とか言われ……
 やらされた護身魔法の特訓が大変だったことまで思い出してしまい、少し憂鬱になった。

 レイス様は驚いたように目を見開くと、それからフンと顎を逸らした。

「まったく……貴方はいつも、勝気で自信家で、気位が高くて可愛げがまるでなくて……」

 もしかして私は喧嘩を売られているのかしら?

「だから貴方が元気でないと、こっちは調子が狂うんですよ」

 レイス様は「失礼」と私に一言声を掛けると、そっと手を伸ばした。
 レイス様の親指が目元に触れる。何かを拭うように動き、そして離れていく。壊れ物に触れるかのような手付きだった。
 何が起きたのか分からず首を傾げた私に、レイス様は吐き捨てるように言った。

「ずっと汚れが付いていて気になっていたんです。淑女なら身だしなみくらい気にした方が良いんじゃないですか」
「貴方、わたくしに喧嘩を売っていて?」

 レイス様の実家である侯爵家に、抗議の文を出した方が良いだろうか。
 本気でそんなことを考えていた私は、レイス様の耳が赤く染まっていることに、もちろん気付いてなどいなかった。


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