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8.第一王子との約束
アメリが転校してきて、早くも三ヵ月が経った。アメリはどうやら積極的に攻略対象者との交流を深めているらしい。今日も取り巻きのご令嬢が憤りながら教えてくれる。
「あの女はここ最近ずっと生徒会室に入り浸っているようですわよ」
「まあ! 生徒会メンバーでもないのに図々しい!」
「男漁りに必死すぎではなくて?」
「きっとエドワード殿下はお優しいから、あの女狐を無下にはできないのですわ」
「レイス様とゴーシュ様もよ」
「あの方々の婚約者になれるとでも本気で思っているのかしら?」
今日も今日とて、アメリへの文句が止まらない。ヴェローラ国の貴族の子息子女は、十から十五歳の間に婚約者が決まることが多く、この子たちにも決まった婚約者がいる。
自分の婚約者がアメリにうつつを抜かしたわけでもないし、そこまで言わなくても……と思うのだけれど、自分の婚約者と憧れの方に対する感情はまた別らしい。
一通り文句は出尽くしたようだしそろそろいいかと、話題を変えようとしたときだった。
「エドワード殿下の婚約者筆頭候補は、ジェシカ様だっていうのに!」
一人の少女が声を荒げたまさにそのとき、アメリを連れて第一王子と側近たちが教室に入ってきた。
「…………」
――き、気まずい……
四人の視線が先程発言したご令嬢に集まる。彼女は憧れの人たちの視線を浴びて、あわあわと口を動かした。
こんな中で声を出すのは嫌だなと思いつつ、仕方なく席を立つ。
「ご機嫌よう」
側に寄ってエドワード殿下に挨拶すると、途端に側近たちが威嚇するように私を見る。
……私、そんなに悪女に見えるのかしら?
レイス様から指摘を受けたときにも思ったけれど、もしかしたらヒロインのアメリが来てから、より一層悪役令嬢オーラが増しているのかもしれない。第一王子の婚約者の座を狙っているように見えるのだとしたら、言動には注意しなければ。
優雅に微笑みながらエドワード殿下に向かい合う。
「やあ、ジェシカ嬢。ご機嫌いかがかな?」
「変わりありませんわ。ところで、今日の放課後お時間はございますか? 父から殿下宛ての封書を預かっておりますの」
用事が封書だけであれば、この場で渡して終わりにできる。けれど敢えて放課後を指定したのは、エドワード殿下にアメリとの仲を邪魔するつもりはないのだと伝えるためだった。
人目があるところでそれをしないのは、波風立たせないようにするため。それでなくても爵位の低いアメリが第一王子たちと仲良くしていることに反感を持つ者は多い。
今はまだ陰口程度で済んでいるけれど、エドワード殿下の婚約者筆頭候補と言われている私まで表立ってアメリを応援しだしたら、裏で手を出す者が現れかねない。
(悪役令嬢ほどじゃないにしろヒロインにもバッドエンドはあるだろうし、目立つことは避けた方がいいわよね)
そう思ってのことだったが、私が父の名前を出すと、何故かレイス様とゴーシュ様が反応した。
「殿下、差し支えなければ私も同席いたしますよ」
「ああ。護衛として側にいよう」
……私、まさか第一王子を襲撃するとでも思われているのかしら?
二人きりにしたら危ないと認識されているのだとしたら、大変遺憾である。もし暴漢が現れても、淑女として自分の身を守り、相手を撃退するくらいの力しか持っていない。
眉をひそめた私に対して、エドワード殿下はくすりと笑って言った。
「フフ、ジェシカ嬢の婚約に関する話だと思ったのかな……大丈夫。付き添いはいらないよ」
そして私に向かって優しく微笑んだ。
「構わないよ。授業が終わったら生徒会室に来るといい。人払いをしておこう」
「ありがとうございます」
同意が得られればこれ以上長居をするつもりはない。お辞儀をして席に戻る中、エドワード殿下がレイス様たちに「身の潔白のためにドアは開けておくよ」と言うのが聞こえてきた。
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