こんな破廉恥な悪役令嬢が出てくるゲームって何?!

高瀬ゆみ

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10.第一王子との関係



 放課後になり、先に教室を出ていたエドワード殿下を追い掛ける形で生徒会室に入ると、彼は正面の執務席で書類に目を通しているところだった。
 窓から差し込む光に照らされて、エドワード殿下の金色の髪がキラキラと輝いている。いつもは笑みを湛えているけれど、手元の紙に視線を落としている今は笑みはなく、そのせいか甘い顔立ちの中に男らしさを感じさせた。

 まさに王子様、という容貌。乙女ゲームの舞台であるこの世界で、メインヒーローであることは間違いない。

「ああ、よく来たね」

 許可を得て机の前まで進むと、鞄から封書を取り出す。手渡すと、エドワード殿下は一瞥して手に魔力を込めた。父からの預かり物は、指定された者しか開けられないようになっている。だから何が書かれているか分からないけれど、エドワード殿下は中身を見て小さく笑った。

「いやあ、貴方に持ってきてもらえて助かったよ。こちらの要求ははねつけられるかと思っていたからね」
「? 父はそんなことしないと思いますが」

 何のことだか分からず小さく首を傾げる。けれどエドワード殿下はこれ以上この話を続けるつもりはないようだったので、私は自分の目的のために口を開いた。

「恐れ多くも、巷ではわたくしが殿下の婚約者筆頭候補と言われているようですが」

 一度言葉を切ってエドワード殿下の様子を伺うと、「うん、そうだね」と同意の声が上がる。
 本人からそう認識されていることを喜ぶべきなのか、そのうえで婚約者に選ばれなかった事実を悲しむべきなのか、複雑な感情を抱きながら私は話を続ける。

「わたくしにそのような資格はございませんし、殿下のご意向を邪魔するつもりもありませんわ。殿下の望まれる方が婚約者となれるよう、心から応援しております」

 だからアメリを婚約者にしても大丈夫ですよ。そう伝えたつもりだった。

「……」

 柔らかな雰囲気を纏っていたエドワード殿下の動きが止まる。わずかに目を見開いて呆然とした様子を見せたと思ったのも束の間、衝動を抑えるように自らの髪をかき上げた。

 ……どうしてだろうか、殿下の背後から黒いオーラが見える。突然の変化に身を固くした私に、安心させるようエドワード殿下はニッコリ笑った。

 でも、それが逆に怖い!

「ジェシカ嬢は、私が真に求める人と婚約することを望んでいるんだね?」

 エドワード殿下はゆっくり立ち上がると、私の方に近付いてくる。優しい声色のはずなのに、どこか不穏な圧を感じて思わず後退る。
 少しずつ距離を詰められながら、じりじりと後ろに下がる。

 トン……と背中に冷たく硬い壁を感じた。突然辺りが暗くなったように感じて、下を見ると影ができている。見上げると、エドワード殿下がすぐ目の前にいた。

 窓を背にしているため、影を纏ったエドワード殿下の顔はうっすらと暗い。口元に笑みを浮かべているけれど、彼の青い目は笑っておらず、真っ直ぐに私を見つめていた。

 どうやら気付かないうちに彼の地雷を踏んでしまったようだ。
 緊張から背中に汗が伝う。

(な、なんで? 私、何かした⁉)

 女性の中では比較的背が高い方ではあるけれど、男性と比べたら遠く及ばない。壁に追い詰められて、エドワード殿下に上から見下ろされると、まるで囚われてしまったような錯覚を覚える。
 
 黒いオーラをまとって詰め寄るその姿は、普段の優しい王子様像からは想像もつかない。
 どこか危うい気配を感じて、いつでも護身魔法を使えるようそっと手を動かした。

「あの……?」

 戸惑う私によく言って聞かせるように、彼はゆっくりと言葉を発した。

「私も、キミと同じだよ。私が、心から望む人を、婚約者にしたいと思っている」

 ――お、同じですねぇ~~あははははぁ……とは言えない雰囲気がある。

 本当にどうしたらいいか分からなくなってしまって、困ったようにエドワード殿下を見上げる。彼は一瞬顔を強張らせて、そして諦めたように眉を下げた。

「殿下」

 どうしてか痛ましげな顔をしているように思えて、何を言うべきか全く分からないのに咄嗟に声を掛ける。
 エドワード殿下はパッと空気を変えると、一歩下がりいつもの笑みを浮かべて言った。

「そういえば、クランベル家にいるキミの執事は元気かな?」

 突然の話題転換に驚きながらも、先程のどこか怖い雰囲気に戻ることを恐れて、コクコクと頷く。
 以前、王宮に赴いた際に従者として連れていったことがあるからきっとクロードのことだろう。

「ええ、変わりありません」
「そう。なら良かった。――そういえば。頂き物があるのだけれど、私は使わなくてね。どうしたものかと困っていたんだ」

 そう言って、エドワード殿下は自身が使っている机の引き出しを開けると、中から木箱を取り出した。私のところまで戻ると、両手程の大きさの箱を差し出す。

「これをキミの執事にあげるよ。ぜひ使ってくれたら嬉しいな」
「は、はあ」

 見た目に反してずっしり重い木箱を受け取る。

「クランベル公爵にもよろしく伝えてほしい」

 今が退室のチャンスだと殿下からの意向を正しく受け取った私は、礼を欠かない程度に急いで生徒会室を後にした。

 アメリとの仲を応援したかっただけなのに、どうやらエドワード殿下を怒らせてしまったらしい。
 婚約者筆頭候補として幼い頃から知っているけれど、あんな姿を見るのは生まれて初めてだった。

(まさかアメリと上手くいっていないのかしら?)

 思うようにアメリと親交を深められていない中で、軽はずみに婚約者の話題を出されて気に障ったのかもしれない。

 気分と同じように重たい荷物を抱えながら、私は通信魔法を使い、帰宅したら速やかに部屋まで来るようクロードに言いつけた。


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