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セシリアの妹 1

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アルデンヌ王国の王宮は、緑豊かな美しい造りになっている。
正門を過ぎると噴水庭園が目の前に広がり、その奥には左右対称の宮殿がそびえ立つ。正面からは見えないが、宮殿の奥には毎年薔薇を楽しむことができる庭園がある。
薔薇園を越えて更に進んだ先に、木々に隠れるようにして小さな離宮が建っている。

離宮の存在を知っている者はそれなりにいるが、足を踏み入れる者は滅多にいない。もし誤って来てしまったとしても、近衛兵が常に警備しておりそこから先に進むことができない。
広大な庭園の一角にポツンと建っている離宮。平屋建てで装飾の少ない外観は、執務と王族の居住を兼ねた華美な宮殿に比べるとまるで小屋のようだ。
そんな小さな離宮で、アルデンヌ王国第一王女セシリアは暮らしている。

離宮には護衛や専属の侍女はいるものの、家族と呼べる者は誰もいない。
父は宮殿で暮らしており、母は既にいない。産後の肥立ちが悪く、第一子であるセシリアを産んですぐ母はこの世を去ってしまった。
侍女や教師たちは一人で暮らすセシリアのことを『可哀想だ』と言うけれど、物心が付く頃からずっとこの生活を続けているセシリアにとってはこれが普通だった。



目が覚めて体を起こしたセシリアは、んーっと体を伸ばすとベッドから降りて小窓を開けた。
気持ちの良い爽やかな春の風が部屋に入ってくる。

「晴れて良かったわ」

今日はヴェネットの孤児院への慰問を予定している。勉強熱心な子供たちの顔を思い浮かべて、自然と笑みが零れる。

セシリアはベルを鳴らして侍女を呼ぶ。
王女が着るにしてはシンプルすぎるくらい装飾の少ないドレスに着替え、背中の中程まであるブロンドの髪を侍女に結ってもらっている時だった。
持ち場を離れていた侍女頭のカーラが慌てた様子で部屋に入ってきた。

「姫様、大変でございます! レベッカ殿下が今からこちらにお越しになると、殿下付きの侍女から連絡がございました!」

「レベッカ様が? どうして急に……」

そんな話は聞いていない。
セシリアが侍女たちを見回すと、彼女たちは一斉に首を横に振った。
カーラは言い辛そうに口を開く。

「なんでも、レベッカ殿下の思い付きで急に決まったとか」

「そう……。分かったわ。急いでお出迎えの準備をしましょう」

セシリアは侍女らに指示を出して、王女を迎え入れる準備に取り掛かった。
居住スペースとは別にある応接室に花を飾り、ワゴンにお茶の用意を、そしてセシリアは王女との面会に相応しいドレスに着替え直す。
着付けが終わったのとほぼ同時に、侍女から来客を告げる声が掛かった。

セシリアがノックをして応接室に入ると、革張りの黒いソファーに座っていたレベッカがチラッと顔を上げた。
セシリアより三つ下の妹は、濃いブルーの派手なドレスを身に着けていた。
大きくウェーブがかった焦茶色の髪を高く結い上げ、花をモチーフにした大振りの髪飾りを着けたレベッカは、朝から完璧な装いだった。
華やかで気の強そうな顔立ちに、豪華な衣装はよく似合っている。

レベッカはセシリアのドレスを一瞥すると鼻で笑った。

「お姉様ったら、随分冴えないドレスを着ているのね」

上から目線で物を言うレベッカに、セシリアはグッと唇を引き結ぶ。
来客があるからとこれでも着替えたのだけれど、流行を押さえた最新のドレスしか身に着けないレベッカにはそう見えたのだろう。

「そんなダッサいドレス、今時着ている人なんてお姉様くらいよ。それに、部屋に飾ってあるこの花も、もう少し華やかなものにしたらどう?」

「……突然のご来訪でしたので、準備が行き届かず申し訳ございません」

「まあ、お姉様のところで素晴らしい接客を求めるなんて無理な話よね」

正式な先触れなく突然やって来たことに対する、セシリアの遠回しな苦言に気付いているのかいないのか。レベッカは持っていた扇子を広げて口元を隠すと、思わせぶりに目を細めた。

「だって、お姉様はこんな『僻地』にいるんですもの」

「……ッ」

明らかにこちらを馬鹿にしたレベッカの発言に、セシリアは足の指先に力を入れることで何とか堪えた。



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