冷遇された王女は隣国で力を発揮する

高瀬ゆみ

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精霊との出会い 2

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あれは、レベッカが離宮に来るようになってすぐのことだった。


セシリアを産んで間もなく母が亡くなり、母の生家であるビューロウ伯爵家が爵位を剥奪されて以来、セシリアはずっと離宮で暮らしている。
父が後妻を迎えてからセシリアには腹違いの妹と弟ができたが、顔を合わせる機会はほとんどなかった。

セシリアが八歳、レベッカが五歳の時――レベッカはセシリアに会いに、初めて離宮にやって来た。
ほとんど会うことのない妹が遊びに来たと聞いて、まだ子供だったセシリアは大いに喜んだ。
会う人は制限され、決められた場所にしか行くことが出来なかったセシリアには、三つ年下の妹がとても可愛く見えた。

「よく来てくださいました!」

セシリアはレベッカを応接室に案内して、急いで侍女にお菓子を用意してもらう。
ソファーにちょこんと座ったレベッカは、キョロキョロと辺りを見回すと初めての離宮を興味深そうに眺めていた。

「レベッカ様が来てくださって私はとっても嬉しいのだけど、えっと、大丈夫なの?」

父の後妻にあたる現王妃が、セシリアのことを煩わしく思っているのを知っている。
嫌われている自分と最愛の娘が会って話をしたら、王妃は嫌がるのではないかと思ったのだ。
そんなセシリアの心配に対して、レベッカはくりっとした吊り目がちの瞳をまたたかせて言った。

「大丈夫って、何のこと?」

「ここに来たら王妃陛下に叱られてしまうんじゃないかしら?」

「平気よ。だって私、お母様の代わりにお前に教えてあげるために来たんだもの」

「え?」

レベッカは幼い子供特有のふっくらとした柔らかな頬に、無邪気な笑みを浮かべて言った。

「お母様とおじい様がね、お前の話をしていたの。いまいましい、母親のように死ねばいいのに、身の程を分からせてやりたいって。だからね、何も分かっていないお前に、私が教えてあげるのよ」




それからしばらくして、レベッカはまたセシリアに会いにやって来た。
幼いレベッカは、誰かが言っていたセシリアへの悪口を、そのまま本人に伝えてくる。
分かっていないからこそ躊躇いなく出てくる残酷な言葉の数々に、セシリアがどうするべきか困っていた時だった。

ソファーに座り、お菓子を食べながら悪口を言うレベッカの頭に、何か光輝くものが見えた。

「?」

レベッカの焦茶色の髪に、何やら金色の光がくっ付いている。

あれは何だろう。
目を凝らしてよく見てみると、それは絵本に出てくる妖精のような姿をしていた。
金色の髪の、小さな男の子。手のひらほどの大きさの男の子が、腰に手を当てて怒っている。
声は聞こえないけれど、レベッカに対して何やら文句を言っているように見えた。

けれど、一向に気付かないレベッカに業を煮やした少年は、彼女の髪を一房掴むと思いっきり引っ張った。

「あっ! ダメよ引っ張っちゃ!」

その様子を見ていたセシリアは、思わずソファーから立ち上がり制止する。
センターテーブルが邪魔をして直接触れることはなかったが、突然自分に手を伸ばしてきた姉にレベッカは驚いたようだった。

「キャッ! なっ、何するの!?」

警戒して体を引くレベッカを見て、我に返ったセシリアは慌てて弁解する。
妖精や精霊の類なんて今まで見たことがなかったが、その時はまさか、他の人に見えていないとは思いもしなかった。

「ご、ごめんなさい。何かが貴方の髪を引っ張っていたものだから、つい……」

「はあ~~っ!?」

部屋の中で待機していたレベッカ付きの侍女達が、その声を聞いて何事かと駆け寄ってくる。

「そんなこと言って! 本当はレベッカのこと、叩こうとしたんでしょ!」

「違うわ! そんなことしない! ただ、妖精のようなものが、貴方の髪を引っ張るのを見て……」

「妖精っ!?」

レベッカのヒステリーはどんどんエスカレートしていく。
動揺したセシリアは、どうしたらレベッカが落ち着いてくれるのか分からず視線を彷徨わせた。

「そんなものいないって、レベッカだって知ってるよ!」

「で、でも……私は……本当に……」

「気持ち悪い!!」

レベッカはソファーから立ち上がると、セシリアに向かって指を差した。

「さっきから何言ってるの!? 変だよ! おかしいよ!!」

――その後は大変だった。

話を聞いた父が宮廷医を呼び、セシリアは医師の診察を受けることになった。
王妃はここぞとばかりに騒ぎ立て、セシリアを王都から遠く離れた場所で静養させるべきだと父に提言したらしい。

頭や精神に異常があるのではないかと疑われ、散々な目に合ったセシリアは、この光についてもう何も考えないことに決めた。




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