パン屋の息子

玖由俐

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パン屋の息子

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 ボクは今日もパンの焼ける匂いで目を覚ます。
 ボクのお父さんはパン屋さん。1階がお店で2階がおうちになってるの。ボクは調理場とお店の中には入れてもらえないから2階の窓からお客さん達を見るのが日課。お父さんのパンを持って笑顔で帰って行く人達を見るとボクも嬉しくなっちゃうんだ。
 でも、今日は寝過ごしちゃったみたいで、お父さんに、
「今日は重役出勤だなぁ」
って笑われちゃった。ボクは朝ごはん兼昼ごはんを急いで食べて、はなちゃんを迎えに行く。はなちゃんは、おむかえのお花屋さんの看板娘で色白の美人さんなんだ。ボクの彼女なんだよ。
 今日も商店街でデートをする。お魚屋さんのおばあちゃんはおやつをくれるから大好き。でも、新しくできたお店の人は箒を持って追いかけてくるからキライ。お花屋さんの前で、はなちゃんと別れてお家に帰る。でも、おうちの中には入らずにお店の前のベンチに座る。ボクの特等席なんだ。お気に入りのクッションも置いてあるの。
 お店から出てきたお客さんが、可愛いって頭を撫でてくれるんだ。でも、ボクは男の子だから可愛いじゃなくてかっこいいだと思うの。失礼しちゃうわ。
 暗くなってきたらお店はおしまい。お父さんに、
「クロ、おいで」
って呼ばれたから
「にゃーん」
って返事をしてお父さんの胸に飛び込む。お父さんの胸の中はあったかくって大好き。喉もゴロゴロしちゃう。もちろん、お父さんも大好きだよ。
 そんなお父さんは、はなちゃんのママが気になってるみたい。はなちゃんのママも満更でもないみたいだから、今度きゅーぴっとしてあげようと思ってるんだ。内緒だよ?
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