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勇者の心残り
しおりを挟む「本当に私達はついて行かなくていいのか?」
「父上だけでは不安だろう?」
なんて言って心配する兄達を必死に説得して公務に行かせ、ようやく私は父とアカリさんが幽閉されている部屋へと向かった。
それは王宮の離れにある高い塔の一室にあり、その部屋までは一方通行であるため、警備が大変しやすいらしい。
だが、今回ばかりはそれが仇となった。
私達がそこに行くと、塔の入口を見張っていたらしい衛兵が二人、気を失って倒れている。
この塔までにはいつもより多く人員を割いて警備にあたらせていたが、このように倒れている人間は一人もいなかった。
ということは、王宮の抜け道や警備の配置をよく知るものの犯行だろう。
ここまでうまく入り込むことができれば、あとは塔の中の少数の衛兵を抑えればやすやすと中に侵入することができる。
勿論衛兵だってそう簡単に敗れることのない人材を集めていた。
だとすると、
「確か、騎士団長子息のジェラール様は…幼い頃から彼の父である宮廷騎士団長について王宮には何度も足を運んでいたはず…」
きっと彼がアカリさんに何らかの接触を図ったのは間違いないだろう。
「ああ、彼ほどの手練であれば、衛兵を伸すことも可能だろうな。しかし…騎士団長であるジャックですら彼を抑え込むことはできなかったというのか…」
苦虫を噛み潰したような表情で父がそう言う。
ジェラール・モーガンのアカリさんに対する執念は、私達が思っているよりも凄まじいものなのかもしれない。
「まだ犯人が中にいるやもしれません。私が先に確認してきますので、お二人はこちらでお待ちください」
着いてきていた父の護衛が中を確認したが、中にいた兵もやはり全滅で、犯人はおろかアカリさんの姿もなくなっていたという。
そして、アカリさんと彼女の逃亡を幇助した犯人の捜索が始まった。
モーガン公爵家に連絡をとると、彼は謹慎中の身でありながら、家を抜け出してしまっているという返事があり、十中八九今回の件は彼の仕業で間違いないという結論に達した。
「ミリア、お前は自室でことが収まるまで休んでいなさい」
「ですが、私にも何かできることは…」
とても蚊帳の外になんていられないと、そう父に訴えるが無駄だった。
「私はお前に何かあったなら、とても冷静ではいられない。私のためにも、頼むミリア」
「……わかりました」
切なげにそんなことを言われてしまえば、嫌でも納得するしかない。
そうして私は渋々部屋に閉じ込められるのだった。
スツールに腰掛け、頭を悩ませる。
いったいジェラール様は何がしたいのだろう。
出会ってひと月しか経っていない彼女を、王家に刃向かってまで救おうとする彼の気持ちがわからなかった。
それ程まで彼女に惹かれているのだろうか。
それとも、私が考え込んでもちっともわからない彼の気持ちを、アカリさんはわかってあげることができたというのか。
コンコン、
ドアをノックする音が聞こえる。
「ミリア、入ってもいいかな?」
「…ハルト様?」
了承すると扉が開き、少し息の切れたハルト様が立っていた。
「アカリが逃げ出したってユリウス殿下から連絡をもらって…」
「ええ、どうやらジェラール様が彼女を連れ去ってしまったようなのです」
私がそう言うと彼はどこか申し訳なさそうな表情を浮かべて、その整った眉を下げる。
「ごめんね、ミリア…面倒をかけてしまって。それに、君を危険な目に合わせてしまってる」
「ハルト様のせいではありません」
「ううん、僕のせいだよ。僕がこれまで親に逆らえず、アカリにとって都合よく振舞っていたから…それが、彼女の中の歪みをを増長させてしまった」
たかだかひと月の付き合いの私より、彼の方がちゃんと彼女のことを理解しているのだろう。
だから、後悔している。
自分の選択が彼女へなんらかの影響を及ぼして、結果的にこのような事態を招いてしまったことを心の底から責めているのだ。
「ハルト様、私はハルト様が日本にいた頃のことをあなたの話でしか知りませんから何とも言えませんが…この道を選んだのは、彼女ですし、彼女に手を貸しているのはハルト様ではなくジェラール様ですよ?」
そしてきっとジェラール様だって、自分で選んだ正義に従っているだけなのだろう。
「だけど、僕がしっかり自分を持っていたら、アカリがここまで暴走することは…」
「ハルト様はアカリさんの保護者ではありませんわ。いくらあなたが彼女の人間性に影響を与えてしまったからといって、それを正すのは彼女の親の務めです。私から言わせてもらえば、あんな状態のアカリさんを放っておいたのは一重に彼女のご両親の怠慢です」
むしろ彼女に異性の友人や恋人を作る機会を尽く邪魔されてきたハルト様は、歴とした彼女の被害者に他ならない。
ハルト様が彼女を止められなかったからと言って、彼女が罪を犯してもいい理由はどこにもない。
…ハルト様と初めて結ばれた人間が自分であることに喜びを覚えている私が言えたことではないけれど。
「これは、私がハルト様を愛しているから、贔屓目が入っているとあなたは思うかもしれませんが、例えそうだとしても…もうそれでいいじゃないですか」
「…ミリア」
「だってあなたは私と共に、この世界で生きていくのでしょう?」
自分の言っていることが無茶苦茶なのはわかっていた。
だけど、ハルト様の心の憂いが少しでもなくなるのならなんでも良かった。
「これは職権乱用ですが、この国の王女があなたは悪くないと言っているのですよ?国民が王族を信じなくて、何を信じるんですか」
堂々とそんなことを言う私を彼はポカンとした表情で見つめていた。
「…すごいね、君は。僕がただうじうじ悩んでいたことを、こうもあっさりと…なんだか悩んでいたのが馬鹿らしくなって来たよ」
ハルト様はそんな言葉を口にして、最後には少しだけ吹っ切れたような笑い声を零した。
私の滅茶苦茶な理論でも、どうやらハルト様を元気づけるのには多少なりとも効果があったらしい。
「あれは、僕が元の世界に残した最後の心残りなのかもしれない」
「それは…すっきりしなきゃいけませんわね?」
「手伝ってくれる?」
「ええ、勿論です」
お父様、ごめんなさい。
私はやっぱり大人しくなんてしていられません。
部屋の前には見張り役がついていたため、私はハルト様に抱えられて、三階にある自室の窓から部屋を抜け出すのだった。
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