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千秋楽

第2話

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「織ちゃんは今日も絶好調だね」

玖瑠美が相変わらずなと言わんばかりの表情を見せてそう言う。

「だって千秋楽だよ?今回の初全国ライブの集大成じゃん?」

因みに年は違うが全員タメ口で、又、お互いを愛称で呼んでいる。基本的にモープロ業界では、その業界に入った年数ではなく、チーム発足時点の上下関係を表している為、チーム内に年の差があろうがなかろうがタメ口で話す事になる事が多い。逆にどんなに年下であろうが、早めにデビューが決まっている場合、その方には基本は敬語で話さないといけない。ここで言う”基本”は、友人関係で、それに関してはタメ口を許している。まぁチーム発足は若い順から基本は発足していく。先にデビューを決めている人達は殆ど年上なので、必然的にそれなりの喋りになる。

「疲れてないの織ちゃん?」

私はそう尋ねた。

「疲れてるよそりゃー。でも今は何故かアドレナリンが高ぶって」

そう言うと”ワクワク”と小声で言いながら両腕を両脇にリズムを取りながら何度も挟む。

「織ちゃんのその元気の源はなんだろうね?」

再び玖瑠美が尋ねるが、当の本人は”分かんない”と言いつつまだワクワク行動をしている。

「あの織ちゃん、メイク出来ないから一先ず落ち着こうか」

「すみませーん」

ワクワク行動が収まるのを10秒ほど待っていたメイクさんは、終わる気配がなかった為に注意が入る。そう言われて止めるが、あまり反省していない様子の伊織。メイクをされながらニヤニヤしている。『笑顔が一番』を合言葉にしている自分より笑顔満開に、この言葉を贈呈したいと思った今日この頃。

「よし、大丈夫ですよ」

私達は既にメイクが終わり、後ろのソファーでゆっくりしていた。結局、ニヤニヤしたせぃでメイクに時間が掛かった伊織が最後となった。

「じゃー集合」

「「はい」」

伊織がメイク場所を立った合図で、リーダーの玖瑠美が声を掛ける。そして円になり、その園の中心に手をパーにして指先を当てる様にくっ付ける。

「さっき織ちゃんが言った通り、今日で長かった初ライブも最後、今までの集大成になります。それぞれ思う物があると思いますが、先ずはこの千秋楽を悔いなく歌って踊り切りましょう、せーの!」

「「虹色、ストーリーーー‼フーーー」」

そう歌の題名みたいな掛け声を言いながら、先程まで差し出していた手を一斉に上に上げ、”フー”の所でその手を振りながら下ろす。これが所謂私達の『円陣』だ。
因みにこの円陣を考えたのはリーダーでもある玖瑠美がこのツアー時に開発した。虹色は文字通り私達を意味するレインボー。ストーリーに関しては、これから私達の物語が始まる意味を表しているらしく、”フー”の所は完全にオマケ。実際に初日にやって、上げた後にどうするか考えた末に即席で編み出した。これを含めて満場一致の案であった。
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