本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転[承]乱結Λ

22話 悪漢と悪女。

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「我が方に、異端の疑義でも生じましたかな?」

 照射モニタに立つ宰相エヴァン・グリフィスの背後には、座するべきあるじを喪った白銀の玉座が物哀しく映っている。

「案ずるな。我は寛大である」

 対する教皇アレクサンデルは、腰まで沈むソファに巨躯をうずめ菓子を頬張っていた。

「──ほほう。ならば、何故なにゆえにカナン星系を罷り通られるのか?」

 聖都アヴィニョンを発った三万隻の艦隊が円筒陣を組みポータルを抜けたのは数刻前の事だ。

 教皇率いる緋色の聖骸布せいがいふ艦隊は、女神ラムダが人界に知ろ示す力の象徴であり、銀獅子艦隊と言えどもおいそれと手を出せない。

「まさしく罷り通るのみである。其方は目を伏せ耳を覆っておれば良いのだ」
「──偽りの都へ参られるおつもりか?」

 そう言ってエヴァンは目を細めた。

 帝都フェリクスに新生派勢力の諸侯が集おうとしている──という情報は、当然ながらエヴァンの元にも届いている。

 聖骸布せいがいふ艦隊はユディトポータル方面に航行を続けており、彼等の目的地は火を見るより明らかだった。

「穢れ仕事は我ら俗人のものですぞ。聖下には、女神の慈悲と教会の権威にて、世を照らす行に専念して頂きたいものですな」

 政治に介入するなというエヴァンの苦言に対し、アレクサンデルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「ふむん、それはそうと、今日は友柄の姿が見えぬな」

 帝国が二つに割れて以来、レオ・セントロマはエヴァンの側を片時も離れなくなった。

 天秤衆とエヴァンの蜜月ぶりを喧伝すると同時、教皇アレクサンデル一派に対する牽制でもある。

「我が方の緋色に怯え、尻でも押さえておるのか?」
「いいえ。聖レオは常闇を照らしに参られたのです」
「常闇?」

 アレクサンデルの問いには応えず、エヴァンは黙って微笑んだ。

 ◇

 ベルニク軍の目を盗んで姿を消したイヴァンナは、実のところ未だフェリクスに滞在していた。

 ──燈台下暗しですわねぇ、オホホホ。

 ホテルの最上階からの眺望を堪能しつつ、飴色の液体が喉を通る芳醇な熱を味わった。

 ──くぅぅぅ!! 地獄から生還した淑女に相応しい一杯ですわぁん♥

 空になったグラスをサイドテーブルに置き、イヴァンナは飛び込むようにベッドへ潜り込んだ。

 だが、その時──、

「イヴァンナ」
「ひぃぃぃ」

 唐突に現れた照射モニタに、イヴァンナは短い悲鳴を上げた。

「ご機嫌だな」

 フードで貌を隠した女の声音からは何の感情も読み取れない。

「あ、相変わらず──」

 無意識にイヴァンナは自身のニューロデバイスに触れていた。

「──情容赦の無い強制通信ですわね。淑女のプライバシーを何だと思っていますの?」
「試験代わりと思え。ふむ、新しい首輪も問題は無さそうだな」
「じ・ご・く、でしたわっ!」

 その点について、イヴァンナは強く反意を示しておく事にした。

「お前が持つ唯一の価値なのだ」

 彼女の価値とは──、
 
 ニューロデバイスは三歳までに適用しなければ、激烈な拒否反応が起こり受け入れる事が出来ない。
 
 無理をすれば、死亡──あるいは廃人となる。

 だが、イヴァンナは成人して以来、幾度もニューロデバイスの切除と適用を繰り返してきた。

 その対価がトラッキングシステムに決して検知されぬ存在──という価値なのである。

 とはいえ、拒否反応が全く無いという訳ではない。

 ニューロデバイス再適用の施術から一週間は苦しみ抜くのだ。
 
「毎回毎回、わたくしは死ぬ思いをしてますのよ」

 獣の如く咆哮し、全身から体液を垂れ流し、果ては激烈な痛みと悪寒に狂気の縁に追いやられる。

 頭に浮かぶ想念は一つだけだ。

 ──殺せ! 殺してくれっ!!

 彼女は死を強く望む。

 世界と女神に呪詛を撒き散らし、何より己の生命力を憎悪した。

 ところが──、

「でも、生きるって、最高なのですわぁ~ラララ♪♪♪」
 
 全てが治まると、次には強烈な生への欲求が湧き上がるのである。

 壁、床、天井、塵芥に至るまで、ありとあらゆる存在が眩く視覚野に投影され、強烈な色彩感覚を伴い記憶野に刻みこまれるのだ。

 彼女自身は、世界創生の瞬間を疑似体験していると感じている。

「結構な事だ。これで、お前も職務に励めるだろう」

 ニューロデバイスの再適用を果たすまで、フェリクスでの活動は慎ましいものに限られてきた。

「随分と怠けていたようだからな」
「出来る限りはやってましたわよ。シモンちゃんに唾つけましたしぃ」

 そう言いながら、侍従長シモン・イスカリオテの暗い顔を思い出し、連絡が来ていないかとEPR通信の履歴を眺める。

 ――ありませんわね。悩み事は解決してしまったのかしらん。

 明日は久方ぶりに、シモンが通うカウンセラーの元へ顔を出そうと決めた。

 カウンセラー本人は既に手懐けてあるので、イヴァンナが尋ねれば何でも答えてくれるだろう。

「我らが欲するのは、フェリクスを空白地帯へ戻す事である」
「だから──」

 侍従長に接近し、彼を手助けするていを装いながら弱みを握ろうと励んできたのだ。

わたくしなりに頑張ってきましたけれど……」
「うむ。さらに励め。そろそろフェリクスが騒がしくなる頃合いなのでな」
「騒がしく?」

 今でも十分に騒がしい、とイヴァンナは思った。
 
 新帝都フェリクスに、新生派勢力圏内の各企業が一斉に資本を投じ始めている。

 人口流入の超過傾向が続いている為、実需経済の伸びも著しい。

 辺境の目立たぬ公領として長い停滞にあったフェリクスは大きく生まれ変わろうとしていた。

「諸侯が集い、教皇までが詣でる」
「んま。聖下が?」

 教皇の行幸が実現したならば、新生派側はより勢いづく事になるだろう。

 女帝と玉璽を握った上に教会が信任するのである。態度を明らかにしていない諸侯も、いよいよ膝を屈する可能性があった。

「もういっその事、カドガンちゃまにパパッと攻めて頂けば宜しいのではありませんこと?」

 女帝一派をフェリクスから追い出したいのなら、裏工作より軍事行動の方が手っ取り早いとイヴァンは考えていた。

「お前の力が至らぬせいで、カドガンは手酷い痛手を負ったのだ。今暫くは動けぬ」
わたくしには、な~んの責任もありませんわぁ」

 この点については、イヴァンナの言に分がある。

 ウルリヒ・ベルツの用兵と、カドガン領邦軍が功を急《せ》いた結果なのだ。

「何れにせよ、お前は都合の良い時と場所に在る」
「はあ」
「金も人も好きなだけ使わせてやる」

 金と人命を惜しまぬ点は彼等の強みである。

「方法は問わぬ。女帝とロスチスラフを割れ」
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