本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転承[乱]結Λ

37話 お母さんとお姉さん。

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「──と言う訳で後は頼みましたよ、フリッツ君」

 トールの隣に立つユキハも頭を下げた。

「あん?」

 暫定とはいえモルトケの差配を託されたフリッツは疲労の極みにあった。一夜にして支配者の代わったインフィニティ・モルディブでは様々な混乱が起きていたのである。

「大規模艦隊だと?」
「はい」
「しかし、何だって親父は──」
「フリッツ! 今はそれどころじゃないでしょうが」

 秘書的な役割となっているクリスが照射モニタにフリッツの予定を映し出した。カジノ断ちをさせようとマリが誘導した結果なのだが、意外にも相性の良い組み合わせだったらしい。

「すぐに商工会議所の会頭、次がギャラルホルン警備保障の取締役、次が──」
「閣下さんよ」

 眉間を指先で揉みながら、フリッツが絞るように言った。

「いつまで、俺はこんな事をやらされるんだ? もう全てはアンタの物だし、モルトケが出張る必要なんて無いだろ」
「当面はフリッツ君にやってもらえると助かるんです。やはり面倒が少ないのは血筋という次第でして」

 無論、元海賊に丸投げしているわけではない。

 ベルニクから呼び寄せたリンファ商務補佐官以下に実務面のサポートをさせている。

「代わりが見付かるまではお願いします」
「商売なんて興味ねぇんだ。俺がやりたいのは──」
「大丈夫。ボクに任せて下さい」

 トールは彼の望みを理解しているし、ベルニクで受け入れるつもりでいた。

「でも、まずはインフィニティ・モルディブを上手く落ち着かせて下さい」

 元海賊のゴロツキを引き立てるには、周囲も納得する実績を積ませる必要があった。

「ユキハさんの安全確保もお願いします。少女シリーズの早急な再起動をお願いしたんです!」
「いきなり派手に動いちゃ、お宝狙いでアラゴンあたりが攻めて来るんじゃねぇのか?」

 そういった事態を避けるべく、旧トール達は秘密裏に庇護して来たのだ。

「どのみち、クルノフはこれからきな臭くなります」
「ん?」
「ボクがそうするんですけどね。アハハ」

 ──やっぱり、まだ何か企んでやがるんだな。
 ──忙しい野郎だぜ……。

 この時、ゲオルク宙域のポータルで天秤衆来訪を待つケヴィンの役割を知れば、さすがのフリッツもトールの正気を疑ったかもしれない。

「では、少女艦隊の雄姿を心待ちにしつつ、ボクはそろそろ行ってきますね!」
「いや、閣下さん──その──閣下」
「はい?」
「ヴィルヘルムとフレイディスは逃がして良かったのか? トーマスも行っちまったし」
「ああ」

 少しばかりトールは思案気な様子を見せた。

「復讐したかったですか?」

 血の贖いを求める権利が息子にはある。

「う~ん、正直──分からん」

 妾の子フリッツは、母親が病死するまでは唯のベルヴィルだったのである。

 予想した通りの思いを聞いたトールは爽やかに微笑んだ。

「でも、トーマスさんは異なる感想をお持ちのはずです」

 オリヴァー・ボルツはトーマス出生の秘事を留置所に訪れたケヴィンに語っていた。

 ──"何を言っている、ケヴィン。あれは──"
 ──"エドヴァルトの子では無い。それどころか、フレイディスの子ですら無いのだ。"

 それは、呪われた過去である。

 ──"あの女狐は妊娠と偽り、故郷で出産するのだとオソロセアへ渡った。"
 ──"だが、実際にはある女の子供を攫いに行ったのだ。"
 ──"城塞と関わるその女の血筋が、どうしても欲しかったのだろう……。"

 フレイディスは攫った赤子に後天的なコーディネイトを施し、エドヴァルトに容貌を似せて育てたのである。

 そして、実母の名を耳にした瞬間、トール・ベルニクの方針は定まった。

「彼が決めれば良いのです」

 殺人鬼トーマスに全てを伝え、実母に会う為の手筈だけでなく復讐の機会も与えていた。

 故に、ミネルヴァ・レギオンへ向かう船旅が、ヴィルヘルムとフレイディスにとって快適となる可能性は万に一つもない。

「今度こそお母さんと水入らずで会えるでしょう」

 ──オリヴァーさんの情報収集力と記憶力に感謝しないとね。
 ──いっそ、テルミナ室長の部下にしちゃおうかなぁ……。

 実母の名はアリス・アイヴァース。

 ルキウス・クィンクティが実父となる。

 ◇

 ゲオルク宙域へ急ぐトールは、宇宙港の貴賓室で乗艦準備が整うのを待っていた。

 ──オビタルの人力依存って素敵だけど、面倒な時も多いよなぁ。

 人工知性体群とハイブリッド生命体に立脚した先史時代へのアンチテーゼが、オビタルの種としての存在意義なのかもしれない。

 ──あ、そう言えば……。

 トールは掌に乗るサイズの小さなカードを目の前にかざして左右に振った。

 ──暇つぶしにどうぞって言われたけど……。

 別れ際にグリンニスから手渡された映像メディアである。

 彼女は、トールがカドガンを訪れるモチベーションを上げるべく、過去の映像を送るという思い付きを実行に移したのだ。

 << 姫様──こちらをご覧ください >>

 幼女姿のグリンニスが屋敷の庭園で花を摘む様子をフォックス・ロイドが撮影したのだろう。

 撮影日は、帝国歴2800年11月10日──。

 グノーシス異端船団国がベルニクへ宣戦布告した日でもあった。

 映像は一年毎に過去へ遡っていき、翻ってグリンニスは徐々に成長していく──。

 ──まさに、世紀の奇病だな…。
 ──むむ?

「な、なんと!」

 撮影日が帝国歴2760年まで遡ったところで思わずトールは声を上げた。

 今より四十年以上前、グリンニス・カドガンは陽光照らす海辺のバカンスを愉しんでいる。

 尚且つ、成人女性として素晴らしい水着姿を披露してくれていたのだ。

 ──す、凄いぞ! やはり、伯の病気を一刻も早く──。

 なお、彼女は一人ではなく、赤子を抱いた女性が傍に立っている。

 赤子がグリンニスに小さな掌を伸ばす度、周囲から愉し気な笑い声が上がった。

 ──ん? この髪色は……。

 良く確かめようとトールが前のめりになったところで、

「トール様、そろそろ──」

 と、貴賓室へ女男爵メイドのマリが入って来た。

「──」

 だが、グリンニス・カドガンの瑞々しい水着姿を前にマリの動きが固まった。

「マリ?」

 トールの呼びかけには応えず、マリは在りし日の映像に見入っている。

 なぜなら、そこに映るのは──、

「母と──姉」
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