本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転承[乱]結Λ

39話 報告するのも楽じゃない。

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「撃てええええええいっ!!!」

 ジェラルド・マクギガンは直立不動の姿勢で叫んだ後、小さな兵士の人形を摘まむと、精巧なミニチュアの戦場に置いた。

 古典文明における陸戦を復元させたもので、幼年学校入学の記念として父のディアミドが買い与えてくれた古戦場セットである。

 その古戦場セットが再現しているのは、歩兵、騎兵、砲兵が戦場を駆けまわり、未だ戦争行為に一定のロマンチズムが許された時代だ。

 遥かな宇宙時代にあって、オビタルが指向し実現させた世界でもある。

「ジェラルド閣下」

 幼児向けの玩具で埋め尽くされた執務室に入って来た男は、その奇異さに驚く様子も見せず慇懃無礼な声音で呼びかけた。

「元帥閣下と呼べよっ!! 何の用だ、ニコライ将軍」

 ニコライは単なる副官という立場から、領主と領邦の混乱を奇貨きかとして、全ての権限を自身に集中させつつあった。

 ジェラルドを裏切りに導きながら退くに引けぬ状況へ追いやり、最後にはアラゴン選帝侯の元へ父子を差し出した男である。

「閣下」

 お前の指図など受けぬとばかりに、ニコライは再び同じ呼称を使った。

「天秤衆の艦艇が、アラゴン選帝侯領から入って来ております」
「──んん──天秤共が何の用だろ?」
「当然ながら聖務かと」
「チッ、難癖付けに来たんだな」

 精神的不調の為せる業か、童子の様な口調で放つ言葉には欺瞞が無い。

「マクギガンの全艦隊を出し、威嚇射撃でもして追っぱらえっ!」
「──かような真似が許されるはずも御座いません」

 威嚇どころか本当に轟沈させようとしている男がクルノフに居るとはニコライにも想像の埒外である。

「そもそも、クルノフと面したポータルで演習せよ──」

 アラゴン選帝侯との密約に基づき、ニコライが差配したのである。

「──と、閣下が、指示されたのをお忘れなのですか?」
「ううむ」

 首をひねって考え込むジェラルドに、そのような記憶は無い。

 実際に出していないのだから当然なのだが、覚えていないと応えるのも癪に障ったジェラルドは怒鳴って誤魔化す事にした。

「うるさいっ!!!」

 そう雄叫んでマスケット銃を模した木製の玩具を投げ放つが、ニコライは僅かに身体を揺らすのみで鮮やかに避けていた。

「お前は生意気なんだ!!父上に言い付けるぞっ!!」
「ご随意に」

 ニコライは肩を払って埃を気にする風を装いながら言った。

「ともあれ、天秤衆方々の出迎えは私にお任せ下さい」
「ふん。勝手にしろ」
「分かりました」

 すると、途端に俗事へ興味を失ったジェラルドは、再び古戦場の世界へと戻っていった。

「──ウルム戦役を復元したいんだけど──ううん──やっぱり、父上のアドヴァイスが欲しいな。おい、ニコライ将軍」

 執務室を出ようとしたところを呼び止められ、幾分か迷惑に感じながら振り返った。

「父上を呼んでこい」
「──は?」
「例の場所に居るはずだ。バレていないと思っているようだけど──」

 両の手を擦り合わせてジェラルドが言った。

「バラ園の事など昔からお見通しだぞ! ワハハハハ」

 ◇

 女帝の選定権を代々担ってきた諸侯は、フォルツ、ファーレン、バイロイト、プロイス、アラゴンの五家である。

 このうち、アダム・フォルツ並びにクラウディオ・アラゴンは、当初より宰相エヴァン・グリフィスを支持する立場を明らかにしていた。
 また、オソロセアと確執のあるファーレンも太上帝の快気祝いには参加している。

 未だ立場を明らかにしていないのはバイロイトとプロイスのみとなっていた。

 さて、クラウディオ・アラゴンである。

「下らないジョークじゃないだろうね?」

 そう言って額の汗を白いチーフで拭い、ウッドラケットを脇の女官に手渡した。

「む、無論で御座います、クラウディオ様」

 彼はスティッキという球技の時間を殊更大切にしており、世事で中断されるのを不快に感じていた。

 故に不穏な報告を携えてきた近習は、主人の機嫌を損ねぬよう細心の注意を払わねばならない。

「信じ難いね。いや、ベルニクの若造なら有り得るのか」

 若造呼ばわりするクラウディオだが、実はトール・ベルニクと齢は変わらない。トールと同じく父を早くに無くし、領地と選帝侯という立場を若くして受け継いだのだ。

「叔父から連絡は?」
「エヴァン公からの沙汰は今のところ御座いません」
「ふむん──。イリアム宮も混乱しているのかもしれないな」
「確かに、その可能性は御座います」

 旧帝都ではエヴァンとアダム・フォルツが厳格な情報統制を敷いており、イリアム宮の動静は例え選定侯であったとしても外部からは容易には窺い知れない。

「まあいい。何れにせよクルノフをおとすのが僕等の役回りだ」

 異端審問による混乱を口実に、クルノフの治安維持を名目として大艦隊で押し入る手筈である。

「ベルニクの狼藉により、却って我等の正当性が担保される」

 天秤衆を害した不届き者を誅するのは、領邦領主たる者の務めだろう。

 碌な軍備を持たぬクルノフに代わり、ベルニクを断罪するという名目ならば、後世に無法者などという汚名を残す可能性は微塵もない。

「演習中のフランチェスカに──いや──待て」

 クラウディオはかねてから興味を抱いていた──。

 英雄と呼ばれ始めていた同世代の男に対してである。

「やはり、僕が出よう」

 誰よりも正統を貴《たっと》ぶ男は、他者も同様である事を望んだ。

ひざまづかせてあげないとね」

 ◇

「早いわッ!!」
「ひぃ」

 火急であると衛兵を黙らせ寝所を訪れた主席書記官は、報告を終えるなり発せられた教皇アレクサンデルの大喝に首を縮こまらせた。

「で、ですが──既に正午の祈りを捧げる時間でもありますし……。早いという程ではないかと、その、はい」

 アレクサンデルの隣には、明らかに身分不相応な女が寝ている。

「否。童子の気短ぶりをなじったのだ」
「は、はあ……」
「我より先に、天秤共を藻屑にすとは何事ぞ」
「先に?」
「本当にまったく童子はまったく童子めまったく童子という奴は──」

 ぶつぶつと文句を言いながら、巨躯にしては意外な身軽さで起き上がると掌を何度か打った。

 傍付使用人が音も無く現れ、全裸のアレクサンデルへ聖職衣を纏わせてゆく。

 ──プロヴァンスを焼いた後の助力を言い含めておいたのだが……。
 ──これでは童子を我が追認する形となろう。
 ──手伝わせるつもりが、いつのまにやら我が手伝っておるわ。

「ふむ──とはいえ、常の事ではあるな」

 繰り言を考えるうち、アレクサンデルは可笑しみが湧いて来てしまった。

くだんの声明は三日後であったな」
「はい」

 主席書記官は緊張した面持ちで応える。

 大司教時代から仕えて来たアレクサンデルの背負う重圧に、思いを同じくする彼自身の中でもたぎりがあったのだ。

「巻け。明日とする」
「承知しました」

 助け船は早い方が良いだろうと考えた次第である。

「──が、まずは正午の祈りとやらを捧げるか。色欲を詫びねばならぬ」 
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