本気の宇宙戦記を書きたいが巨乳も好きなのだ 〜The saga of ΛΛ〜 巨乳戦記

砂嶋真三

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起転承[乱]結Λ

79話 毒宴。

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 ベルニク艦隊が聖都宙域で交戦に入った頃、ズラトロクではイェルク・ケルンテン主催の晩餐会が始まろうとしていた。

 グラスを載せたトレイを持つ使用人達が動き回り、既に顔を赤らめている気の早い招待客もいる。

「これはこれは、ロスチスラフ侯」
「む? おお、ホルスト殿か」

 ロスチスラフにとってかねてから虫の好かぬ相手だったが、その内心を露とも感じさない老獪さを備えていた。

「今宵の宴は全てがホルスト殿の差配と聞いた。旧帝都における情報共有を建前に、招かれざる客人である我等とケルンテンのよしみを図らんとする手練れた機微機略──実に染み入る」 

 トール・ベルニクが傍に居たなら、珍しい長広舌に吹き出したかもしれない。

「さ、左様でございますとも! 我がケルンテンの総力を上げ皆様方をもてなさせて頂きますぞ──あ、これ、そこな給仕」

 唐突に呼び止められて驚いた給仕が、思わずトレイを床に取り落としそうになった。

「あわわっ! ああっととと──ふう。な、なんですか?」

 と、覇気に欠ける返事をした男は、給仕帽から零れる長い前髪が目元を隠し、およそ給仕らしからぬ風体と物腰である。

 ──まさか、コイツではなかろうな……。

 ホルストは些か不安な思いで冴えない男の風貌を見やった。

 彼に大きな一歩を決意させたのは、エカテリーナ出生に関わる秘事だけではない。

 簒奪者ロスチスラフに怨恨を抱く彼女にオソロセアを奪還させ、自身も大邦の重臣として取り立てられる──。

 この魅力的な計画の実現には、ロスチスラフを排除する実行犯の手配が必要である。

 尚且つ己との接点が決して浮かばぬ駒を用意しなければならないのだ。

 逡巡するホルストの耳元へ、フォルツ領邦代官ウォルフガングはさらに囁いた。

 ──"船団国が協力する。"
 ──"まさしく縁もゆかりも無いのでは?"

 この一言が決定打となった。

 残るホルストの懸念は、執行のを下す責任の回避である。

 謀略成功時の果実は欲しいが、失敗時の責任を負うつもりはないのだ。

 ──ま、それも解決済みだ。フハハ。

 これが責任回避を旨として生き抜いて来た男、ホルスト・ジマである。

「あ、あの?」

 剣呑な眼差しのホルストに、給仕は怯えた様子で声を掛けた。

「ふん」

 給仕を蔑むかのようにホルストは鼻を鳴らした。

 ──やはり、使い捨ての駒の事など、どうでも良いわ。

 成功すれば権力の階段を登り、仕損じたとしても現状維持は変わらない。船団国から提供された実行犯とホルストには一切の接点が無いのだ。

 給仕の持つトレイの上には、ワイングラスとボトルが載せられている。

「ズラトロクに参られたなら、是が非もコヴェナントを味わって頂きませんとな」

 と、手渡されたグラスを受け取ったロスチスラフは僅かに目を細めた。

 ホルストは間抜けそうな給仕のトレイからボトルを掴み取り、自身とロスチスラフのグラスへ手ずから朱色の液体を注いだ。

 香りを味わう仕草を見せた後、ホルストは一息にワインをあおって見せた。

「この邸には──」

 そう言いながらせわしく右手を振って給仕を追い払う。

「特別な年代物を蔵しております」
「ふむん?」
「貴重な品で一度も開けた事は無いそうですが、今宵、ロスチスラフ侯には供されるそうですぞ」
「ほほう、それは光栄の至り。是非ともイェルク子爵と相伴に致そう」
「──」

 暫し逡巡した後、ホルストは直ぐに結論を下した。

「実に宜しいですな。ご高配痛み入ります」
「うむうむ、とはいえ二人と言うのも寂しい。ここは立役者たる貴方も──」
「お、おっと」

 ホルストはピシャリと音を立て己の額を左手で強く打った。

「そういえば見目麗しき提督の姿をお見受けしませんな? 年甲斐もなく心躍っておるのですが、フハハ」
「エカテリーナは先に参ると言っていたが……」

 そう言ってロスチスラフが周囲を見回すと、頃合いを図ったかのように大階段の裏手から当のエカテリーナが姿を現した。

 色褪せぬ美が称賛に値する輝きを放っていたが、アリスタリフ中将ならば常より険しい表情と気付いたかもしれない。

 瞬く間に人の輪に覆われていく美しい女を遠目に眺め、ようやくロスチスラフはグラスに口を付けた。

 なお、ロスチスラフの懸念はこの場には無い。

 ──彼奴あやつは無事でおるのか……。

 遥か遠く離れた星系で戦う男と、数刻前から連絡が途絶えていたのだ──。

 ◇

 物見遊山に等しいイェルクの旧帝都四方山話は早々に終わり、晩餐会における目下の話題はベルニク艦隊の動きに移っていた。

 ──まったく、いつまで下らぬ話をしておるつもりだっ!

 ホルストは苛立っていた。

 彼は号を下す責任を回避する為、ボリス・オソロセア大公の忘れ形見──つまりエカテリーナ・ロマノフを必至の思いで説得したのだ。

 ──"全ての手配は私めにお任せ下さい。"
 ──"ですが、最後の一押し、号はお願い致しますぞ! それでこそお父上の弔いが──"

 云々といった次第である。

「コホンコホン。そ、そのベルニク艦隊の件ですが──」

 終わりの見えない会話に、ホルストは一石を投じておく事にした。

「数刻前から連絡がつかぬそうですな」
「ほう? ホルスト殿もご存じだったのか」

 晩餐会が始まって以来、初めてロスチスラフの瞳に興味が宿った。

「私は伝え聞いたに過ぎませんが──」

 と、そこへ、慌てた様子でイェルクの近習達が駆け込んで来た。 
 
 ホルストはテーブルの下に潜ませた拳を強く握る。

「い、一大事でございます」

 イェルクに耳打ちする余裕も無いのか、近習は周囲にも聞こえる声音で重用事を告げた。

「ベルニク艦隊壊滅との報が!」
「な、なんとっ!?」
「まさか」
「せ、聖下は? い、いや、陛下もご無事なのか?」

 周囲へ喧噪が拡がってゆく。

「だから、連絡が途絶えているのか」
「さすがの英雄伯でも無謀が過ぎたのだ」
「フォルツは如何する?」

 ホルストにとって心地の良い悲鳴だが、愉悦に身を任せている場合ではない。

 ──さあさ、動いてくれ。我が愛しの姫君よっ!!

 全ては、事態が進まない場合にとホルストが用意させた虚報である。

 EPR通信が復旧した後、誤報であったと言い訳すれば良いだけだ。

 ──今こそ号を発し、仇敵の命と邦を奪おうではないか!!

 と、祈るような万感の想いが通じたのか否か、ロスチスラフの隣でエカテリーナ・ロマノフが席を立った。

「皆様方、お静かに」

 聞く者によっては、高慢の色を感じる声音である。

「不敗の将など古来より存在しません」

 そうだそうだと唱和したい思いをホルストは堪えた。

「報告の真偽は不確かなれど、真ならば死者を悼むべきでしょう。どうあっても伯は英雄だったのですから……」

 エカテリーナが曇りの無い瞳でひたとホルストを見据えた。

「邸に大層貴重なコヴェナントを蔵されているとか?」

 ──我が事、成れり!

 歓喜の余り言葉が出ないホルストは、黙って何度も頸を縦に振った。

「英雄を悼む為に供して頂く事は可能かしら? せめても今宵、わたくしあるじロスチスラフ侯にだけは──侯の友柄だったのですもの」

 静まり返った晩餐会場で、ホルストが椅子を引く音は奇妙に大きく響いた。

「ご、御座いますとも」

 そんなモノが有ったのか、という表情をイェルク子爵は浮かべている。

「では、所望しますわ。黄金の角邸に蔵された特別なコヴェナントを」

 は下された。
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