レインキス・ルトゥール

なつき

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第一章 始まりの雨

2.再会の雨

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憂鬱な月曜日。
携帯電話のアラームで目を覚ました俺は、背伸びをしながら窓の外を見た。
梅雨らしく雨がしとしと降っていて、なおさら憂鬱な気分になる。
通勤は車だからさほど濡れはしないが、雨の日の運転は色々気を使うから嫌いなのだ。
何より車が汚れるし。

「ふぅ......」

ため息を吐きつつ、洗顔やら髭そりやら、朝の支度をする。
朝飯はゼリー飲料で手早く済ましせる。
代わり映えのしない、いつもどおりの朝。

「行くか」

独り言のように呟いて部屋を出る。
マンションの階段を降りて駐車場へ。
愛車のハイエースに乗り込み、いつものように会社へ向かう。
通勤時間であるこの時間帯は、車が恐ろしく多い。
雨なせいもあって尚更だ。
うんざりしつつバンドルを握り、渋滞を避けて、とある脇道に差しかかった時だった。

「あ」

進路の先、傘を片手に爆走している自転車が目に入った。
あれは間違いない。
彼女だ。
そう認識した途端、クラクションを鳴らしていた。
自転車が停まり、こちらを振り返る。

「こーら、何傘さして爆走してんだよ。警察に見付かったら指導くらうぞ?」

「あんた!?最悪ー!急いでんのに変なのに捕まっちゃったよぉ」

「変なのって、失礼だなー。せっかく乗せてやろうと思ったのに」

「え、ほんと!?やったぁ!!あんたってば、意外にいいやつね!!」

何やら打って変って好感触に。
現金なやつだ。
でも、不思議と嫌な感じはしない。

「ほら、貸せよ」

自転車をかっぱらって、さっさと後ろのスペースに積み込む。

「どうぞ、お嬢さん」

助手席のドアを開け、エスコートしてみる。

「あ、ありがと......」

顔が赤い。
こいつでも照れるんだな。
ちょっとびっくりしながら、運転席に乗り込み車を発進させる。
ちらりとミラー越しに彼女を見れば、恥ずかしそうにうつむいている様子が目に入った。

「お前って、意外と可愛いのな」

「な、何言ってんのよ!?ああ、あたしがかか、可愛いだなんて!!」

動揺丸出しじゃねえか。
こんなに反応されると、むしろこっちの方が動揺しちまう。

「あはは!ばーか。何動揺してんだよ」

「なっ!?か、からかったのね!!」

あ、怒らしちまった。
俺って本当、素直じゃねぇなぁ。
もう少し言い方ってもんがあるだろうに。
ちょっと反省。

「悪い悪い、お前、からかいがいあるからつい」

内心の動揺をごまかすように余裕ぶって笑みを浮かべる俺に、彼女はいたくご機嫌ななめな様子だ。
考えてる事そのまんまなんだろう表情を見せてくれているのが嬉しい。
なんだこれ。
こんな感覚、久しぶりだ。

「悪かったよ。お詫びに今度どっか連れてくから」

とっさに出た誘い文句に、驚いたのは俺の方。
なんでこんな事言い出したのか、自分で自分が分からない。

「ほんと?絶対だからね!」

YES!?
マジかよ、ひゃっほう!
と思いつつ、顔に出さないよう細心の注意を払う。

「ほんとだよ。日曜あたり、どうだ?」

さらりと続ける内側で、跳ねる心臓。

「ん、日曜?いいよ、別に」

よっしゃ!
心の中でガッツポーズ!

「じゃ、日曜、10時に寮の駐車場でどうだ?」

「了解。遅れないでよね」

遅れるわけないだろう!?
思いながら、適当に相槌を打つ。
雨の月曜日。
早くも週末が待ち遠しくなる俺なのだった。

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