小説練習帖 七月

犬束

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否応なしに〈15〉

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「大げさに騒いでるだけなんじゃないの?」
 わたしも仲間に加わって、姿見を見てみたら、驚いた。50センチほどのまっすぐな白いバラが、一本ずつ、剣山に刺してあるみたいに、何本も床から生えているのである。
 角度を変えて眺めてみても、紛れもない生花が咲いてる。しかも、鏡に写った世界だけ。
「いや、不思議だよね。不自然さが全くないもんね。めちゃ高価なんじゃないかな」
 シモンが鏡の表面に触れようとしたら、水鏡みたいに、指が突き抜けたのだ。
「えっ、シモンさん、そんなマジックできるんですか?」と、バーテン女子がわらいながら。
「違う違う」と、シモンは慌てて「だから、鏡に何らかの仕掛けがしてあるんだって!」
 バーテン女子とわたしは、彼を疑いつつ顔を見合わせ、恐る恐る指で鏡を叩いてみた。ガラスの感触。普通の鏡面に違いない。
「ねえねえ、シモン。せっかくだから、ちょっと鏡の中に入ってみてよ」
「無理だってばさ」
「だって、さっきは出来たじゃん」
「壊したら、シャレになんないから」
「シモンさん、試すだけでも、やってみてくださいよ」
「ほら、彼女の期待に応えて、鏡の中に入ってみせてよ」
「期待されても、物理的に無理なんだってば!」
 前方へ伸ばされたシモンの両手は、予想通り、鏡の中に飲み込まれた。

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