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第19話 呪い
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真竜(後につけられた固有名称:One wing's stray dragon、片翼のはぐれ竜)は、死亡が確認された後、ミウの父親であるオルド・エンボスにより魔核が取り出された。
残りの肉体はそのまま凍結させておき、翌日以降、エンボス家の従者によって回収されることとなった。
今回の戦い、このドラゴンを倒したとされるのは、ユナとユアン、凍結呪文でトドメを刺したミウと、そして竜の吐息、および左目の視力を奪った俺ということになった。
これらに関しては、俺の活躍に関してはジル先生が、そしてこの日の戦いの詳細はオルドさんの他、三人の中級冒険者も証人となる。
また、このドラゴンの魔核が、生前の戦いの記憶を宿しているとのことだった(高レベルの魔獣の魔核は、そういうものらしい)。
ユナもユアンも、ヘトヘトに疲れ切っていた。
ミウはあれだけの大呪文を使ったにもかかわらず、まだ多少余裕があるようで、大した怪我もしていないユアンに寄り添い、治癒呪文をかけていた。
それに対し、俺は近寄ってきたユナに、何もしてあげられない。
ただ一言、良くやったな、お疲れさん、とだけ声を掛けたが、それに対して彼女は、
「あー、疲れた……もうだめ……」
と、心底疲れ切ったコメントを残して、俺のすぐ隣に座り込んだので、俺も同じように座った。
ユアンも座り込んでいたのだが、オルドさんが近づくと立ち上がろうとした。
しかしオルドさんが、そのままでいい、という仕草をしたので、また座り込んだ……というか、片膝をつくような格好になった。
よくやった、という大きな声が聞こえてきたが、その後は声が小さくなり、聞き取れなかった。
ただ、ミウが赤い顔をして嬉しそうにしていたので、まあ、そういう話があったのだろう。
その後、しばらく休憩した後、俺達はエンボス家の屋敷に客人として招かれた。
ちなみに中級冒険者三人組は、俺以外のメンバーに怯えていたようで、オルドさんに挨拶だけして何処かへ行ってしまった。
そして俺とユナは、別々の、比較的小さな、しかしそれなりに豪華な部屋が割り当てられ、疲れていたこともあり、ふかふかのベッドで朝までぐっすりと仮眠を取った。
翌朝、目覚めると食堂に呼ばれた。
なんか物語とかで聞いた事のある、長いテーブルがある。さすがお金持ち。
とはいえ、朝食なので比較的質素で、パンとスープ、ベーコンとサラダがあるぐらいだった。
なんか、こんなの初めてなので恐縮してしまうし、緊張する。
しかしユナは、慣れた様子で、メイドの女性が案内し、引いてくれた席に座ったので、俺も同じように彼女の隣に座った。
そして、ドギマギしているのは俺だけではなかった。
召使いであったはずのユアンが、ミウの隣に座っていたのだ。
着ている服も、貴族のそれに近いもので……たった一晩で、身分がころっと変わってしまったようだ。
ほかの五人の召使い(立ったままで、若い女性が三人、年配の男性が二人)は、その様子を、ちょっと笑いながら見ていた。
ミウの母親のイリスさんは、さぞかし不機嫌……かと思いきや、なんか吹っ切れたような、さわやかな表情で、微笑みを浮かべていた。
そしてオルドさんが簡単な挨拶をした後、食事が始まった。
そもそも、なんで俺達はこの場にいるのだろう、と考えてしまったが、食事しながらオルドさんが、
「君たちのおかげで真竜を討伐できた、これでホシクズダケの入手に困らなくなった、アーテムの村も救われるだろう」
とお礼を言ってくれたので、ああ、そういえばこの人領主だったな、と納得した。
報酬の二千万ウェンについては、ギルドを通じて支払う、と言われて、俺とユナはパンをほおばったまま顔を見合わせて驚いた。
水でそのパンを喉に流し込んだ後、
「にせんまん……でも、実際はその……ユアンや、ミウの活躍があったからで……」
と、俺が慌ててそう言うと、
「領主の家族が領民の為に戦うのは当然だ。君たちはライセンスを持つハンターだ、遠慮なく受け取って欲しい」
という言葉をかけられると、
「分かりました……ありがたく頂戴致します」
と、ユナが勝手に了承してしまった……まあ、それでいいんだけど。
「でも、家族ということは……ユアンも、その……」
彼女はちょっと口ごもる。
「ああ、新しい家族だ。試練を果たし、その上、ドラゴンスレイヤーにまでなった彼には、ミウに婿入りしてもらうつもりだ」
と、オルドさんが明言したものだから……ミウもユアンも、真っ赤になってしまっていた。
ここで彼の奥さんであるイリスさんが立ち上がり、数日前に、ミウの最良の結婚相手を占いに来たときの非礼を詫びた。
俺もユナも立ち上がって、いえいえ、気にしていませんから、と、慌てて返した。
オルドさんによると、元々、ユアンは最初から養子にするつもりで引き取ったのだという。
両親を亡くした子供が集められた、とある施設をオルドさんが訪問した際、目に止まった男の子がいた。一目で、この子供に眠る戦いの素質に気付いたという。
表だっては召使いという扱いだが、その実、自分の後継者となれるよう、オルドさんは厳しく指導を重ねた。
ユアンは、あらゆる技を吸収し、肉体の成長と共に、上級者レベルの剣術まで身につけるようになったのだという。
素直な性格で、元々、イリスさんも気に入っていたが、まさか夫が養子にしようとしているとまでは考えていなかったらしい。
そこに今回の、俺達の占い結果。
そしてオルドさんは、二人に話を聞いて、恋仲であると確信し、今回の試練、そして中級冒険者三人による腕試しを実施したのだという。
占いの結果に驚き、最初は反対していたイリスさんも、娘が幸せになるのであればそれに越したことはない、今は納得していると話してくれた。
ただ、オルドさんにもいくつか想定外の事があった。
ミウの家出、俺とユナを連れてきたこと、そして極めつけが真竜の襲撃。
真竜に対しては既に討伐隊を派遣していたそうだが、そちらが空振りになった格好だ。
そしてこれほど様々なことのタイミングが重なり、ここで食事をしているメンバーの縁が出来たことは、神から授かったという俺の『縁結び』の力によるものに違いないと絶賛してくれた。
いや、単なる偶然の要素が大きいと思うんだけど……。
ちなみに隣のユナは、さっきの二千万の話を聞いてから、ずっとにやけっぱなしだ。オルドさんの話を、どれほど真剣に聞いているのやら……。
食事が終わり、紅茶が運ばれて来て、それを飲んでいるときだった。
「……さて、ここからが話の本題になる」
と、オルドさんは切り出した……って、え? 今までも、結構重大発表を連発してたと思うけど?
彼がなにやら合図をすると、メイドさんや召使いの方達が皆、一礼して部屋を出て行った。
人払いだ。ということは、本当に重要な案件のようだ。
「私は一旦帰って来たが、またすぐ国王陛下の元に舞い戻らなければならない……それは聞いていたか?」
「はい、それはミウさんから」
「うむ。それで、何のためにここに帰って来たかというと……国王陛下から、全領主にお達しがあった。その内容は、『腕の良い、優秀な医者と、占い師、呪術師を連れてこい』という前例のないものだった」
「……なんか、とっても嫌な予感のする命令ですね……」
本音をつい口にしてしまった。
「まあ、そう思うのも無理はない……しかし、私は今、専属の優秀な医師も、占い師も抱えてはおらぬ……どうやって探そうかと考えていた時に、竜討伐の陳情に来た一団がおり、その中に、顔と評判を知っているジル医師の姿があった。彼に事情を話すと、二つ返事で王国にお供します、と引き受けてくれた。残りは腕の良い占い師か呪術師……ジル医師は、心あたりがあると、君たちの事を紹介してくれた」
「……なるほど、それでイリスさんとミウさんが、我々のところに来たわけですね」
「そういうことになる。申し訳ない、君たちの腕試しのような事をしてしまって……そして占いの結果は、この通りすばらしいものとなった」
と、ユアンとミウの方に腕を伸ばして指し示し、褒め称えてくれた。
「そこで、だ……君たちにも、王都に来て欲しいんだ。そこで占いをしてもらいたい」
「……ちょ、ちょっと待ってください。そんな、いきなり言われても、俺は、最も幸せになれる結婚相手を占えるっていうだけで……内容も分からないし……」
いきなりすぎると考えたし、辞退しようとも思った。
しかし、次の彼の言葉は、悲壮感に溢れていた。
「すまなかったな、占いの依頼内容を先に言うべきだったか……対象は、現国王陛下の第一王女様だ。まだ十代の彼女は、とある強力な呪いを受けて、意識不明の昏睡状態に陥っている。ずっと眠り続けており、その状況を救えるのは、とびきり優秀な医師、または非常に腕の良い占い師か呪術師しかいないではないかということだ」
「呪い!? でも……俺は、最良の結婚相手を……いや、待てよ……」
「そう、気づいたか……眠り続ける王女様に、もし運命の結婚相手がいるとなれば……それは、何かしら解決方法を、その男性が知っていることになるとは思わぬか?」
残りの肉体はそのまま凍結させておき、翌日以降、エンボス家の従者によって回収されることとなった。
今回の戦い、このドラゴンを倒したとされるのは、ユナとユアン、凍結呪文でトドメを刺したミウと、そして竜の吐息、および左目の視力を奪った俺ということになった。
これらに関しては、俺の活躍に関してはジル先生が、そしてこの日の戦いの詳細はオルドさんの他、三人の中級冒険者も証人となる。
また、このドラゴンの魔核が、生前の戦いの記憶を宿しているとのことだった(高レベルの魔獣の魔核は、そういうものらしい)。
ユナもユアンも、ヘトヘトに疲れ切っていた。
ミウはあれだけの大呪文を使ったにもかかわらず、まだ多少余裕があるようで、大した怪我もしていないユアンに寄り添い、治癒呪文をかけていた。
それに対し、俺は近寄ってきたユナに、何もしてあげられない。
ただ一言、良くやったな、お疲れさん、とだけ声を掛けたが、それに対して彼女は、
「あー、疲れた……もうだめ……」
と、心底疲れ切ったコメントを残して、俺のすぐ隣に座り込んだので、俺も同じように座った。
ユアンも座り込んでいたのだが、オルドさんが近づくと立ち上がろうとした。
しかしオルドさんが、そのままでいい、という仕草をしたので、また座り込んだ……というか、片膝をつくような格好になった。
よくやった、という大きな声が聞こえてきたが、その後は声が小さくなり、聞き取れなかった。
ただ、ミウが赤い顔をして嬉しそうにしていたので、まあ、そういう話があったのだろう。
その後、しばらく休憩した後、俺達はエンボス家の屋敷に客人として招かれた。
ちなみに中級冒険者三人組は、俺以外のメンバーに怯えていたようで、オルドさんに挨拶だけして何処かへ行ってしまった。
そして俺とユナは、別々の、比較的小さな、しかしそれなりに豪華な部屋が割り当てられ、疲れていたこともあり、ふかふかのベッドで朝までぐっすりと仮眠を取った。
翌朝、目覚めると食堂に呼ばれた。
なんか物語とかで聞いた事のある、長いテーブルがある。さすがお金持ち。
とはいえ、朝食なので比較的質素で、パンとスープ、ベーコンとサラダがあるぐらいだった。
なんか、こんなの初めてなので恐縮してしまうし、緊張する。
しかしユナは、慣れた様子で、メイドの女性が案内し、引いてくれた席に座ったので、俺も同じように彼女の隣に座った。
そして、ドギマギしているのは俺だけではなかった。
召使いであったはずのユアンが、ミウの隣に座っていたのだ。
着ている服も、貴族のそれに近いもので……たった一晩で、身分がころっと変わってしまったようだ。
ほかの五人の召使い(立ったままで、若い女性が三人、年配の男性が二人)は、その様子を、ちょっと笑いながら見ていた。
ミウの母親のイリスさんは、さぞかし不機嫌……かと思いきや、なんか吹っ切れたような、さわやかな表情で、微笑みを浮かべていた。
そしてオルドさんが簡単な挨拶をした後、食事が始まった。
そもそも、なんで俺達はこの場にいるのだろう、と考えてしまったが、食事しながらオルドさんが、
「君たちのおかげで真竜を討伐できた、これでホシクズダケの入手に困らなくなった、アーテムの村も救われるだろう」
とお礼を言ってくれたので、ああ、そういえばこの人領主だったな、と納得した。
報酬の二千万ウェンについては、ギルドを通じて支払う、と言われて、俺とユナはパンをほおばったまま顔を見合わせて驚いた。
水でそのパンを喉に流し込んだ後、
「にせんまん……でも、実際はその……ユアンや、ミウの活躍があったからで……」
と、俺が慌ててそう言うと、
「領主の家族が領民の為に戦うのは当然だ。君たちはライセンスを持つハンターだ、遠慮なく受け取って欲しい」
という言葉をかけられると、
「分かりました……ありがたく頂戴致します」
と、ユナが勝手に了承してしまった……まあ、それでいいんだけど。
「でも、家族ということは……ユアンも、その……」
彼女はちょっと口ごもる。
「ああ、新しい家族だ。試練を果たし、その上、ドラゴンスレイヤーにまでなった彼には、ミウに婿入りしてもらうつもりだ」
と、オルドさんが明言したものだから……ミウもユアンも、真っ赤になってしまっていた。
ここで彼の奥さんであるイリスさんが立ち上がり、数日前に、ミウの最良の結婚相手を占いに来たときの非礼を詫びた。
俺もユナも立ち上がって、いえいえ、気にしていませんから、と、慌てて返した。
オルドさんによると、元々、ユアンは最初から養子にするつもりで引き取ったのだという。
両親を亡くした子供が集められた、とある施設をオルドさんが訪問した際、目に止まった男の子がいた。一目で、この子供に眠る戦いの素質に気付いたという。
表だっては召使いという扱いだが、その実、自分の後継者となれるよう、オルドさんは厳しく指導を重ねた。
ユアンは、あらゆる技を吸収し、肉体の成長と共に、上級者レベルの剣術まで身につけるようになったのだという。
素直な性格で、元々、イリスさんも気に入っていたが、まさか夫が養子にしようとしているとまでは考えていなかったらしい。
そこに今回の、俺達の占い結果。
そしてオルドさんは、二人に話を聞いて、恋仲であると確信し、今回の試練、そして中級冒険者三人による腕試しを実施したのだという。
占いの結果に驚き、最初は反対していたイリスさんも、娘が幸せになるのであればそれに越したことはない、今は納得していると話してくれた。
ただ、オルドさんにもいくつか想定外の事があった。
ミウの家出、俺とユナを連れてきたこと、そして極めつけが真竜の襲撃。
真竜に対しては既に討伐隊を派遣していたそうだが、そちらが空振りになった格好だ。
そしてこれほど様々なことのタイミングが重なり、ここで食事をしているメンバーの縁が出来たことは、神から授かったという俺の『縁結び』の力によるものに違いないと絶賛してくれた。
いや、単なる偶然の要素が大きいと思うんだけど……。
ちなみに隣のユナは、さっきの二千万の話を聞いてから、ずっとにやけっぱなしだ。オルドさんの話を、どれほど真剣に聞いているのやら……。
食事が終わり、紅茶が運ばれて来て、それを飲んでいるときだった。
「……さて、ここからが話の本題になる」
と、オルドさんは切り出した……って、え? 今までも、結構重大発表を連発してたと思うけど?
彼がなにやら合図をすると、メイドさんや召使いの方達が皆、一礼して部屋を出て行った。
人払いだ。ということは、本当に重要な案件のようだ。
「私は一旦帰って来たが、またすぐ国王陛下の元に舞い戻らなければならない……それは聞いていたか?」
「はい、それはミウさんから」
「うむ。それで、何のためにここに帰って来たかというと……国王陛下から、全領主にお達しがあった。その内容は、『腕の良い、優秀な医者と、占い師、呪術師を連れてこい』という前例のないものだった」
「……なんか、とっても嫌な予感のする命令ですね……」
本音をつい口にしてしまった。
「まあ、そう思うのも無理はない……しかし、私は今、専属の優秀な医師も、占い師も抱えてはおらぬ……どうやって探そうかと考えていた時に、竜討伐の陳情に来た一団がおり、その中に、顔と評判を知っているジル医師の姿があった。彼に事情を話すと、二つ返事で王国にお供します、と引き受けてくれた。残りは腕の良い占い師か呪術師……ジル医師は、心あたりがあると、君たちの事を紹介してくれた」
「……なるほど、それでイリスさんとミウさんが、我々のところに来たわけですね」
「そういうことになる。申し訳ない、君たちの腕試しのような事をしてしまって……そして占いの結果は、この通りすばらしいものとなった」
と、ユアンとミウの方に腕を伸ばして指し示し、褒め称えてくれた。
「そこで、だ……君たちにも、王都に来て欲しいんだ。そこで占いをしてもらいたい」
「……ちょ、ちょっと待ってください。そんな、いきなり言われても、俺は、最も幸せになれる結婚相手を占えるっていうだけで……内容も分からないし……」
いきなりすぎると考えたし、辞退しようとも思った。
しかし、次の彼の言葉は、悲壮感に溢れていた。
「すまなかったな、占いの依頼内容を先に言うべきだったか……対象は、現国王陛下の第一王女様だ。まだ十代の彼女は、とある強力な呪いを受けて、意識不明の昏睡状態に陥っている。ずっと眠り続けており、その状況を救えるのは、とびきり優秀な医師、または非常に腕の良い占い師か呪術師しかいないではないかということだ」
「呪い!? でも……俺は、最良の結婚相手を……いや、待てよ……」
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