31 / 44
異世界の歓楽街
しおりを挟む
アイゼンの屋敷は広く、地下室も複数存在する。
俺の部屋とゲートで結ばれている部屋の他にも、同じような石造りの空間を持つ地下室があった。
そちらは幾分明かりの数も多く、部屋自体の広さも倍以上の大きさだった。
そこに立っているのは、俺とミクの二人だけ。アイゼンに頼まれ、一緒に薬草を買いに行くのだ。
時刻は夜21時を回っている。こんな時間に街まで買い物を、と言われてどうするのかと思ったのだが、そこはアイゼンが作った魔法陣を使用するのだという。
俺たちが今立っている部屋からは、リエージェ国内の複数の拠点に転移することができるらしい。
それならば遺跡の魔法陣と似たような魔法なのだと思ったのだが、向こうからもこちらに帰ってこられるらしく、そういう意味ではアイゼンのそれの方が優れているように考えた。
しかし、前にも言われた通り、定期的にメンテナンスが必要であり、かつ、発動時には幾分転移者の魔力を吸い取られるらしいので、魔法技術としての総合的な性能はかなり劣るらしい。
とはいえ、アイゼンの魔法陣だって、この国で使用できるものは10人もいないほどの超高等魔法だという話だった。
ちなみに、それを教えてくれたのは途中まで見送ってくれたエルフのソフィアだ。
ミクは基本的にあまり喋らず、そういう意味では、今二人っきりの状況はちょっと気まずい。
彼女は相変わらずメイド姿だ……買い物に行くならそれもあり、か。
だいたい、こんな小柄で年頃の可愛い女の子を、夜の街へ俺と二人っきりで送り出していいのだろうか……という思いもしたのだが、彼女は強力な雷撃魔法の使い手だ。俺のことなんてまったく警戒する必要がないのだ。
シルヴィの時もそうだったが、逆に俺が護衛される立場なのかもしれない。
俺のそんな思いをよそに、メイドのミクは真ん中あたりに描かれた魔法陣に俺を招き入れ、すぐ側に立って、小さく呪文を唱えた。
ふっと体が軽くなり、次の瞬間には、先ほどとは雰囲気が異なる、やや薄暗く、大分狭い、おそらく地下室へと転移が完了していた。
その部屋の扉には鍵がかかっていたが、それもミクが短く呪文を唱えると解除された。
狭い階段をミクの後に続いて上ると、そこそこ豪華な作りの建物であることが分かった。
ただ、アイゼンの屋敷に比べればずっと狭く、また、装飾なども最低限のシンプルなものではあったが、例えるならば貴族の別荘、というような、品の良さが漂っていた。
さらに案内されて廊下を歩くと、二階へと続く階段があったが、それはスルーしてなお進み、そして立派な玄関のドアを、やはり呪文を唱えて開けると、そこはもう商業地区だった。
石畳の大きな道路の両脇には、大小さまざまな建物が並んでいる。
ところどころに街灯が存在し、オレンジ色の光が灯っている……あれはガス灯なのだろうか、それとも魔法なのだろうか。
この時間帯だというのに人通りは多い。
目につく範囲内では人間しかいないのだが、いかにも商人、という雰囲気の太ったオジサンが接客していたり、立派な剣と鎧で武装した戦士風の男が歩いていたり、宿屋らしき建物の前で呼び込みをする少年が居たり、と、雰囲気こそ全く異なるものの、その喧騒は現世界の歓楽街のようでもあった。
ちなみに、これらの様子は、俺の肩にストラップマウントでつけたウェアラブルカメラによって、すべて撮影されている。
「……薬屋はこっち」
相変わらず必要最小限のことしか話さないミクに案内されて、キョロキョロしながら歩いていく。
石橋のところまで歩いたところで、その美しい光景に目を奪われた。
下に流れるのは、幅10メートルほどの川……いや、運河だろうか。
その緩やかな流れの水面に、街灯の光が反射して、ずっと向こうまで続いている。
建物の窓からこぼれる光がそこに加わり、さらに細長い船が人を乗せてゆっくりと進んでいる。
俺はしばし立ち止まって、その光景に見入った。
「……なるほど、これは幻想的だ……アイゼンさんは、これを見せたかったんだな……」
「……綺麗……」
すぐ隣のミクがつぶやいたのを、俺は意外に思って彼女の顔を見た。
あまり表情の変化はないものの、俺と同じく、その光景を見入っていることだけは分かった。
「えっと……ミクは、何度か来たことがあるんだよな?」
「うん……でも、昼間しか来たことなかった」
そういえば、そんな話だったな……。
やっぱり、わざわざ夜に薬草を買いに行くように指示したアイゼンの本心は、俺のこの光景を見せるための配慮だったんだろうな。
と、二人で少しの間、川面を眺めていると、ガラの悪そうな男三人が声をかけてきた。
ちょっと酔っているようだ。
「よう、お二人さん……熱いねえ、一緒に夜の運河を見つめるなんて……俺たちが、もっといいところ紹介してやるから、一緒に行かないかぁ?」
男たちの中でもひと際体の大きな、左頬に大きな傷のある屈強そうな男がそう声をかけてきた。
彼は剣も装備している。
面倒なことになったな、と思い始めた。
俺の部屋とゲートで結ばれている部屋の他にも、同じような石造りの空間を持つ地下室があった。
そちらは幾分明かりの数も多く、部屋自体の広さも倍以上の大きさだった。
そこに立っているのは、俺とミクの二人だけ。アイゼンに頼まれ、一緒に薬草を買いに行くのだ。
時刻は夜21時を回っている。こんな時間に街まで買い物を、と言われてどうするのかと思ったのだが、そこはアイゼンが作った魔法陣を使用するのだという。
俺たちが今立っている部屋からは、リエージェ国内の複数の拠点に転移することができるらしい。
それならば遺跡の魔法陣と似たような魔法なのだと思ったのだが、向こうからもこちらに帰ってこられるらしく、そういう意味ではアイゼンのそれの方が優れているように考えた。
しかし、前にも言われた通り、定期的にメンテナンスが必要であり、かつ、発動時には幾分転移者の魔力を吸い取られるらしいので、魔法技術としての総合的な性能はかなり劣るらしい。
とはいえ、アイゼンの魔法陣だって、この国で使用できるものは10人もいないほどの超高等魔法だという話だった。
ちなみに、それを教えてくれたのは途中まで見送ってくれたエルフのソフィアだ。
ミクは基本的にあまり喋らず、そういう意味では、今二人っきりの状況はちょっと気まずい。
彼女は相変わらずメイド姿だ……買い物に行くならそれもあり、か。
だいたい、こんな小柄で年頃の可愛い女の子を、夜の街へ俺と二人っきりで送り出していいのだろうか……という思いもしたのだが、彼女は強力な雷撃魔法の使い手だ。俺のことなんてまったく警戒する必要がないのだ。
シルヴィの時もそうだったが、逆に俺が護衛される立場なのかもしれない。
俺のそんな思いをよそに、メイドのミクは真ん中あたりに描かれた魔法陣に俺を招き入れ、すぐ側に立って、小さく呪文を唱えた。
ふっと体が軽くなり、次の瞬間には、先ほどとは雰囲気が異なる、やや薄暗く、大分狭い、おそらく地下室へと転移が完了していた。
その部屋の扉には鍵がかかっていたが、それもミクが短く呪文を唱えると解除された。
狭い階段をミクの後に続いて上ると、そこそこ豪華な作りの建物であることが分かった。
ただ、アイゼンの屋敷に比べればずっと狭く、また、装飾なども最低限のシンプルなものではあったが、例えるならば貴族の別荘、というような、品の良さが漂っていた。
さらに案内されて廊下を歩くと、二階へと続く階段があったが、それはスルーしてなお進み、そして立派な玄関のドアを、やはり呪文を唱えて開けると、そこはもう商業地区だった。
石畳の大きな道路の両脇には、大小さまざまな建物が並んでいる。
ところどころに街灯が存在し、オレンジ色の光が灯っている……あれはガス灯なのだろうか、それとも魔法なのだろうか。
この時間帯だというのに人通りは多い。
目につく範囲内では人間しかいないのだが、いかにも商人、という雰囲気の太ったオジサンが接客していたり、立派な剣と鎧で武装した戦士風の男が歩いていたり、宿屋らしき建物の前で呼び込みをする少年が居たり、と、雰囲気こそ全く異なるものの、その喧騒は現世界の歓楽街のようでもあった。
ちなみに、これらの様子は、俺の肩にストラップマウントでつけたウェアラブルカメラによって、すべて撮影されている。
「……薬屋はこっち」
相変わらず必要最小限のことしか話さないミクに案内されて、キョロキョロしながら歩いていく。
石橋のところまで歩いたところで、その美しい光景に目を奪われた。
下に流れるのは、幅10メートルほどの川……いや、運河だろうか。
その緩やかな流れの水面に、街灯の光が反射して、ずっと向こうまで続いている。
建物の窓からこぼれる光がそこに加わり、さらに細長い船が人を乗せてゆっくりと進んでいる。
俺はしばし立ち止まって、その光景に見入った。
「……なるほど、これは幻想的だ……アイゼンさんは、これを見せたかったんだな……」
「……綺麗……」
すぐ隣のミクがつぶやいたのを、俺は意外に思って彼女の顔を見た。
あまり表情の変化はないものの、俺と同じく、その光景を見入っていることだけは分かった。
「えっと……ミクは、何度か来たことがあるんだよな?」
「うん……でも、昼間しか来たことなかった」
そういえば、そんな話だったな……。
やっぱり、わざわざ夜に薬草を買いに行くように指示したアイゼンの本心は、俺のこの光景を見せるための配慮だったんだろうな。
と、二人で少しの間、川面を眺めていると、ガラの悪そうな男三人が声をかけてきた。
ちょっと酔っているようだ。
「よう、お二人さん……熱いねえ、一緒に夜の運河を見つめるなんて……俺たちが、もっといいところ紹介してやるから、一緒に行かないかぁ?」
男たちの中でもひと際体の大きな、左頬に大きな傷のある屈強そうな男がそう声をかけてきた。
彼は剣も装備している。
面倒なことになったな、と思い始めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる