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焦燥
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「ミク、落ち着け! 魔法は厳罰なんだろう!?」
俺は必死になだめようとした……しかし、俺の声など聞こえていないかのように右手の魔力を強めていく。
「ふん、無駄なことを……」
男はそう言うと、自身もミクに向けて左手をかざした……すると、さっきまで青白い電撃がスパークしていたものが、まるで男の手に吸い取られるように消えてしまった。
これには俺も驚いたし、ミクもまた、先ほど以上に目を見開いて驚愕していた。
若干、顔が青ざめている。
「ククッ……しかし、その若さでここまで雷撃が練られるとはな……さすがは大賢者アイザックの弟子の娘、か……いや、今はおまえも直接の弟子だったか? よくそこまで成長したものだ」
こいつ……ミクがアイザックと関りを持っていることを知っている……いや、それどころか、俺の知らない情報まで……。
「この男からはほとんど魔力を感じぬ……ただの付き添いか? 奇妙な道具を身に付けているが、それも魔道具というわけではあるまい」
男は、俺のこともジロリと見つめてそう言った……それだけで背中に冷たいものが走った。
「俺としては、今すぐお前たちを無理にでも館に連れていきたいところだが、ここで騒ぎになることは好ましくない。おとなしく従ってもらえないだろうか?」
周りの人間には比較的落ち着いた、穏やかな声に聞こえたかもしれないが、当事者、つまり俺達には、聞く者を屈服させるような冷たい響きがあった。
また、従わねば力ずくでも、という意思のようなものも感じられた。
うすら笑いを浮かべ、蛇のような眼、異様に白い肌、真夏なのに黒いコート、そしてミクのことを知っており、さらには彼女の発現しかけた魔法を吸い取る能力を持つこの男……絶対にヤバイ奴だ!
ミクがこれだけ怖がり、今も震えていることが、そのヤバさを裏付けていた。
こうなると、できることは限られてくる。
逃げるか、従うか、戦うか。
従う、という選択は取りたくない。
逃げるか戦うだが、獣人のシルヴィならともかく、あまり体力のなさそうなミクだと、逃げてもすぐ追いつかれそうだ。
戦うのはもっとヤバい。ミクの魔力を吸い取るところを、先ほど見たばっかりだ。
おそらくこいつも魔法が使えるだろう。
魔法は厳罰……いや、それどころではない。
こいつは……この目は、街中だろうが抵抗すれば容赦なく殺す……そんな狂気じみた冷酷さを感じてしまう。
ならばやはり従うしかないのか。
こいつの言う館についていって……だめだ、雑談して帰ってくるだけのはずがない。
これって、ひょっとして、詰んでいるのか?
いや……まだ、戦えないと決まったわけじゃない。逃げ切れないと決まっているわけでもない。
俺は、腰に下げていたあるものを手に取った。
それを男の目線にまで持ち上げる。
「何のつもりだ? そんな細く小さな棒を武器にするつもりか? それとも、何かの魔道具なのか? そうは見えないが……まあいい、俺を楽しませてくれ」
完全に俺のことを小ばかにした、余裕の表情だ。
たしかに大した仕掛けじゃないし、ほんの一瞬の目くらましにしかならないが、現世界と比べればずっと薄暗い夜の街だ、数十秒は効果があるはず……。
俺はそう考えて、そのLEDフラッシュライトを最高光度で、男の目の前で点灯させた。
「うぐおおおおおぅっ!」
予想外に効果があり、男は、両手で目を抑えてうずくまった。
「ミク、今だっ! 逃げるぞっ!」
成り行きを呆然と見つめていた彼女だったが、俺の一言で我に返ったのか、一緒に走り出した。
周囲の野次馬たちも、騒然としていた。
「……なんなんだ、あいつは! まともじゃないだろうっ!」
俺の言葉に対して、ミクは無言だ。
ただ、彼女にしては珍しく、ひどく焦燥したような表情に感じられた。
俺は必死になだめようとした……しかし、俺の声など聞こえていないかのように右手の魔力を強めていく。
「ふん、無駄なことを……」
男はそう言うと、自身もミクに向けて左手をかざした……すると、さっきまで青白い電撃がスパークしていたものが、まるで男の手に吸い取られるように消えてしまった。
これには俺も驚いたし、ミクもまた、先ほど以上に目を見開いて驚愕していた。
若干、顔が青ざめている。
「ククッ……しかし、その若さでここまで雷撃が練られるとはな……さすがは大賢者アイザックの弟子の娘、か……いや、今はおまえも直接の弟子だったか? よくそこまで成長したものだ」
こいつ……ミクがアイザックと関りを持っていることを知っている……いや、それどころか、俺の知らない情報まで……。
「この男からはほとんど魔力を感じぬ……ただの付き添いか? 奇妙な道具を身に付けているが、それも魔道具というわけではあるまい」
男は、俺のこともジロリと見つめてそう言った……それだけで背中に冷たいものが走った。
「俺としては、今すぐお前たちを無理にでも館に連れていきたいところだが、ここで騒ぎになることは好ましくない。おとなしく従ってもらえないだろうか?」
周りの人間には比較的落ち着いた、穏やかな声に聞こえたかもしれないが、当事者、つまり俺達には、聞く者を屈服させるような冷たい響きがあった。
また、従わねば力ずくでも、という意思のようなものも感じられた。
うすら笑いを浮かべ、蛇のような眼、異様に白い肌、真夏なのに黒いコート、そしてミクのことを知っており、さらには彼女の発現しかけた魔法を吸い取る能力を持つこの男……絶対にヤバイ奴だ!
ミクがこれだけ怖がり、今も震えていることが、そのヤバさを裏付けていた。
こうなると、できることは限られてくる。
逃げるか、従うか、戦うか。
従う、という選択は取りたくない。
逃げるか戦うだが、獣人のシルヴィならともかく、あまり体力のなさそうなミクだと、逃げてもすぐ追いつかれそうだ。
戦うのはもっとヤバい。ミクの魔力を吸い取るところを、先ほど見たばっかりだ。
おそらくこいつも魔法が使えるだろう。
魔法は厳罰……いや、それどころではない。
こいつは……この目は、街中だろうが抵抗すれば容赦なく殺す……そんな狂気じみた冷酷さを感じてしまう。
ならばやはり従うしかないのか。
こいつの言う館についていって……だめだ、雑談して帰ってくるだけのはずがない。
これって、ひょっとして、詰んでいるのか?
いや……まだ、戦えないと決まったわけじゃない。逃げ切れないと決まっているわけでもない。
俺は、腰に下げていたあるものを手に取った。
それを男の目線にまで持ち上げる。
「何のつもりだ? そんな細く小さな棒を武器にするつもりか? それとも、何かの魔道具なのか? そうは見えないが……まあいい、俺を楽しませてくれ」
完全に俺のことを小ばかにした、余裕の表情だ。
たしかに大した仕掛けじゃないし、ほんの一瞬の目くらましにしかならないが、現世界と比べればずっと薄暗い夜の街だ、数十秒は効果があるはず……。
俺はそう考えて、そのLEDフラッシュライトを最高光度で、男の目の前で点灯させた。
「うぐおおおおおぅっ!」
予想外に効果があり、男は、両手で目を抑えてうずくまった。
「ミク、今だっ! 逃げるぞっ!」
成り行きを呆然と見つめていた彼女だったが、俺の一言で我に返ったのか、一緒に走り出した。
周囲の野次馬たちも、騒然としていた。
「……なんなんだ、あいつは! まともじゃないだろうっ!」
俺の言葉に対して、ミクは無言だ。
ただ、彼女にしては珍しく、ひどく焦燥したような表情に感じられた。
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