異世界の動画や写真をSNSにアップしたら、思いのほかバズりました!

エール

文字の大きさ
35 / 44

男の正体

しおりを挟む
 ミクは、ソフィアに抱えられて自分の寝室へと運ばれていった。

 その間に、俺は荷物の中からタブレット端末を取り出し、それにウェアラブルカメラから取り出したSDカードをセットする。
 そうしている間に、騒ぎを自室で聞いて聞いていたであろう獣人のシルヴィも、ギプスで固定した足をかばいながらやってきた。

 ソフィアも帰ってきたので、ミクを除く全員で、一旦小さな会議室に集まることにした。
 ここは防音処理がされているらしいので、多少声を出しても、アイゼンの鎮静の魔法で寝ているミクを起こすことはない。

「……それで、何があったというんだ?」

 ソフィアが、かなり厳しめの視線で俺に問いかけてくる。

「異常な男に出会った……といっても、それだけじゃあよくわからないだろうし、俺もうまく説明できない。ただ、ずっと肩に装着していたカメラでそれを今から見せる。うまく映っているかどうかわからないけど……」

 俺はそう言いながら、タブレット端末を操作した。
 そして現れた動画に、一同、息を飲む。
 今までのスマホ画面よりずっと大きく、ずっと鮮明に動画が再生されたからだ。

 手振れ補正機能も付いているので、かなり滑らかな映像だ。
 だが、皆、ミクの様子から異様な出来事が起きたことは予想していたようなので、まずその真相を知りたいと思ったのか、この再生品質の良さに対する質問などは出てこなかった。

 映像の中で、俺とミクは転移魔法陣を抜け、建物から出て、夜のアナンの街を二人で歩く。

「……綺麗な景色ですね……夜はこんな風になるんですね。でも……」

 シルヴィがちょっとじれたように言葉を出した。

「ああ、肝心の部分はもっと先だ。そこまで映像を飛ばす」

 そう言って操作すると、俺たちに絡んできた男三人組の姿が映った。
 これも飛ばそうとしたのだが、

「待ってくれ、今、変な男が三人現れたぞ! もっと見せてくれ!」

 と、ソフィアが余計な指摘をしてきた。

「いや、こいつらは関係ないから……」

「そうか? ……いや、しかし見ておきたい」

 彼女はそう言って譲らないし、アイゼンもその言葉にうなずく。
 俺としてはまったく関係ないことを知っているので飛ばしたかったが、ミクは落ち着いて寝ていることだし、特に焦る必要もない。
 男三人たちとのやり取りを、すべて再生した。

「……なかなかやるな……」

 ソフィアは、俺が男たちを追い払った様子を見てそうつぶやいた。

「さすがショウさん、カッコいいです!」

 シルヴィは耳をピコピコ動かして絶賛してくれる。
 だが、それで喜んでいる場合ではない。

「こんなやつら、問題じゃないんだ……この後、もっと異常な男に出会ったんだ」

 俺はそう言って、さらに場面を飛ばした。
 そして薬草を買った帰りあたりから再生を再開する。

「……そういえば、薬草持ってきていなかったな……」

「それどころじゃなかったんだ……もうすぐその理由が分かる」

 ソフィアの、今となってはどうでもいい疑問をスルーして、さらに再生を勧めた。

『……見つけたぞ……何度か残り香は感じていたが……夜にこの街に来たのは初めてじゃないのか?』

 そう言いながら目の前に登場したその男を見て、アイゼンは今まで見せたことのない驚愕の表情を浮かべ、椅子を後ろに飛ばす勢いで立ち上がった。

「……まさか、こやつ……いや、まさか……」

 大賢者が、明らかに動揺していた。
 そしてカメラは、ガタガタと震えながら俺の腕に左腕でしがみつき、電撃魔法をため込むミクの姿を捉えていた。

「なっ……街中で雷撃魔法、だと!? たしかに異様な目つきの男だが、それだけで……ミク、正気か!?」

 ソフィアは、ミクの行動が理解できないと、別の意味で驚愕しているようだった。 

『ミク、落ち着け! 魔法は厳罰なんだろう!?』

 俺のなだめる声が響く。しかし、彼女はその魔法を止めようとしない。

『ふん、無駄なことを……』

 そう言って、その男かミクの魔法を吸い取る様子も克明に録画されていた。

「なんだと!? あれだけ高密度の雷撃を、いとも簡単に……」

 さすがにソフィアも、その男がずっとヤバイ奴だということに気づいたようだ。
 シルヴィも目を見開いて固まり、アイゼンに至っては、立ち尽くしたまま、それほど暑くもないのに汗をかいているようなありさまだった。

『ククッ……しかし、その若さでここまで雷撃が練られるとはな……さすがは大賢者アイゼンの弟子の娘、か……いや、今はおまえも直接の弟子だったか? よくそこまで成長したものだ』

 その言葉が決定的なものとなった。

「……こいつ、ミクを……アイゼン様を知っているのか?」

「どうしてこの人が……二人とどういう関係……」

 ソフィアもシルヴィも、唖然としたままだ。
 そして俺が高輝度LEDライトの光を浴びせ、逃げ出し、建物の魔法陣を発動させるところまで再生して、その動画を止めた。

 アイゼンは大量の汗をかき、ふらつくように椅子に腰を下ろした。
 そして目を瞑り、何かをぶつぶつ呟くと、そのまま一分ほど沈黙した。
 それがやけに長い時間に感じたが……やがて彼はゆっくりと目を開いた。

「神の化身・トゥエル様は、これほどの試練をお与えになるのか……いや、あるいは、ショウ殿を遣わされることで、危機を回避させていただいたのか……ふむ、ミクがケガもなく無事帰ってきたことを考えれば、後者と考えられるのう。もし、ミクが一人であの男に出会っておれば、生きて帰ってくることはなかった。そしてそれはいつか現実のものとなっておっただろう。あやつも、ミクのことを探しておったようだしのう……」

 少し落ち着いたのか、アイゼンは静かに話し始めた。

「……この男は、何者なのですか?」

 俺は真っ先に浮かんだ質問を、素直に口にした。

「うむ、ショウ殿にも……そして皆にも、きちんと説明しておいた方がいいようじゃのう……この男は……顔つき、体つきこそ以前会ったときから変わっておるが、この目、そしてミクと儂のことを知っておったことから、その正体が特定できる……こやつの名はヴェルサーガ。不死族妖魔の頂点に君臨する存在。ヴァンパイアロードとも呼ばれる、唯一無二の存在……そしてミクの両親を、彼女の目の前で惨殺した男じゃ……」

 アイゼンが絞り出すようにつぶやいたその言葉に、俺の背中に冷たいものが走り抜けた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...