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男の正体
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ミクは、ソフィアに抱えられて自分の寝室へと運ばれていった。
その間に、俺は荷物の中からタブレット端末を取り出し、それにウェアラブルカメラから取り出したSDカードをセットする。
そうしている間に、騒ぎを自室で聞いて聞いていたであろう獣人のシルヴィも、ギプスで固定した足をかばいながらやってきた。
ソフィアも帰ってきたので、ミクを除く全員で、一旦小さな会議室に集まることにした。
ここは防音処理がされているらしいので、多少声を出しても、アイゼンの鎮静の魔法で寝ているミクを起こすことはない。
「……それで、何があったというんだ?」
ソフィアが、かなり厳しめの視線で俺に問いかけてくる。
「異常な男に出会った……といっても、それだけじゃあよくわからないだろうし、俺もうまく説明できない。ただ、ずっと肩に装着していたカメラでそれを今から見せる。うまく映っているかどうかわからないけど……」
俺はそう言いながら、タブレット端末を操作した。
そして現れた動画に、一同、息を飲む。
今までのスマホ画面よりずっと大きく、ずっと鮮明に動画が再生されたからだ。
手振れ補正機能も付いているので、かなり滑らかな映像だ。
だが、皆、ミクの様子から異様な出来事が起きたことは予想していたようなので、まずその真相を知りたいと思ったのか、この再生品質の良さに対する質問などは出てこなかった。
映像の中で、俺とミクは転移魔法陣を抜け、建物から出て、夜のアナンの街を二人で歩く。
「……綺麗な景色ですね……夜はこんな風になるんですね。でも……」
シルヴィがちょっとじれたように言葉を出した。
「ああ、肝心の部分はもっと先だ。そこまで映像を飛ばす」
そう言って操作すると、俺たちに絡んできた男三人組の姿が映った。
これも飛ばそうとしたのだが、
「待ってくれ、今、変な男が三人現れたぞ! もっと見せてくれ!」
と、ソフィアが余計な指摘をしてきた。
「いや、こいつらは関係ないから……」
「そうか? ……いや、しかし見ておきたい」
彼女はそう言って譲らないし、アイゼンもその言葉にうなずく。
俺としてはまったく関係ないことを知っているので飛ばしたかったが、ミクは落ち着いて寝ていることだし、特に焦る必要もない。
男三人たちとのやり取りを、すべて再生した。
「……なかなかやるな……」
ソフィアは、俺が男たちを追い払った様子を見てそうつぶやいた。
「さすがショウさん、カッコいいです!」
シルヴィは耳をピコピコ動かして絶賛してくれる。
だが、それで喜んでいる場合ではない。
「こんなやつら、問題じゃないんだ……この後、もっと異常な男に出会ったんだ」
俺はそう言って、さらに場面を飛ばした。
そして薬草を買った帰りあたりから再生を再開する。
「……そういえば、薬草持ってきていなかったな……」
「それどころじゃなかったんだ……もうすぐその理由が分かる」
ソフィアの、今となってはどうでもいい疑問をスルーして、さらに再生を勧めた。
『……見つけたぞ……何度か残り香は感じていたが……夜にこの街に来たのは初めてじゃないのか?』
そう言いながら目の前に登場したその男を見て、アイゼンは今まで見せたことのない驚愕の表情を浮かべ、椅子を後ろに飛ばす勢いで立ち上がった。
「……まさか、こやつ……いや、まさか……」
大賢者が、明らかに動揺していた。
そしてカメラは、ガタガタと震えながら俺の腕に左腕でしがみつき、電撃魔法をため込むミクの姿を捉えていた。
「なっ……街中で雷撃魔法、だと!? たしかに異様な目つきの男だが、それだけで……ミク、正気か!?」
ソフィアは、ミクの行動が理解できないと、別の意味で驚愕しているようだった。
『ミク、落ち着け! 魔法は厳罰なんだろう!?』
俺のなだめる声が響く。しかし、彼女はその魔法を止めようとしない。
『ふん、無駄なことを……』
そう言って、その男かミクの魔法を吸い取る様子も克明に録画されていた。
「なんだと!? あれだけ高密度の雷撃を、いとも簡単に……」
さすがにソフィアも、その男がずっとヤバイ奴だということに気づいたようだ。
シルヴィも目を見開いて固まり、アイゼンに至っては、立ち尽くしたまま、それほど暑くもないのに汗をかいているようなありさまだった。
『ククッ……しかし、その若さでここまで雷撃が練られるとはな……さすがは大賢者アイゼンの弟子の娘、か……いや、今はおまえも直接の弟子だったか? よくそこまで成長したものだ』
その言葉が決定的なものとなった。
「……こいつ、ミクを……アイゼン様を知っているのか?」
「どうしてこの人が……二人とどういう関係……」
ソフィアもシルヴィも、唖然としたままだ。
そして俺が高輝度LEDライトの光を浴びせ、逃げ出し、建物の魔法陣を発動させるところまで再生して、その動画を止めた。
アイゼンは大量の汗をかき、ふらつくように椅子に腰を下ろした。
そして目を瞑り、何かをぶつぶつ呟くと、そのまま一分ほど沈黙した。
それがやけに長い時間に感じたが……やがて彼はゆっくりと目を開いた。
「神の化身・トゥエル様は、これほどの試練をお与えになるのか……いや、あるいは、ショウ殿を遣わされることで、危機を回避させていただいたのか……ふむ、ミクがケガもなく無事帰ってきたことを考えれば、後者と考えられるのう。もし、ミクが一人であの男に出会っておれば、生きて帰ってくることはなかった。そしてそれはいつか現実のものとなっておっただろう。あやつも、ミクのことを探しておったようだしのう……」
少し落ち着いたのか、アイゼンは静かに話し始めた。
「……この男は、何者なのですか?」
俺は真っ先に浮かんだ質問を、素直に口にした。
「うむ、ショウ殿にも……そして皆にも、きちんと説明しておいた方がいいようじゃのう……この男は……顔つき、体つきこそ以前会ったときから変わっておるが、この目、そしてミクと儂のことを知っておったことから、その正体が特定できる……こやつの名はヴェルサーガ。不死族妖魔の頂点に君臨する存在。ヴァンパイアロードとも呼ばれる、唯一無二の存在……そしてミクの両親を、彼女の目の前で惨殺した男じゃ……」
アイゼンが絞り出すようにつぶやいたその言葉に、俺の背中に冷たいものが走り抜けた――。
その間に、俺は荷物の中からタブレット端末を取り出し、それにウェアラブルカメラから取り出したSDカードをセットする。
そうしている間に、騒ぎを自室で聞いて聞いていたであろう獣人のシルヴィも、ギプスで固定した足をかばいながらやってきた。
ソフィアも帰ってきたので、ミクを除く全員で、一旦小さな会議室に集まることにした。
ここは防音処理がされているらしいので、多少声を出しても、アイゼンの鎮静の魔法で寝ているミクを起こすことはない。
「……それで、何があったというんだ?」
ソフィアが、かなり厳しめの視線で俺に問いかけてくる。
「異常な男に出会った……といっても、それだけじゃあよくわからないだろうし、俺もうまく説明できない。ただ、ずっと肩に装着していたカメラでそれを今から見せる。うまく映っているかどうかわからないけど……」
俺はそう言いながら、タブレット端末を操作した。
そして現れた動画に、一同、息を飲む。
今までのスマホ画面よりずっと大きく、ずっと鮮明に動画が再生されたからだ。
手振れ補正機能も付いているので、かなり滑らかな映像だ。
だが、皆、ミクの様子から異様な出来事が起きたことは予想していたようなので、まずその真相を知りたいと思ったのか、この再生品質の良さに対する質問などは出てこなかった。
映像の中で、俺とミクは転移魔法陣を抜け、建物から出て、夜のアナンの街を二人で歩く。
「……綺麗な景色ですね……夜はこんな風になるんですね。でも……」
シルヴィがちょっとじれたように言葉を出した。
「ああ、肝心の部分はもっと先だ。そこまで映像を飛ばす」
そう言って操作すると、俺たちに絡んできた男三人組の姿が映った。
これも飛ばそうとしたのだが、
「待ってくれ、今、変な男が三人現れたぞ! もっと見せてくれ!」
と、ソフィアが余計な指摘をしてきた。
「いや、こいつらは関係ないから……」
「そうか? ……いや、しかし見ておきたい」
彼女はそう言って譲らないし、アイゼンもその言葉にうなずく。
俺としてはまったく関係ないことを知っているので飛ばしたかったが、ミクは落ち着いて寝ていることだし、特に焦る必要もない。
男三人たちとのやり取りを、すべて再生した。
「……なかなかやるな……」
ソフィアは、俺が男たちを追い払った様子を見てそうつぶやいた。
「さすがショウさん、カッコいいです!」
シルヴィは耳をピコピコ動かして絶賛してくれる。
だが、それで喜んでいる場合ではない。
「こんなやつら、問題じゃないんだ……この後、もっと異常な男に出会ったんだ」
俺はそう言って、さらに場面を飛ばした。
そして薬草を買った帰りあたりから再生を再開する。
「……そういえば、薬草持ってきていなかったな……」
「それどころじゃなかったんだ……もうすぐその理由が分かる」
ソフィアの、今となってはどうでもいい疑問をスルーして、さらに再生を勧めた。
『……見つけたぞ……何度か残り香は感じていたが……夜にこの街に来たのは初めてじゃないのか?』
そう言いながら目の前に登場したその男を見て、アイゼンは今まで見せたことのない驚愕の表情を浮かべ、椅子を後ろに飛ばす勢いで立ち上がった。
「……まさか、こやつ……いや、まさか……」
大賢者が、明らかに動揺していた。
そしてカメラは、ガタガタと震えながら俺の腕に左腕でしがみつき、電撃魔法をため込むミクの姿を捉えていた。
「なっ……街中で雷撃魔法、だと!? たしかに異様な目つきの男だが、それだけで……ミク、正気か!?」
ソフィアは、ミクの行動が理解できないと、別の意味で驚愕しているようだった。
『ミク、落ち着け! 魔法は厳罰なんだろう!?』
俺のなだめる声が響く。しかし、彼女はその魔法を止めようとしない。
『ふん、無駄なことを……』
そう言って、その男かミクの魔法を吸い取る様子も克明に録画されていた。
「なんだと!? あれだけ高密度の雷撃を、いとも簡単に……」
さすがにソフィアも、その男がずっとヤバイ奴だということに気づいたようだ。
シルヴィも目を見開いて固まり、アイゼンに至っては、立ち尽くしたまま、それほど暑くもないのに汗をかいているようなありさまだった。
『ククッ……しかし、その若さでここまで雷撃が練られるとはな……さすがは大賢者アイゼンの弟子の娘、か……いや、今はおまえも直接の弟子だったか? よくそこまで成長したものだ』
その言葉が決定的なものとなった。
「……こいつ、ミクを……アイゼン様を知っているのか?」
「どうしてこの人が……二人とどういう関係……」
ソフィアもシルヴィも、唖然としたままだ。
そして俺が高輝度LEDライトの光を浴びせ、逃げ出し、建物の魔法陣を発動させるところまで再生して、その動画を止めた。
アイゼンは大量の汗をかき、ふらつくように椅子に腰を下ろした。
そして目を瞑り、何かをぶつぶつ呟くと、そのまま一分ほど沈黙した。
それがやけに長い時間に感じたが……やがて彼はゆっくりと目を開いた。
「神の化身・トゥエル様は、これほどの試練をお与えになるのか……いや、あるいは、ショウ殿を遣わされることで、危機を回避させていただいたのか……ふむ、ミクがケガもなく無事帰ってきたことを考えれば、後者と考えられるのう。もし、ミクが一人であの男に出会っておれば、生きて帰ってくることはなかった。そしてそれはいつか現実のものとなっておっただろう。あやつも、ミクのことを探しておったようだしのう……」
少し落ち着いたのか、アイゼンは静かに話し始めた。
「……この男は、何者なのですか?」
俺は真っ先に浮かんだ質問を、素直に口にした。
「うむ、ショウ殿にも……そして皆にも、きちんと説明しておいた方がいいようじゃのう……この男は……顔つき、体つきこそ以前会ったときから変わっておるが、この目、そしてミクと儂のことを知っておったことから、その正体が特定できる……こやつの名はヴェルサーガ。不死族妖魔の頂点に君臨する存在。ヴァンパイアロードとも呼ばれる、唯一無二の存在……そしてミクの両親を、彼女の目の前で惨殺した男じゃ……」
アイゼンが絞り出すようにつぶやいたその言葉に、俺の背中に冷たいものが走り抜けた――。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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