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「……なんということじゃ……朝まで寝ておるはずの儂の魔法を、抵抗(レジスト)したというのか……」
アイゼンが青ざめていた。
「……とにかく、こうしてはいられない。すぐにミクを追いかけないと!」
俺は急いで荷物を取りに戻ろうとして走り出した。
そこに、ギプスをはめた足をかばいながらシルヴィがやって来た。
「ミクは……抜け出したんですか? アナンの街に行っちゃったんですか!?」
泣きそうな顔で、彼女は俺たちに尋ねた。
「いや、まだわからん……この屋敷のどこかにおるかもしれんし、仮にアナンの街に行っておったとしても、思い直して、あるいはヴェルサーガを見つけられずに帰ってくるかもしれん……シルヴィ、この屋敷に残って、ミクを見かけたらここに留まるように引き留めてくれ」
「……分かりました。この足では、役に立てないでしょうし……」
シルヴィは無念そうに返事をして、下を向いた。
「それから、ショウ殿も残って欲しい。我らの戦いの巻き添えにはできぬ」
アイゼンからそう忠告された。しかし……。
「いえ、俺もミクを探しに行きます。戦う力はまったくないけど……俺には、あのLEDライトがあります。ヴェルサーガは、昼間は外に出られない。太陽の光に弱いから……そして純白の光は、太陽の光と同じく、ヴァンパイアにダメージを与えられる。そうではないですか?」
俺の世界にも伝わる吸血鬼の伝承と、あの男の夜にこだわる発言、そしてLEDの光を浴びた後の異常な苦しみ方……総合的に判断すると、その可能性が極めて高かった。
「……確かにそうかもしれぬ。しかし、そうでないかもしれぬ……そうだったとしても、その便利な道具を儂らに貸し与えてもらえれば済む話ではないじゃろうか?」
「いえ……それだけが理由ではありません。もっと決定的な理由……さっき言った、俺の小説の中で、敵討ちに出た少女を助けるのは、時空を超えてやって来た青年なんです!」
力いっぱい、それはそう言葉に出した。
アイゼンは、相変わらず俺のことを睨むように、しかし、何かを見極めるように視線を向けたままだ。
「……ショウ殿……なぜ貴殿は、たった数日会っただけのミクを、そこまでして助けようとするんだ? 下手をすれば殺されるかもしれないのに……」
今度はソフィアが、問いかけの言葉を投げかけてきた。
「そこまでって……だって、仲間だろう? 放っておける訳ないじゃないか!」
俺は、単純に今の素直な気持ちを口にした。
それだけなのに、アイゼンも、ソフィアも驚いていた。
ただシルヴィだけが、
「……ショウさんは、こういう人なんです。私の時も、ただ放っておけないっていうだけで、どれだけ優しくしてくださったことか……」
目をウルウルさせながらそう話す。
「……ショウ殿、ヴェルサーガは極めて危険な男じゃ。ソフィアが言うとおり、下手をすれば殺されるやもしれぬ。それでも行くというのか?」
「別に、あの男と戦うわけじゃない。ミクを見つけたら、なんとかなだめて連れ戻す。手分けして彼女を探して、もしヤバそうな場面だったら、アイゼンさんたちを呼びに行く。逃げるときは、またあのLEDライトの光を使う……それだけだ。そんなに危険はないはずだ」
「……なんという青年じゃ……このような者を予言者として遣わせるとは……これは誠心誠意、貴殿の申し出に応えねばねばならぬな……こちらに来てくだされ。ソフィアもじゃ。シルヴィは転移魔方陣の部屋で待っていてくれ。向こうに行く前になにか伝えねばならないことがあるやも知れぬからな」
アイゼンの態度が変化したように思えた。
そして彼は、自室へと向かって急いで歩いた。
そこでは、白銀に輝く美しい、いわゆる鎖帷子を見せられた。
「……これは儂がハイ・エルフより譲り受けたものじゃ。万一攻撃を受けたときのダメージが大きく減るが、これを身につけると魔法がうまく使えん。ソフィアも同様じゃ。ショウ殿ならそれも関係なかろう……」
そう言って手渡され、その軽さに驚いた。
「これは……金属? でも、羽のように軽い……」
「その通りじゃ。さあ、身につけてみなされ」
長袖のシャツの上からそれを纏う。
胴体については肩から腰のあたりまで、腕の部分については肘のあたりまでがカバーされていた。
さらに長袖の丈夫そうな青い服を渡され、上から着るように言われた。手甲やマントもついている……なんとなく、某RPGの勇者のようだ。
「この服もなかなか防御力に優れている割に、軽い。今の格好より目立ちにくいという利点もある。少しでも危険を減らしてほしい」
なるほど、やっぱり俺の格好は、こっちの街ではちょっと目立っていたのか……いろんな民族衣装の人が歩いていたから、そうでもないと思っていたのだが。
さらに、手首に装着するストラップのようなものと、耳栓みたいなもの(片耳用)を渡された。
「これらはセットにして使う。今つけてみなされ」
アイゼンのいうとおりにしてみると、ソフィアが10メートルほど離れた廊下の端で、彼女もつけているストラップに向けて口を近づけた。
「どうだ、聞こえるか?」
「聞こえる!」
思わず大声で反応した。
「通信機じゃ……あまり遠い距離には使えんが、アナンの街中ぐらいならば十分にカバーする。これで密に連絡を取りながら行動するのじゃ」
次々にファンタジックなアイテムが出てくる。それを気前よく貸してくれるアイゼンも、やっぱりすごい人なんだな。
一通り装備して、さらに俺の荷物も背負って、急いで例の魔方陣が存在する地下室へ向かう。
そこでは、すでにシルヴィが見送りのために待機してくれていた。
俺の姿を見た彼女は、
「ショウさん……カッコいいです!」
と褒めてくれたのだが、それを喜ぶ余裕もなく、ただ短く礼だけ言った。
「シルヴィよ、留守は任せた……では、行くぞっ!」
アイゼンの短い呪文とともに、俺とソフィア、そしてアイゼンの三人は、アナンの街へと転移した。
ヴァンパイアロード・ヴェルサーガの魔手から、ミクを救い出すために――。
アイゼンが青ざめていた。
「……とにかく、こうしてはいられない。すぐにミクを追いかけないと!」
俺は急いで荷物を取りに戻ろうとして走り出した。
そこに、ギプスをはめた足をかばいながらシルヴィがやって来た。
「ミクは……抜け出したんですか? アナンの街に行っちゃったんですか!?」
泣きそうな顔で、彼女は俺たちに尋ねた。
「いや、まだわからん……この屋敷のどこかにおるかもしれんし、仮にアナンの街に行っておったとしても、思い直して、あるいはヴェルサーガを見つけられずに帰ってくるかもしれん……シルヴィ、この屋敷に残って、ミクを見かけたらここに留まるように引き留めてくれ」
「……分かりました。この足では、役に立てないでしょうし……」
シルヴィは無念そうに返事をして、下を向いた。
「それから、ショウ殿も残って欲しい。我らの戦いの巻き添えにはできぬ」
アイゼンからそう忠告された。しかし……。
「いえ、俺もミクを探しに行きます。戦う力はまったくないけど……俺には、あのLEDライトがあります。ヴェルサーガは、昼間は外に出られない。太陽の光に弱いから……そして純白の光は、太陽の光と同じく、ヴァンパイアにダメージを与えられる。そうではないですか?」
俺の世界にも伝わる吸血鬼の伝承と、あの男の夜にこだわる発言、そしてLEDの光を浴びた後の異常な苦しみ方……総合的に判断すると、その可能性が極めて高かった。
「……確かにそうかもしれぬ。しかし、そうでないかもしれぬ……そうだったとしても、その便利な道具を儂らに貸し与えてもらえれば済む話ではないじゃろうか?」
「いえ……それだけが理由ではありません。もっと決定的な理由……さっき言った、俺の小説の中で、敵討ちに出た少女を助けるのは、時空を超えてやって来た青年なんです!」
力いっぱい、それはそう言葉に出した。
アイゼンは、相変わらず俺のことを睨むように、しかし、何かを見極めるように視線を向けたままだ。
「……ショウ殿……なぜ貴殿は、たった数日会っただけのミクを、そこまでして助けようとするんだ? 下手をすれば殺されるかもしれないのに……」
今度はソフィアが、問いかけの言葉を投げかけてきた。
「そこまでって……だって、仲間だろう? 放っておける訳ないじゃないか!」
俺は、単純に今の素直な気持ちを口にした。
それだけなのに、アイゼンも、ソフィアも驚いていた。
ただシルヴィだけが、
「……ショウさんは、こういう人なんです。私の時も、ただ放っておけないっていうだけで、どれだけ優しくしてくださったことか……」
目をウルウルさせながらそう話す。
「……ショウ殿、ヴェルサーガは極めて危険な男じゃ。ソフィアが言うとおり、下手をすれば殺されるやもしれぬ。それでも行くというのか?」
「別に、あの男と戦うわけじゃない。ミクを見つけたら、なんとかなだめて連れ戻す。手分けして彼女を探して、もしヤバそうな場面だったら、アイゼンさんたちを呼びに行く。逃げるときは、またあのLEDライトの光を使う……それだけだ。そんなに危険はないはずだ」
「……なんという青年じゃ……このような者を予言者として遣わせるとは……これは誠心誠意、貴殿の申し出に応えねばねばならぬな……こちらに来てくだされ。ソフィアもじゃ。シルヴィは転移魔方陣の部屋で待っていてくれ。向こうに行く前になにか伝えねばならないことがあるやも知れぬからな」
アイゼンの態度が変化したように思えた。
そして彼は、自室へと向かって急いで歩いた。
そこでは、白銀に輝く美しい、いわゆる鎖帷子を見せられた。
「……これは儂がハイ・エルフより譲り受けたものじゃ。万一攻撃を受けたときのダメージが大きく減るが、これを身につけると魔法がうまく使えん。ソフィアも同様じゃ。ショウ殿ならそれも関係なかろう……」
そう言って手渡され、その軽さに驚いた。
「これは……金属? でも、羽のように軽い……」
「その通りじゃ。さあ、身につけてみなされ」
長袖のシャツの上からそれを纏う。
胴体については肩から腰のあたりまで、腕の部分については肘のあたりまでがカバーされていた。
さらに長袖の丈夫そうな青い服を渡され、上から着るように言われた。手甲やマントもついている……なんとなく、某RPGの勇者のようだ。
「この服もなかなか防御力に優れている割に、軽い。今の格好より目立ちにくいという利点もある。少しでも危険を減らしてほしい」
なるほど、やっぱり俺の格好は、こっちの街ではちょっと目立っていたのか……いろんな民族衣装の人が歩いていたから、そうでもないと思っていたのだが。
さらに、手首に装着するストラップのようなものと、耳栓みたいなもの(片耳用)を渡された。
「これらはセットにして使う。今つけてみなされ」
アイゼンのいうとおりにしてみると、ソフィアが10メートルほど離れた廊下の端で、彼女もつけているストラップに向けて口を近づけた。
「どうだ、聞こえるか?」
「聞こえる!」
思わず大声で反応した。
「通信機じゃ……あまり遠い距離には使えんが、アナンの街中ぐらいならば十分にカバーする。これで密に連絡を取りながら行動するのじゃ」
次々にファンタジックなアイテムが出てくる。それを気前よく貸してくれるアイゼンも、やっぱりすごい人なんだな。
一通り装備して、さらに俺の荷物も背負って、急いで例の魔方陣が存在する地下室へ向かう。
そこでは、すでにシルヴィが見送りのために待機してくれていた。
俺の姿を見た彼女は、
「ショウさん……カッコいいです!」
と褒めてくれたのだが、それを喜ぶ余裕もなく、ただ短く礼だけ言った。
「シルヴィよ、留守は任せた……では、行くぞっ!」
アイゼンの短い呪文とともに、俺とソフィア、そしてアイゼンの三人は、アナンの街へと転移した。
ヴァンパイアロード・ヴェルサーガの魔手から、ミクを救い出すために――。
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この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
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