前世が魔王のようですが、よく分からないので自由気ままに暮らしたいと思います

リヒト

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一章 記憶と魔力の目覚め

初めての実戦

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 視界が開けるとそこには沢山の地形を再現した物があった。大きな山々や川など実際の地形をそのまま写し取ったかのようだ。しかも動物型のモンスターまでいる。その数はかなり多く、この訓練所がどれだけ広いのかを実感させるものだった。

「じゃあみんなにはここで実戦をしてもらうわ。そして班ごとに評価して行くから頑張って」

 アイリスはそれだけ言って姿を消した。恐らくだが彼女はこの訓練所のどこかにいるのだろう。彼女がどこからかまた全ての生徒へ魔法を掛ける。転移の魔法をだ。そして彼らは班ごとにバラバラに散らばったのだった。

「この訓練所から出ないように。そしてモンスターの討伐をすること」それがアイリスからの指示である。

 ソフィアはエレナ、ナタリーとレーナの四人と同じ班である。

「それじゃあやるわよ」
 ソフィアはそういきごむがナタリーは少し心配そうだ。

「やるって言っても、何をすればいいんでしょうか?」
 ナタリーは恐る恐る手を挙げた。

「まぁ、作戦って言うよりも心の持ちようだと思うよ」
 エレナは優しく語る。

「そうそう、そうだねぇ~気合いかな~」

 エレナがそんな言葉を発しそれにレーナが反応する。そんな二人のやり取りにナタリーは少し緊張の糸が解けたのか、表情が柔らかくなる。

「よし!じゃあ行くわよ!」
 そんなソフィアの言葉に三人は頷いたのだった。ソフィアが先頭でそれに続いて他三人が着いて行く。ソフィアはどんなことがあろうとも、ガツガツと進んで行く為、ナタリーは着いていくのもやっとのことになっている。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

 さすがにナタリーも辛抱出来なかったのかそう呟いた。ソフィアはそれに対して彼女のことを考えていなかった。と反省し少し休憩することにした。

「悪かったわ。少し休憩しましょ。エレナ達もそれでいいわよね?」

「「いいよ」」
 エレナとレーナもソフィアのその休憩に対して肯定した。

 森の中を移動している内に太陽は一番上にまで登ってしまっている。つまり昼食の時間だ。ソフィア達はいきなりここにやってきた為、食べ物の用意なんて何も無い。昼食を用意すること、それも評価の一部になるのだろう。どのように食料を調達するのか、それもこの実戦の重要な要素という訳だ。だがそうは言ってもソフィア達にはサバイバルに使えるような知識など一切存在しない。彼女らがこの森で食べ物を見つけるのは植物中心になりそうだ。

「お腹すいたわね~」

「ソフィア。あれ見て、食べられそうじゃない?」
 エレナはそう言って指差す。その先には林檎の様なものが大きな葉の上に成っていた。なかなか目にする事のないそれを見てソフィアは目を丸くした。

「よし!じゃあこれでお昼を食べましょ」

 そういうとソフィアは一目散にその木へ駆けて高く飛んだ。木の葉にまで飛んだソフィアは空中で瞬く間に林檎のようなものをちぎり採り、両手いっぱいに抱えて帰って来た。そしてその辺に倒れていた木に座ると、ナタリーの「分からないものをいきなり食べたら危険ですよ」という忠告も無視して齧り付いた。

「だ、大丈夫ですか?ソフィアさん」

 ナタリーはソフィアの所業に、そう思いながら声をかけた。するとそんなナタリーの心配が現実と成ったのか、ソフィアが急に倒れてしまった。

「え?し、死んじゃったの?ソフィア?」

 ソフィアがいきなり倒れた為、エレナは理解出来ないという風にそう言った。ソフィアがそこら辺の毒で倒れるなんて思ってもいなかったからだ。ソフィアの規格外さは子供の頃から一緒にいたエレナが一番知っている。だからこそ今この現状はその林檎の毒が有り得ないほどの強度だということを示している。そしてエレナもソフィアが気絶したという事実を少しずつ受け止めて来ていた。

 そうなるともう手の付けようが無い。先程から「私のせいで……私のせいで……」と、うわ言のように呟き続けているナタリー。怪我人であるソフィアを泣きながら思いっきり揺らすエレナ。そして彼女らをなだめようと様々なことを試すがどうにも出来ないレーナ。そんな四人の班は、この森での初めての食事に失敗という記録を残した。


 ***


 ソフィアがパチパチと目を開けるとそこはまたもやそこは魔王とあった心の世界だった。目線の先には暗黒で象られた玉座があり、そこにふんぞり返るように魔王が堂々と座っていた。

「随分と面白いな。お前の仲間は。見ていて飽きないぞ」

 そんな魔王の言葉を皮切りにソフィアは急いで立ち上がり姿勢を正した。

「えぇ。みんな可愛いでしょう?あなたもずっと同じ表情をしていて疲れるんじゃない?そんな魔王様の表情筋も少しは働かしたほうがいいわよ」

 ソフィアは玉座にもたれ掛かって余裕そうに嘲っている魔王に対して、少しの皮肉を込めてそう言った。だが魔王はそれには反応しない

「まぁいいわ。前に言ったわよね。あなたは私の手助けをするって」

「ふむ。もうそれを望むのか?お前はまだ毒を喰ろうただけでは無いか」

「私のことはどうでもいいのよ。それより班のみんなを餓死させる訳には行かないのよ」

「ならば仕方の無い。俺が手を貸そう。と言ってもタダでは無いがな」
 魔王のその言葉を聞くと、ソフィアは悲しそうな顔をした。そして少しの沈黙の後ソフィアは言った。

「私は何をすればいいの?」

「そうだな。今回はこいつと戦ってもらおうか」

 魔王が指を鳴らすとそこに1匹の狼が現れた。そいつは実際に存在しているわけではなく、魔王の記憶の中にしか存在しない。それをこの夢の世界に具現化したものだ。黒色の毛並み、闇を凝縮したかのような漆黒の瞳。その目は全てを見下しているかのようだ。それは魔王の眷属。黒狼魔獣ヴァルガン。個体にもよるが、最大で五メートルにもなる巨大な魔物だ。魔王が今回生み出した個体は一メートル程でまだ成体とは言えるサイズではない。

「このヴァルガンにお前の力で勝つことが出来れば、お前の仲間を飢餓から救ってやろう」

 ヴァルガンはソフィアのその身が震えるほどの咆哮を放った。その咆哮には怒りと、憎悪と、そして殺意が込められている。

 そして魔王が開始の合図をすると共に地面を蹴った。その巨体からは考えられない程の速度で狼はソフィアに迫る。ソフィアも強化ガイの魔法で狼に迫った。

 ソフィアは狼が近付いて来ると、その横顔へ魔法陣を展開した手のひらを叩き付ける。その手には業火バリュードの魔法が込められており、手のひらが狼へと触れた瞬間、爆発したかの如く火炎が飛び出した。その火炎によりヴァルガンは一直線に迫っていたのだが、横方向へと動きを捻じ曲げられてしまう。

 ヴァルガンは前足を使い勢いを殺そうとするもその状態のところへさらに業火バリュードが叩き込まれる。ソフィアが左手に魔法陣を展開する。それは業火バリュードであり、何回も、何十回も狼へと放ち続ける。その一つ一つが普通の業火バリュードだ。流石の黒狼魔獣と言えどもそんなものを連打されれば防御することが精一杯で身動きを取ることが出来ていなかった。

 その隙にソフィアは右手で魔王の炎デクラーゼを構築していく。

 そして左手に業火バリュードを維持しつつ、魔王の炎デクラーゼを放つ。しかしヴァルガンもそれが己の弱点だと言うことに気付いていたのか防御陣を多重に展開した。その陣はソフィアが放った魔法とぶつかり合い激しい光と音を発しながら相殺する。

「なかなかやるわね。ならこれでどう?」

 ソフィアはそう呟くと、魔王の炎デクラーゼを三発に増やして放った。

 三発に増やされた魔王の炎デクラーゼは防御陣を燃やしていく。狼の展開した魔法陣は闇の炎を燃やし、溶かしていく。その溶けた部分から炎は中へと入り込む。

 すると段々と中の空気が熱せられ温まる。防御陣の内側は高温で耐えられ無くなったのだろうか、防御陣を消す。防御陣に防がれていた炎も全てが狼へと襲いかかる。

「これで終わりよ」

 ソフィアは最後と、魔力を振り絞った。防御陣も全て壊されたことにより、今度ヴァルガンに当たる攻撃は完全に一点に集中した。流石にその攻撃を受け続けては耐えることは出来なかったのか、最後に叫び声をあげて横に倒れると地面に臥せった。

「よくやった」

 パチパチと手を叩きながら魔王は玉座から腰を下ろす。流石魔王と言ったところか、その歩みには隙が全く存在しない。ある程度離れていると言うのにソフィアはその魔王に全てを掌握されているかのような不安を覚えてしまう。

「どうした?そんな顔して俺はお前に危害は加えぬぞ」
 魔王はソフィアに対してそう聞いた。ソフィアの顔が放心状態で、怯えているように見えたからだ。

「な、何言ってんのよ。何ともないわよ。そ、それよりも早く教えてちょうだいよ」

 ソフィアは誰が見ても明らかな嘘を吐いてこの話を流そうとした。
 だが魔王はそれを気にせず、話を続ける。

「眠れ深き暗黒へとその身を委ねろ。安らかに」

 魔王がコツコツとソフィアの元まで歩いていき右手でその目をスっと閉じさせる。するとソフィアはストンと眠りに落ちその身に記憶が流れ込むのだった。
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