彼は勇者だから、彼女は魔王だから、

千羊

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序章

彼女と彼のプロローグは、

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「ねぇ!」

 大きな声で上から呼ばれ、彼は高い木の上を見上げた。
 その木には彼の幼馴染が高い位置で太い枝に腰を掛けており、大きく手を振っていた。
 木の上にいるときはあまり動かないようにと何回も注意したが、彼女は今日もそれを無視して彼の名前を呼びながらおいでと手招きをしていた。

「今行くよー!」

 彼は腰に掛けていた荷物を置き、剣を木に立てかけ、防具を外して身を軽くする。そして、慣れた手つきで木の幹に手を駆けると、猿のようにするすると彼女の方へ上った。
 上まで着くと、彼女は嬉しそうに笑っていた。
 よいしょ、と彼女の隣に腰を掛けると、彼女は彼の手を握ってにぎにぎとマッサージを始めた。

「上手くなったわね」
「何が?」
「木に登るの。昔は全然だったのに」

 彼女は楽しそうに剣のせいでできた手の豆をつまんでつんつんしていた。

「うん。まあね。ずっとこうやって並んで座りたかったから」
「そうなの?」
「うん」
「じゃあ、私も同じね。ずっと、こうやって隣に座ってこの景色を眺めたかったの」

 彼女はそういうと、村がある方を指さした。
 村からは鍛冶職人たちが鉄を打っているだろう鍜治場の煙、畑を耕す村の人たち、そして、彼女らの家が見えた。

「ねぇ、いいでしょ? ここからだと村が奥まで眺められるんだよ」
「うん。確かに、村が見渡せるね」
「そうなの。私、この景色が一番好き」

 彼女は彼の手に自分の手を重ねると、優しく握った。

「俺もだ」

 彼は照れながら彼女の手を握り返すと、彼女はからかうような眼で笑った。



 ―――ああ、こんな日がずっと続けばいいのに。
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