unfair lover

東間ゆき

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unfair

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 5.
 セックスしようね、と笑う男の身体をもう力もほとんど入らない腕で押す。嫌だと首を振って抵抗を示した。息が整うまで待った男は笑顔を引っ込めて不思議そうな顔で首を傾げた。
「なに? 紅ちゃん。嫌なの?」
 ぐいぐいと押す紅の弱々しい力ではびくともしていない癖に、それ以上どうにかするつもりのないらしい美樹はその問いに首を縦に振った紅を見てふーんと呟く。
「じゃあ、こうしようか」
 とんと押し倒した紅の顔に跨って、美樹は下着から自らの陰茎を取り出すと、驚いている紅の口元にそれを突き出した。紅の橙の瞳が、じっと美樹を見る。
「口で満足させてよ。それくらいできるでしょ」
 それにしたってこの体制はどうなのか。という質問はしないでおく。ちろりと赤い舌をだして、大人しく美樹のそれを舐めると小さく開いた口にぐぽっと勢いよくそれが押し入ってきた。突然のことに驚いて美樹の太ももを叩く。
「!?」
「わかってなかったの? セックスの代わりなんだから、そういう使い方するよ」
 平然と言ってのけた美樹は、紅の目じりに浮かんだ生理的な涙を親指で拭って、ゆっくりと腰を動かし始めた。喉奥を突くたび、反射で喉が締まる。じわりと苦しさに紅の目じりに涙が滲むのでよしよしと頭を撫でてやる。
 撫でながら、喉奥に突っ込むと温かい舌が竿を包んでじゅるっと吸い付かれる。もう、この際どうにもならないなら、それに答えようと言う諦めが紅の様子から感じ取れた。
「ねえ、紅ちゃん。セックスが嫌なら玩具であそぼっか」
 じゅぽじゅぽっと口の中で大きくなるそれを咥えながら美樹の言葉に耳を貸していると、ニコッと笑って美樹はずるりと口から陰茎を抜いた。
 口端を拭いながら、身体を起こして美樹の行動を見ていると、彼は古川が置いていった小さな鞄から男の陰茎を模した底に吸盤のついたディルドを取り出して床に固定する。肌色のそれにローションを垂らして、紅を見ると美樹はそれを指さして言った。
「コレで、一人でしてくれる? 俺はそれをおかずに抜くから。足りなきゃまたフェラしてもらうけど」
 じわりと手汗が滲む。上手く息が吸えない。今、目の前の男はなんといった?
 コレと指差されたものを凝視する。凶悪なそれには見覚えがあった。何度か、使われたことがある。見ているだけで気分が悪い。
 身体がぴしりと動かなくなって、その場に縫い付けられたようになっている紅の手を美樹が優しく引く。太さも長さもあるそれの前に座らされて、紅はごくりと息を飲んだ。
「前は触っちゃ駄目だよ、紅ちゃん」
 紅の長い前髪をさらりと耳に掛けて、小さな声で囁く。美樹の細長い指が、耳を優しく撫でてくすぐったさに肩をすくめた。
 じわじわと嫌な汗が背中を伝う。覚悟を決めてさっさと動かないと、これがセックスの代わりだと言うのなら、やらないという選択肢はもう、残されていない。
 恐る恐る膝立ちになってぴんとそそり立つディルドに手を添えて、自分の後孔にピタリとくっつける。ぬるりとローションがついた先っぽがずれないようにして、ゆっくりと腰をおろしていく。
 ぐぬぅと入ってきたディルドは、質感も本物のそれに近く、加えてどういう仕組みになっているのか知らないが体温くらいの温かさがある。まるで、誰かの陰茎を咥えているような錯覚を覚えて、紅はぽろぽろと涙をこぼした。
 息を大きく吸ってゆっくりとそれを奥深くまで咥える。そのあまりにも大きな質量に紅の小さな体はいっぱいいっぱいで、呼吸が浅くなる。目の前に立つ美樹の手が、優しく頬を撫でるので、身体がぞわぞわした。
「自分で動かなきゃ駄目だよ、紅」
「……ン、ふぅ、ん、ん」
 美樹の優しい声になんとか息を整えた紅が、ゆっくりと腰を浮かせて、ナカのディルドをゆっくりと引き抜く。美樹に教えこまれたようにぎりぎりまで引き抜いてまた奥深くまで迎えるを何度も繰り返していると、本当に誰かとセックスしているような気さえしてきた。
 ぷちゅ、ずちゅと後孔から淫靡な音が響いて、恥ずかしさに唇を噛む。その様子を見ていた美樹が、大きな自分の陰茎を扱き始めたのを、紅はぼんやりとした視界で見た。
「最高に……っエッチ。才能あるんじゃない? 紅ちゃん」
「そんッ……ん、ンン」
 まだ、体の中に媚薬が残っていたのか、あさましくも腰が勝手に動いてしまう。頭では止めなければいけないと思っているのに身体はいいところを探して、動く。前は触ってはいけないと言われているから、後ろだけでイカないといけないという思考と、美樹の思うつぼだと警告を鳴らす思考がせめぎ合う。紅はぐちゃぐちゃになった頭を振って必死に腰を振り続けた。
 もう限界だと身体を強張らせると、突然顔に白い液体がびゅるるとかけられる。反射で目を瞑ったが、生暖かいその感触に不快感を覚えて、思わず眉を顰めた。出し終わったころにゆっくりと顔を上げて美樹の顔を見ると、頬を上気させた男が興奮した笑みを浮かべていた。
「あは、かけちゃった」
 絶対わざとだ。紅はそう思ったが口には出来ず、顔についた美樹の精液を指先で拭う。ぬるっとした感触に、嫌な顔をした紅にくすくすと笑った美樹が濡れタオル持ってきてあげると言って、ズボンを整えると部屋を出て行った。
 残されて、小さく息を吐く。わざとであるのは間違いないが、そのおかげでどうやらセックスからもフェラからも解放されそうだ。
 安心して、ゆっくりと腰を上げる。ぬぽっと音を立てて後孔から抜けたディルドがてらてらと光りながらそそり立っているのを見て、紅は顔を歪めた。
 まだ少しだけ物足りないと疼く自分の身体の違和感をシカトして身だしなみを整えると、美樹が楽しそうに笑いながら部屋に戻ってきた。手には、温められたタオルがある。
「あ、服着ちゃったの? もう終わりたいカンジ? ま、いーや。はい、おしぼり」
 手渡されたほかほかのそれを少し眺めて、ゆっくりと広げる。白い布を顔に被せてその液体を拭いとると、ドサッと近くで重たい音が響いた。タオルの隙間から見ると、美樹がソファーに腰掛けデンモクを操作している。もう何かする気はないようだ。

「座ったら?」
 顔を拭き終わって手持無沙汰になっていると、美樹に声を掛けられた。とんとんと自分の隣を軽く叩く男の隣にそっと腰を下ろす。歌う曲が決まったのか送信ボタンを押して、デンモクを紅に渡した男はマイクを手に握るとニッコリと笑った。
「折角カラオケ来たし、楽しもう?」


 ***


『今日は出掛けてたのか?』
 帰宅したのは十一時を回ったころだ。九時を過ぎたあたりで補導されるんじゃないかと冷や冷やしていたが、自分の隣を歩く男の存在を思い出してそれはあり得ないかと息をついた。結局、カラオケは八時でやめて、寿司を食べに行った。そのあまりの高級さにもぞもぞと居心地の悪さを感じていると、美樹はクスクスと笑って味わって食べてねと言った。
 古川達とはカラオケで別れて以降そのままで、美樹との二人きりの時間に緊張して食事があまり喉を通らなかった。
 寿司を食べ終わったのが十時半頃で、家まで送っていくという美樹に断ることもできず、紅は二人きりの夜道をただ静かに歩いた。家の前で手を握られて何か言おうとした美樹が、言葉を飲み込んで、また明日ねと笑ったので紅は明日も連絡が来るのかと萎えた気持ちで頷いた。
 そうして、家の中に入った紅のポケットからスマホが着信音を鳴らした。表示されている名前は蒼だ。もしもしと電話に出ると、開口一番にそう問いかけられた。
「そうだけど……」
『そっか。いやさ、今日暇かと思って家に行ったんだよな。咲と』
「そうなんだ。咲ちゃんは元気?」
『おう! いつも通りだぜ。会えなくて残念がってたよ」
 明るい声がカラカラと笑う。幼馴染の四堂蒼の彼女、高木咲はミディアムストレートヘアーの落ち着いた雰囲気が特徴的な女の子で、蒼と同じく共学の相模川高校さがみがわこうこうに通うベータだ。
 咲とは中学の頃何度か話したことがある。とても愛想のいい子だった。三人で田舎を出て、都会の相模川高校に進学しようと約束していたのに、志望校を急に男子校である志賀崎に変えた紅に対しても、彼女は責めることはしないで「自分で決めたことならそれでいいじゃない」とがっかりする蒼を慰めていた。そういうところが女神のようだと思う。蒼にはもったいないくらいだと嫌味を言ったこともあるが、蒼自身もそう感じているようで、だよなーと笑われてしまった。
「そうちゃん」
『ん?』
「……なんでもない」
『なんだよ』
 ははと笑う電話越しの蒼の言葉にくすくすと笑って、リビングの真ん中でしゃがみ込む。
 涙がぼたぼたと零れて、泣いているのがバレないうちに紅は適当な理由を付けて通話を切った。

 紅が相模川をやめて志賀崎を選んだのは金銭的理由からだった。
 女手一つで働く母の負担を減らしたくて、学費の安い志賀崎を選んだ。説明会までは蒼にも母にも相模川に行くと言っていたのだけれど、ぎりぎりになってやっぱり志賀崎にすると変えたのだ。
 相模川も志賀崎も都会の学校なので住んでいた田舎からは出なくてはならなかった。母はあまり嬉しそうな顔をしていなかったが、紅はなんとか彼女を説得して家を出た。都会の空気は田舎とは違ったが、なんとかうまくやっていけるだろうなんて簡単な考えで出てきたが、まさか入学した志賀崎高校で右京美樹に目を付けられるだなんて誰が予想しただろう。
 右京というのは田舎に住んでいた紅も知っているくらい有名な企業だ。手掛けている事業は幅広く、古川たちの親が働く会社も右京グループのひとつである。志賀崎高校にも多額の寄付をしているらしく、校長や理事長は偉そうなことを言う口で右京の息子にへこへこ頭を下げている。
 駅前にあるショッピングセンターに関しても右京グループが関わっているし、カラオケ店や飲食店にも親会社としての影響力を発揮している。まあ簡単に言えば、右京家に目を付けられれば人生を左右されるということだ。
 現代において、右京、高木、華王子かおうじ桜林さくらばやしの四家が力を持っており、大抵の会社はそのどれか四つの子会社だと言われるくらいである。
 何を隠そう紅の父は、母と紅を捨てた後、華王子に婿養子になっている。だからもう金持ちはこりごりだという気持ちが紅にはあったのだが、入学してわずか数日でクラスを支配していた右京美樹に声を掛けられてしまった。
 あまり関わりたくないと曖昧に笑っていた紅に懲りずに何度か話しかけてきていた美樹が、ある日突然楽しいことがしたいと笑って言った。そうして始まったのが、この地獄のような毎日である。
 二年になれば終わるかもしれないなんて思って耐えていたが、学校が右京美樹の言いなりなのだから、彼のお気に入りの玩具をわざわざ取り上げる訳がないことをクラス表を見て気が付いた。
 結局、自分が解放されるには退学か、卒業かの二択だ。番になる選択肢はない。

 深くため息を吐いて立ち上がると、ピンポンと明るい音が部屋に鳴り響いた。もう十二時を回ったというのにいったい誰だろうか。涙を拭って立ち上がると、玄関の扉を開く。そこには、息を少し切らした蒼が立っていた。
「やっぱ、泣いてた」
「そうちゃん……」
「なにがあったんだよ。電話越しでも、分かったぞ」
「なんでもないよ、今日見た映画を……思い出して、つい」
「そうか……?」
 見た映画の内容なんて覚えてないけど、咄嗟にそう嘘を吐いた。深くまで聞いてこないだろうと踏んで言った言葉だったが、その信頼通り、蒼が深く聞いてくることはなかった。
 とりあえず彼を部屋に上げて、冷蔵庫の水を取り出してコップに注ぐと、一口飲んだ。
「今日は、一緒に寝るか。紅」
 ニッと笑った蒼がぽんぽんと頭を撫でた。小さい頃はよく一緒の布団で寝たこともあったか。紅の母が忙しい人だったこともあって、よく蒼の家に預けられていたことから、二人が過ごしてきた時間はとても長い。それこそ、咲や美樹が入り込む隙なんて無いくらいに。
「そうちゃん寝相悪いからなあ」
 呟いて、紅はくすりと笑った。蒼も、釣られて笑顔になる。二人で寝室に向かって、薄い毛布に包まって、背中を丸めて眠りにつく。紅の心に、不思議と温かいものが満ちた気がした。


  
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