7 / 24
7、これはヤバイ事態では?
しおりを挟む
オルクスくんが無駄に心配するくらいなら実際に引き合わせてみようということでリリーとの接点を作ってみたんだけれど、顔見知りになるのと仲良くなるのは違うなあと、私は前世の学生時代のことを思い出していた。
わざわざ喧嘩はしないけれど仲良くもしない――そういう人間関係はあるのだ。そして、おそらく二人は私という接点がなければ、きっと一生関わることはなかったに違いない。
そのくらい、噛み合わなさが半端なかった。
「先ほどの授業中、たまたまお前のノートが見えたんだが、その……ノートはちゃんと取ったほうがいいと思う」
午前の授業が終わって、私とオルクスくんとリリーは食堂で待ち合わせをしていた。というより、オルクスくんとリリーが同じ講義を取っていて、それで教室からそのまま一緒に来ていたみたいだ。最近、こういうことはたまにある。
私が待っているからということで二人とも律儀に一緒に来てくれるみたいだけれど、道中あまり話が盛り上がっていないのがわかる。
「え? ノート? 大丈夫。手は動かしてるからさ、教壇からはちゃんとノート取ってるように見えるはず」
「いや、そういうことではなく……試験の前に困るだろう?」
「さすがに試験のときはフリじゃなくてちゃんと書くよー」
「いや……うん」
オルクスくんが言いたいのは勉強しないと試験がきついぞのいうことなのだろうけれど、リリーにはそれが伝わっていない。二人の会話は終始こんな感じで、それでもあきらめずに話をしようとするオルクスくんは偉いなと、私は感心しつつリリーに呆れた。
「あのさ、リリー。なんかこう、もっとリリーからも話しかける努力したら? 面白い話をしてみるとか」
食べるものを選んで先に戻ってきたリリーに、私はそう耳打ちした。学食はビュッフェ形式になっていて、育ちがいいオルクスくんは何種類ものおかずと主食のバランスを考えて丁寧に選ぶから時間がかかるのだ。それに対してリリーは適当に肉の塊とスープを確保したら席に戻ってくるから、ものすごく早い。
「え……面白い話? コレット、そんな高度なことを自分に要求する? あのテネブラン氏に面白いと思ってもらう話? ムズくね?」
「いや、面白いって笑わせるとかそういう意味じゃなくて……とりあえず自分から話題提供するって意味でさ」
「あの人、何を面白がるんだろうなあ……」
あわててフォローしたけれど、リリーの頭はオルクスくんを笑わせることばかりに夢中になってしまったようだ。
確かにリリーの言うとおり、オルクスくんを笑わせるのは難しいと思う。面白がらせる――興味を持たせるというのも。声を立てて笑わせるなんて、至難の業だ。私はまだ、オルクスくんの笑い声を聞いたことがない。
笑い声……聞いたことがないと再認識すると、聞いてみたくなってくる。いや、元気に生きているだけで素晴らしいのだけれど。
「すまない。待たせた」
「ううん、全然」
オルクスくんの笑い声はどんなものかなと考えていると、本人が席に戻ってきた。トレイを見ると、今日もきれいに料理が並んでいる。
「何か話してたのか?」
「え、何で?」
「顔がにやけてる」
「に、にやけ……ごはん美味しそうだなーって思ってただけだよ」
怪訝そうにされたけれど、まさかオルクスくんがどんな声で笑うのか想像していたらにやけてましたなんて言えないから、私は笑ってごまかした。
「ノーマンは、またそんな偏った食事を……」
席についたオルクスくんが、リリーのトレイを見てげっそりした顔になった。見た目はそれなりに可愛い女の子だから、この肉々しさはドン引きされても仕方がない。これが成人男性の食事だったとしても、やっぱりだめだと思うし。
「大丈夫。トレイの妖精に言われたとおり、スープもつけたから。このスープはブロッコリーのクリームスープだから、つまりサラダだって妖精が言ってた」
「は? 妖精?」
「知らない? さすが魔法学校だからさ、学生の栄養管理を妖精がしてるんだよ。だから、妖精が黙ってるってことは、この食事でオッケーってことだよ」
「……知らなかった」
リリーは真顔のまま、ペラペラと流れるように嘘をついた。おっとりして見える眠そうなタレ目のせいか、そういうことを言っても不思議ちゃんな感じがして、人を騙そうとしているようには全然見えない。
「ねえ、『マジラカ』にそんな不思議設定ないよね?」
「ないよ」
私が小声で確認すれば、リリーはしれっと答える。やっぱり、油断ならないやつだ。
「これさ、知ってる人は少ない情報だから内緒にね。みんなに知れ渡ると、妖精を買収したりひどい目に遭わせたりするやつが出てくる。そうなると、この学校の栄養バランスは崩壊するよ」
食事を終え食堂から出るとき、リリーはそうオルクスくんに念押しした。そこはネタバラシをするところじゃないのと思ったけれど、嘘をつき通すつもりらしい。
オルクスくんも疑う様子はなく、神妙な顔で頷いた。
「心得ている。面白い話をありがとう」
そう言って、午後の授業の教室に向かっていった
。
私とリリーはオルクスくんとは違う授業で、その教室に向かうために連絡通路を歩いていた。学院は建て増しを繰り返して複雑で広大なはずなのだけれど、転移魔法を利用して移動を簡略化してくれている。それでも、食堂や寮のある本館から一番遠い別館まで向かうときは、ずいぶん歩かされる気がするのだけれど。
「テネブラン氏のことで、気づいたっていうか思い至ったことがあるんだけどさ」
歩きながら、ふとリリーがそう切り出した。
「何か思い出した?」
「いや、特に新しいことは……でも、いろいろ考えてわかったんだけど、テネブラン氏の幸せというか身の安全を確保するなら、今の状態はヤバイんじゃないかなって」
「どういうこと? 闇落ちしないように、私やリリーが親しくしてるじゃない」
「周りに人がいるくらいで闇落ちしないなら、たぶんゲーム本編でもしないでしょ。そうじゃなくて、『マジラカ』の登場人物なんだから、きちんとフラグを折る、もしくは回収しなければ、バッドエンドまっしぐらなんじゃないかなって。テネブラン氏にとってのバッドエンドは、即ち主人公であるシャニアにとってのハッピーエンドじゃんか。まあ、テネブラン氏をどうこうしたからハッピーになるとかじゃなく、彼がシャニアたちにとっての障害になるからなんだけど」
「そういえば、そうだった……」
私はついついオルクスくんのことしか考えていなかったけれど、確かにシャニアたちを中心に見ればまずいのはわかる。
このままシャニアが誰か攻略対象とくっつくことがあれば、オルクスくんがいくら心穏やかに暮らしていたとしても世界の、物語の強制力によって闇落ちしてシャニアたちの敵になってしまうかもしれない。シャニアが誰とくっつこうとそれは勝手だけれど、オルクスくんが巻き込まれるのはたまったものではない。
「どうしたらいいのかな……シャニアが誰かとくっつくのを阻止したらいいのかな」
「いや、それは確かだめ。シャニアが誰ともくっつかず、友情エンドにすら到達しなかったとき、学院自体が滅びるんだよ。誰かとくっつくのが難しくないゲームだったから、この全滅エンドを知ってるプレイヤーは少ないって噂だけど」
「そういえば、そんなエンドもあった気が……」
リリーに言われて、私は面白くも何ともなかったその全滅エンドについて思い出していた。確か、シャニアが魔法の練習も頑張らず、攻略対象とも仲良くせず、あらゆるパラメーターを低いまま維持してシナリオを進めると到達するエンディングだったはずだ。
光の精霊に愛されしシャニアが魔法使いとして立ち上がらないのだから、学院に封じられた魔を退けることはできないのだ。この世界は言ってみればシャニアのために存在しているのだから、彼女のために用意された試練を彼女が乗り越えてくれないのなら、世界が滅亡するのは当然のことだろう。
「自分が思うに、テネブラン氏を幸せにするなら、シャニアとくっつかせることしかないと思うんだ。……というか、配信されなかったテネブラン氏攻略シナリオは、そういうものだったはず。テネブラン氏を暗闇から光さす世界に引っ張り出すのは、光のヒロイン・シャニアだよな!みたいな」
話しながら思い出したのか、リリーは目を閉じて記憶を探るようにしていた。前世は『マジラカ』のサブライターだったリリーが言うのだから、きっと間違いないのだろう。
「……そっか。他のキャラとくっつくエンドでは全部ひどい目に遭うんだから、オルクスくんが無事でいるにはシャニアに攻略されるしか道がないんだね! でも、シャニアとオルクスくんがくっつけば、私は推しの悲しい末路を見なくて済む! 救われる道があるってわかってよかった!」
私の頭に蘇るのは、四人の攻略キャラクターごとのオルクスくんの悲しい末路だ。それを避ける術があるとわかって、心底安堵した。せっかく同じ世界に転生したのだから、推しを幸せにしたいのは当然のことだ。
「まあ、そうやってうまくいけばな。……実際のところ、まずいなって思うのがさ、テネブラン氏とシャニアって、出会ってすらいないでしょ? 入学式にシャニアが派手にやらかしてるから認識はしてるかもだけど、たぶん接点はないはず」
喜ぶ私とは対照的に、リリーは冷静だ。指摘されて、私も入学初日のシャニアの残念な行動を思い出した。
「シャニア……接点ないのはオルクスくんとだけじゃないかも。入学式の出会いのイベントを見ようと思ってあの子について回ってたんだけど、誰ともきちんと会ってなかったし、オルクスくんとのイベントにいたっては、中庭に来ることすらなかったんだから……」
「嘘だろ……ヒロイン力が低いにもほどがある。それってさ、ほっといたらテネブラン氏が危ないどころか、この世界が滅びるんじゃないのか? 無理矢理にでも人間関係作ってやらないと、ほっといてどうにかなる希望なんてないだろ」
私とリリーは、顔を見合わせて震えた。このままのんびりしたら迎えるのが、全滅エンドだとわかったからだ。主人公も攻略キャラクターもモブも関係ない。シャニアが人と絆を築き魔法を磨かなければ、この世界は壊れるようにできているのだから。
「それなら、オルクスくんとシャニアがくっつくように、私たちが二人のとっておきの出会いを演出しないとね!」
推しのため、世界のため、私が気合いを入れて言えば、リリーがなぜか苦いものを食べたみたいな顔で私を見た。
「いや、たぶん、コレットがオルクスくんと出会ったシチュこそが、主人公と攻略キャラとの出合いに相応しかったと思うんだよね。あーあ……モブがフラグをひとつ折った」
「え……そんな……」
リリーの冷たい指摘に自分がやらかしたかもしれない事実を気づかされ、私の背中も一気に寒くなった。
私は、ただ推しを愛でたいだけなのに!
推しに幸せに生きてほしいだけなのに!
……邪魔してしまったのが自分なら、一層頑張ってオルクスくんとシャニアをくっつけなければならないと私は決意した。
わざわざ喧嘩はしないけれど仲良くもしない――そういう人間関係はあるのだ。そして、おそらく二人は私という接点がなければ、きっと一生関わることはなかったに違いない。
そのくらい、噛み合わなさが半端なかった。
「先ほどの授業中、たまたまお前のノートが見えたんだが、その……ノートはちゃんと取ったほうがいいと思う」
午前の授業が終わって、私とオルクスくんとリリーは食堂で待ち合わせをしていた。というより、オルクスくんとリリーが同じ講義を取っていて、それで教室からそのまま一緒に来ていたみたいだ。最近、こういうことはたまにある。
私が待っているからということで二人とも律儀に一緒に来てくれるみたいだけれど、道中あまり話が盛り上がっていないのがわかる。
「え? ノート? 大丈夫。手は動かしてるからさ、教壇からはちゃんとノート取ってるように見えるはず」
「いや、そういうことではなく……試験の前に困るだろう?」
「さすがに試験のときはフリじゃなくてちゃんと書くよー」
「いや……うん」
オルクスくんが言いたいのは勉強しないと試験がきついぞのいうことなのだろうけれど、リリーにはそれが伝わっていない。二人の会話は終始こんな感じで、それでもあきらめずに話をしようとするオルクスくんは偉いなと、私は感心しつつリリーに呆れた。
「あのさ、リリー。なんかこう、もっとリリーからも話しかける努力したら? 面白い話をしてみるとか」
食べるものを選んで先に戻ってきたリリーに、私はそう耳打ちした。学食はビュッフェ形式になっていて、育ちがいいオルクスくんは何種類ものおかずと主食のバランスを考えて丁寧に選ぶから時間がかかるのだ。それに対してリリーは適当に肉の塊とスープを確保したら席に戻ってくるから、ものすごく早い。
「え……面白い話? コレット、そんな高度なことを自分に要求する? あのテネブラン氏に面白いと思ってもらう話? ムズくね?」
「いや、面白いって笑わせるとかそういう意味じゃなくて……とりあえず自分から話題提供するって意味でさ」
「あの人、何を面白がるんだろうなあ……」
あわててフォローしたけれど、リリーの頭はオルクスくんを笑わせることばかりに夢中になってしまったようだ。
確かにリリーの言うとおり、オルクスくんを笑わせるのは難しいと思う。面白がらせる――興味を持たせるというのも。声を立てて笑わせるなんて、至難の業だ。私はまだ、オルクスくんの笑い声を聞いたことがない。
笑い声……聞いたことがないと再認識すると、聞いてみたくなってくる。いや、元気に生きているだけで素晴らしいのだけれど。
「すまない。待たせた」
「ううん、全然」
オルクスくんの笑い声はどんなものかなと考えていると、本人が席に戻ってきた。トレイを見ると、今日もきれいに料理が並んでいる。
「何か話してたのか?」
「え、何で?」
「顔がにやけてる」
「に、にやけ……ごはん美味しそうだなーって思ってただけだよ」
怪訝そうにされたけれど、まさかオルクスくんがどんな声で笑うのか想像していたらにやけてましたなんて言えないから、私は笑ってごまかした。
「ノーマンは、またそんな偏った食事を……」
席についたオルクスくんが、リリーのトレイを見てげっそりした顔になった。見た目はそれなりに可愛い女の子だから、この肉々しさはドン引きされても仕方がない。これが成人男性の食事だったとしても、やっぱりだめだと思うし。
「大丈夫。トレイの妖精に言われたとおり、スープもつけたから。このスープはブロッコリーのクリームスープだから、つまりサラダだって妖精が言ってた」
「は? 妖精?」
「知らない? さすが魔法学校だからさ、学生の栄養管理を妖精がしてるんだよ。だから、妖精が黙ってるってことは、この食事でオッケーってことだよ」
「……知らなかった」
リリーは真顔のまま、ペラペラと流れるように嘘をついた。おっとりして見える眠そうなタレ目のせいか、そういうことを言っても不思議ちゃんな感じがして、人を騙そうとしているようには全然見えない。
「ねえ、『マジラカ』にそんな不思議設定ないよね?」
「ないよ」
私が小声で確認すれば、リリーはしれっと答える。やっぱり、油断ならないやつだ。
「これさ、知ってる人は少ない情報だから内緒にね。みんなに知れ渡ると、妖精を買収したりひどい目に遭わせたりするやつが出てくる。そうなると、この学校の栄養バランスは崩壊するよ」
食事を終え食堂から出るとき、リリーはそうオルクスくんに念押しした。そこはネタバラシをするところじゃないのと思ったけれど、嘘をつき通すつもりらしい。
オルクスくんも疑う様子はなく、神妙な顔で頷いた。
「心得ている。面白い話をありがとう」
そう言って、午後の授業の教室に向かっていった
。
私とリリーはオルクスくんとは違う授業で、その教室に向かうために連絡通路を歩いていた。学院は建て増しを繰り返して複雑で広大なはずなのだけれど、転移魔法を利用して移動を簡略化してくれている。それでも、食堂や寮のある本館から一番遠い別館まで向かうときは、ずいぶん歩かされる気がするのだけれど。
「テネブラン氏のことで、気づいたっていうか思い至ったことがあるんだけどさ」
歩きながら、ふとリリーがそう切り出した。
「何か思い出した?」
「いや、特に新しいことは……でも、いろいろ考えてわかったんだけど、テネブラン氏の幸せというか身の安全を確保するなら、今の状態はヤバイんじゃないかなって」
「どういうこと? 闇落ちしないように、私やリリーが親しくしてるじゃない」
「周りに人がいるくらいで闇落ちしないなら、たぶんゲーム本編でもしないでしょ。そうじゃなくて、『マジラカ』の登場人物なんだから、きちんとフラグを折る、もしくは回収しなければ、バッドエンドまっしぐらなんじゃないかなって。テネブラン氏にとってのバッドエンドは、即ち主人公であるシャニアにとってのハッピーエンドじゃんか。まあ、テネブラン氏をどうこうしたからハッピーになるとかじゃなく、彼がシャニアたちにとっての障害になるからなんだけど」
「そういえば、そうだった……」
私はついついオルクスくんのことしか考えていなかったけれど、確かにシャニアたちを中心に見ればまずいのはわかる。
このままシャニアが誰か攻略対象とくっつくことがあれば、オルクスくんがいくら心穏やかに暮らしていたとしても世界の、物語の強制力によって闇落ちしてシャニアたちの敵になってしまうかもしれない。シャニアが誰とくっつこうとそれは勝手だけれど、オルクスくんが巻き込まれるのはたまったものではない。
「どうしたらいいのかな……シャニアが誰かとくっつくのを阻止したらいいのかな」
「いや、それは確かだめ。シャニアが誰ともくっつかず、友情エンドにすら到達しなかったとき、学院自体が滅びるんだよ。誰かとくっつくのが難しくないゲームだったから、この全滅エンドを知ってるプレイヤーは少ないって噂だけど」
「そういえば、そんなエンドもあった気が……」
リリーに言われて、私は面白くも何ともなかったその全滅エンドについて思い出していた。確か、シャニアが魔法の練習も頑張らず、攻略対象とも仲良くせず、あらゆるパラメーターを低いまま維持してシナリオを進めると到達するエンディングだったはずだ。
光の精霊に愛されしシャニアが魔法使いとして立ち上がらないのだから、学院に封じられた魔を退けることはできないのだ。この世界は言ってみればシャニアのために存在しているのだから、彼女のために用意された試練を彼女が乗り越えてくれないのなら、世界が滅亡するのは当然のことだろう。
「自分が思うに、テネブラン氏を幸せにするなら、シャニアとくっつかせることしかないと思うんだ。……というか、配信されなかったテネブラン氏攻略シナリオは、そういうものだったはず。テネブラン氏を暗闇から光さす世界に引っ張り出すのは、光のヒロイン・シャニアだよな!みたいな」
話しながら思い出したのか、リリーは目を閉じて記憶を探るようにしていた。前世は『マジラカ』のサブライターだったリリーが言うのだから、きっと間違いないのだろう。
「……そっか。他のキャラとくっつくエンドでは全部ひどい目に遭うんだから、オルクスくんが無事でいるにはシャニアに攻略されるしか道がないんだね! でも、シャニアとオルクスくんがくっつけば、私は推しの悲しい末路を見なくて済む! 救われる道があるってわかってよかった!」
私の頭に蘇るのは、四人の攻略キャラクターごとのオルクスくんの悲しい末路だ。それを避ける術があるとわかって、心底安堵した。せっかく同じ世界に転生したのだから、推しを幸せにしたいのは当然のことだ。
「まあ、そうやってうまくいけばな。……実際のところ、まずいなって思うのがさ、テネブラン氏とシャニアって、出会ってすらいないでしょ? 入学式にシャニアが派手にやらかしてるから認識はしてるかもだけど、たぶん接点はないはず」
喜ぶ私とは対照的に、リリーは冷静だ。指摘されて、私も入学初日のシャニアの残念な行動を思い出した。
「シャニア……接点ないのはオルクスくんとだけじゃないかも。入学式の出会いのイベントを見ようと思ってあの子について回ってたんだけど、誰ともきちんと会ってなかったし、オルクスくんとのイベントにいたっては、中庭に来ることすらなかったんだから……」
「嘘だろ……ヒロイン力が低いにもほどがある。それってさ、ほっといたらテネブラン氏が危ないどころか、この世界が滅びるんじゃないのか? 無理矢理にでも人間関係作ってやらないと、ほっといてどうにかなる希望なんてないだろ」
私とリリーは、顔を見合わせて震えた。このままのんびりしたら迎えるのが、全滅エンドだとわかったからだ。主人公も攻略キャラクターもモブも関係ない。シャニアが人と絆を築き魔法を磨かなければ、この世界は壊れるようにできているのだから。
「それなら、オルクスくんとシャニアがくっつくように、私たちが二人のとっておきの出会いを演出しないとね!」
推しのため、世界のため、私が気合いを入れて言えば、リリーがなぜか苦いものを食べたみたいな顔で私を見た。
「いや、たぶん、コレットがオルクスくんと出会ったシチュこそが、主人公と攻略キャラとの出合いに相応しかったと思うんだよね。あーあ……モブがフラグをひとつ折った」
「え……そんな……」
リリーの冷たい指摘に自分がやらかしたかもしれない事実を気づかされ、私の背中も一気に寒くなった。
私は、ただ推しを愛でたいだけなのに!
推しに幸せに生きてほしいだけなのに!
……邪魔してしまったのが自分なら、一層頑張ってオルクスくんとシャニアをくっつけなければならないと私は決意した。
14
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる