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第二章 コックリさん事件
2、放課後のいさかい
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「あの、大丈夫……?」
思わずかけよったはいいものの、何と言葉をかけたらいいかわからず、ぼくは戸惑った。
相沢さんだってきっとそうだろう。
同じクラスというだけで大して話したことがない男子に突然声をかけられたら、困ってしまうにちがいない。
声をかけたはいいものの、ぼくはどうしたらいいかわからなくなってしまった。
心配だ。このまま帰らせるのはよくない気がする。
でも、全然うまい言葉が浮かばない。
「あの、ミーを……小石川さんを呼んできてもいい? 相沢さん、小石川さんとは別に仲悪いとかないよね? 一応学級委員だし。男子の僕より、小石川さんのほうが話しやすいかなって思ったんだけど……」
それだけ言うと、ぼくは走って教室に戻った。ミーはまだ教室に残っているはずだから。図書室とかによっていなければいいけれど。
あわてて戻って他の人に変に思われてもいけないから、教室に近づくときは普通の歩くスピードにした。
まだ教室に残っていたミーに手を振って合図すると、不思議そうにしつつも帰り支度をして廊下に出てきてくれた。
「ごめん。昨日のドラマの話で盛り上がっちゃってて。それで、どうしたの? 調査隊の活動でもある?」
「ううん、違う……さっき昇降口で黒川さんと相沢さんがもめてたみたいで……」
ぼくが声を小さくしたことで、ミーは何かを察してくれたらしい。ぼくは手短に、さっき昇降口で見たことを伝えた。
するとミーはだまってうなずくと、足早に階段を降りて昇降口へと向かった。ぼくもあわてて後ろに続く。
もしかしたら帰ってしまっているかもと思ったけれど、相沢さんはまだそこにいてくれた。
「えっと、まだ詳しく話してないんだけど、相沢さんが心配だったから小石川さん呼んできたよ」
「あ、ありがとう……?」
きっとぼくがミーを呼んでくるから待っていてと言ったから待ってくれていただけで、何がなんだかわかってはいないのだろう。相沢さんはとても困った顔をしていた。
でも、さすがはミーだ。すぐに状況を察したらしい。
「さっき黒川さんに突き飛ばされてたってユーマから聞いたんだけど……相沢さん、もしかしてだけど黒川さんに無理矢理コックリさんに参加させられとか?」
「え?」
ミーが突然そんなことを聞くものだから、ぼくは驚いてしまった。
でも、相沢さんはおどろいてはいない。ただ、おびえているように見えた。
黒川さんたちがコックリさんをしたというのは、クラスの中ではもうみんなが知っていることだろう。でも、その中に相沢さんもいたというのは、少し意外だった。
「あの、大丈夫だよ。誰にも言わないから……それに前からちょっと、気になってたんだよね、相沢さんと黒川さんたちとの関係。わたしたちが口を挟んでこじれたらいけないからって、黙ってたけど……」
ミーが苦いものを食べてしまったみたいな顔をして言うと、相沢さんも顔をくしゃくしゃにした。泣くのをこらえているのだと、ぼくにもわかった。
そして、ミーははっきり言わなかったけれど、相沢さんが黒川さんたちにいじめられているということも、わかってしまった。
「……小石川さんの言った通り、わたし、コックリさんに参加させられてたの。というより、わたしにいやがらせするためにコックリさんをしたんだと思う」
「ひどい……でも、だったら何でさっき、『あんたのせいよ』って言ってたんだろ?」
何気ない質問のつもりだったのだけれど、それはとてもいやなことだったみたいだ。
相沢さんはすごくおびえているような、困り果てた様子で、悩みながら口を開いた。
「それは、わたしがコックリさんの途中で十円玉から指をはなしちゃったから……黒川さんが私に、『10円玉から指を外せ。外したら呪われるんだよ!』って笑いながら言って、わたし、怖かったから外したくなかったんだけど、髪を引っ張られてり蹴られたりして無理矢理……」
そう言ったとたん、相沢さんはわっと泣きだしてしまった。なだめるためにミーは、相沢さんの肩をそっと撫でた。そのくらいしかできることがなかったのだ。
それに黒川さんがしたことがあまりにもひどすぎて、言葉にできない。
(でもじゃあ、何で相沢さんは無事で、小田さんがケガしたんだろう?)
そのときぼくはすぐにそう疑問に思ったけれど、それを口に出してはいけないことはさすがにわかった。
そんなことを聞くのは、デリカシーに欠けている。こんなふうに怖がって、つらい思いをさせられている人に聞くべきことではない。
「それ、相沢さんちの犬? かわいいね」
かわりにぼくは、相沢さんがさっきから何度も握りしめたりはなしたりしているキーホルダーのことを話題にしてみた。
透明のケースの中に、茶色の小型犬の写真が入っている。たぶん、中身の写真は自分で入れたのだろうと思って聞いてみた。
「……うん。モカちゃんっていうの。この写真はお守り」
お守りだと思いだして安心したのか、相沢さんの表情はやわらかくなった。
それをきっかけに、ミーが「犬派か猫派か」の話を始め、なごやかに下校することになった。
聞けば相沢さんも途中まで通学ルートが同じだということで、不自然にならずにいっしょに帰ることができた。
黒川さんとの関係については今後も注意が必要だけれど、コックリさんのことはこのまま何事もなくすめばいいなとぼくは思った。
そのときはまだ、小田さんのケガがコックリさんのせいだとは思っていなかったのだ。
でも、次の日登校したら、大変なことが起きていた。
思わずかけよったはいいものの、何と言葉をかけたらいいかわからず、ぼくは戸惑った。
相沢さんだってきっとそうだろう。
同じクラスというだけで大して話したことがない男子に突然声をかけられたら、困ってしまうにちがいない。
声をかけたはいいものの、ぼくはどうしたらいいかわからなくなってしまった。
心配だ。このまま帰らせるのはよくない気がする。
でも、全然うまい言葉が浮かばない。
「あの、ミーを……小石川さんを呼んできてもいい? 相沢さん、小石川さんとは別に仲悪いとかないよね? 一応学級委員だし。男子の僕より、小石川さんのほうが話しやすいかなって思ったんだけど……」
それだけ言うと、ぼくは走って教室に戻った。ミーはまだ教室に残っているはずだから。図書室とかによっていなければいいけれど。
あわてて戻って他の人に変に思われてもいけないから、教室に近づくときは普通の歩くスピードにした。
まだ教室に残っていたミーに手を振って合図すると、不思議そうにしつつも帰り支度をして廊下に出てきてくれた。
「ごめん。昨日のドラマの話で盛り上がっちゃってて。それで、どうしたの? 調査隊の活動でもある?」
「ううん、違う……さっき昇降口で黒川さんと相沢さんがもめてたみたいで……」
ぼくが声を小さくしたことで、ミーは何かを察してくれたらしい。ぼくは手短に、さっき昇降口で見たことを伝えた。
するとミーはだまってうなずくと、足早に階段を降りて昇降口へと向かった。ぼくもあわてて後ろに続く。
もしかしたら帰ってしまっているかもと思ったけれど、相沢さんはまだそこにいてくれた。
「えっと、まだ詳しく話してないんだけど、相沢さんが心配だったから小石川さん呼んできたよ」
「あ、ありがとう……?」
きっとぼくがミーを呼んでくるから待っていてと言ったから待ってくれていただけで、何がなんだかわかってはいないのだろう。相沢さんはとても困った顔をしていた。
でも、さすがはミーだ。すぐに状況を察したらしい。
「さっき黒川さんに突き飛ばされてたってユーマから聞いたんだけど……相沢さん、もしかしてだけど黒川さんに無理矢理コックリさんに参加させられとか?」
「え?」
ミーが突然そんなことを聞くものだから、ぼくは驚いてしまった。
でも、相沢さんはおどろいてはいない。ただ、おびえているように見えた。
黒川さんたちがコックリさんをしたというのは、クラスの中ではもうみんなが知っていることだろう。でも、その中に相沢さんもいたというのは、少し意外だった。
「あの、大丈夫だよ。誰にも言わないから……それに前からちょっと、気になってたんだよね、相沢さんと黒川さんたちとの関係。わたしたちが口を挟んでこじれたらいけないからって、黙ってたけど……」
ミーが苦いものを食べてしまったみたいな顔をして言うと、相沢さんも顔をくしゃくしゃにした。泣くのをこらえているのだと、ぼくにもわかった。
そして、ミーははっきり言わなかったけれど、相沢さんが黒川さんたちにいじめられているということも、わかってしまった。
「……小石川さんの言った通り、わたし、コックリさんに参加させられてたの。というより、わたしにいやがらせするためにコックリさんをしたんだと思う」
「ひどい……でも、だったら何でさっき、『あんたのせいよ』って言ってたんだろ?」
何気ない質問のつもりだったのだけれど、それはとてもいやなことだったみたいだ。
相沢さんはすごくおびえているような、困り果てた様子で、悩みながら口を開いた。
「それは、わたしがコックリさんの途中で十円玉から指をはなしちゃったから……黒川さんが私に、『10円玉から指を外せ。外したら呪われるんだよ!』って笑いながら言って、わたし、怖かったから外したくなかったんだけど、髪を引っ張られてり蹴られたりして無理矢理……」
そう言ったとたん、相沢さんはわっと泣きだしてしまった。なだめるためにミーは、相沢さんの肩をそっと撫でた。そのくらいしかできることがなかったのだ。
それに黒川さんがしたことがあまりにもひどすぎて、言葉にできない。
(でもじゃあ、何で相沢さんは無事で、小田さんがケガしたんだろう?)
そのときぼくはすぐにそう疑問に思ったけれど、それを口に出してはいけないことはさすがにわかった。
そんなことを聞くのは、デリカシーに欠けている。こんなふうに怖がって、つらい思いをさせられている人に聞くべきことではない。
「それ、相沢さんちの犬? かわいいね」
かわりにぼくは、相沢さんがさっきから何度も握りしめたりはなしたりしているキーホルダーのことを話題にしてみた。
透明のケースの中に、茶色の小型犬の写真が入っている。たぶん、中身の写真は自分で入れたのだろうと思って聞いてみた。
「……うん。モカちゃんっていうの。この写真はお守り」
お守りだと思いだして安心したのか、相沢さんの表情はやわらかくなった。
それをきっかけに、ミーが「犬派か猫派か」の話を始め、なごやかに下校することになった。
聞けば相沢さんも途中まで通学ルートが同じだということで、不自然にならずにいっしょに帰ることができた。
黒川さんとの関係については今後も注意が必要だけれど、コックリさんのことはこのまま何事もなくすめばいいなとぼくは思った。
そのときはまだ、小田さんのケガがコックリさんのせいだとは思っていなかったのだ。
でも、次の日登校したら、大変なことが起きていた。
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