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2. 死、そして転生
しおりを挟む20xx年、夏。
昼夜問わず泣き続けるセミの声と、焼けるような日差し。
部屋には丸1日稼働し続けているクーラーと、ひたすら熱を生み続けるパソコン。
そのパソコンの前には……
倒れている大悟の姿があった。
心筋梗塞や脳梗塞などによる突然死なのか?
それとも誰かに暗殺でもされたのか?
否。
彼が倒れた理由、それは……餓死。
「うぅ~ん、ここは……どこだ?」
大悟は目を覚まし、辺りを見渡す。
そして、自分がさっきまでいた自室とは異なる場所にいることに気づいた。
そこは何もなく薄暗い世界。
まるで宇宙にいるかのような感覚。
どっちが上なのか下なのか分からない。
(なんだ? 夢でも見てんのか?)
そう思って頬を引っ張る大悟。
(痛い。夢ではないのか?
確かゲームをしてて……ラスボスと戦ってる途中に目の前が暗くなって……あれ? もしかして俺、死んだ?
じゃあここは天国? まさかの地獄?)
そんなことを考えていると突然、光が……薄暗い空間に一つの光が。
しかし何も起きない。
光が生まれただけ。
大きくなることも小さくなることも、近くによって来ることも遠ざかって行くこともない。
(……なんだアレは? 出口か?)
身構えていた大悟だが、このままここに居てもしょうがないと思い、とりあえず光がある場所に行ってみることにした。
(って言っても、どうやって移動すればいいんだ?)
ここには地面が存在しない。
宇宙空間を彷徨っているような感覚。
とりあえず大悟は足を交互にあげたり、クロールや平泳ぎをして移動を試みる。
が、全く動かない。
どうすれば? と考え始める大悟。
その時、
『念じなさい』
頭の中に響く知らない人の声。
「誰だ?」
大悟は辺りを見渡す。
しかし誰もいない。
大悟の問いに答えることもない。
大悟は暫く考えた後、言葉通り念じてみることにした。
(どうせ死んでるんだ、なるようになるだろう。)
大悟は念じる。
あの光の下に行きたいと。
すると体がゆっくりと移動を始めた。
体が動いたというよりは、何か不思議な力が体を引っ張っているような感覚だ。
(……長い。
移動し始めてどれぐらい経つんだろう?
体感時間で2、3時間は経ってる気がする。)
そう思っていると突然、光が激しく点滅し出した。
そして次の瞬間、閃光が走り大悟を一瞬にして包み込んだ。
光は徐々に消えていき、大悟は瞑っていた目をゆっくりと開けた。
そこには先程と違って真っ白な世界が広がっていた。
そして、目の前には絶世の美女が。
「どーもぉー、女神リリスでぇ~す。」
身構えていた大悟は、その恐ろしいほどのギャップに一瞬体の力が抜けるが、心の中では緊急ブザーが鳴り響いていた。
(ヤバイ、コイツは危険だ。
俺の脳が、体が、緊急警報を激しく鳴らしている。
コイツに関わっちゃダメだと。)
「ど、どうもー、こんにちわー。そして、さようならー」
そう言って大悟は回れ右をし、その場を立ち去ろうとする。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよぉ。ここは光の中よ、自力で出られるわけないでしょ」
(チッ、逃げられないか。
ってかコイツ女神とか言わなかったか?
つまりここは死後の世界?
死んだらみんなここに来るのか?
ってか俺やっぱり死んだの?
分からんことが多すぎる。
はぁ~仕方ない。とりあえずこの自称女神とやらに色々聞いて見るか。)
大悟は女神の方を向いた。
「では、質問なんですけど私はどうなったんでしょうか?
なんでこんな所に? 教えてくださいメガミサマ」
女神は、腰に手を当ててドヤ顔で話し始める。
「ふふん。
しょうがないですね。女神である私自ら教えてあげましょう。
ふふん。
貴方は先程、餓死によって亡くなりました。
まぁそりゃーほとんど何も飲まず食わずで、ずっとゲームやってれば栄養失調にもなって死にますよね。
もう少し自分の体を大事にして下さい。」
(え? 死因それなの?
マジで!?
しょうもない事で死んだなぁー俺、なんか恥ずかしくなってきたわ。)
少し顔を赤くなる大悟。
「と、とりあえず自分が死んだと言うことは分かりました。
となると、ここは死後の世界?
死んだら皆ここに来るんでしょうか?」
大悟は恥ずかしさを誤魔化すように早口で質問をした。
「いいえ、違いますよ。
実は大きな問題が発生しまして、それをどうしようかなぁーって思っていたら、ちょうど良く使えそうな……いえ、神の導きにより貴方が現れました。」
(今、使えそうとか言ったなコイツ。
クソ女神だな。
こういう奴は下手に出ると調子に乗るんだよな。バカそうだし。
丁寧に扱っても疲れるだけだ。バカそうだし。
タメ口で問題ないだろ。バカそうだし。)
大悟は敬語をやめ、普段通りの話し方に切り替えることにした。
そもそも大悟は敬語を使うことがあまり好きではなかった。もちろん初対面や尊敬できる人などには敬語を使ってはいたが、基本的にはタメ口で話すことが多かった。
そんなことを考えていると女神リリスが胸の前で手を組み、お願いするかのような顔で話し始めた。
「お願いです。貴方にはこの世界に君臨する魔王を討伐して頂きたいので」
「断る」
……
食い気味に断られた女神リリスは一瞬固まるが、すぐさま持ち直し大悟に詰め寄った。
「ちょ、ちょっと、なんでですかぁー。
異世界転生ですよ? 憧れちゃいますよね? ロマンですよね? かっこいいですよ? やりたい放題できますよ? チートもあげちゃいますよ? 行きたくなりましたよね?」
徐々に近づいてくる女神。
「全く。
今更新しい人生を始めたいとは思わないし、めんどくさい。
それにゲームもない世界だろう? 行ったってしょうがないわ」
その瞬間、女神の目が光る。
キラリーン!
「ほう、ほう、ほう。
なるほどなるほど、ゲームですかぁ?
そういえば死ぬ寸前までやってたゲーム、ラスボス倒す前に死んじゃいましたよねぇ?
ED見ないでおわっちゃいましたよねぇ?」
ニヤニヤする女神。
(ぐぬ!)
「ラスボス倒したいですよね? ED見たいですよね? またゲームやりたいですよね? 魔王討伐してくれたら地球に戻してあげちゃうのになぁ~」
チラッ、チラッ。
(ウザい……だが、だが、その条件は魅力的だ。
ぐぬぬぬ!)
「ちっ、分かったよ。
魔王討伐してやるよ。
その代わり絶対に俺を地球に戻せよ。絶対だぞ!」
「あれ? 言葉遣い荒くなってない? 最初敬語じゃなかったっけ?
ま、まぁーいいや。神に誓って約束は守りましょう。私女神ですから。
それでは、チート能力はどうしましょう? 能力一覧見ます? なんでも付けちゃいますよぉ」
アイリスは、能力一覧を空中に表示する。
膨大なスキルがそこに浮かび上がった。
大悟は全てのスキルに目を通した。
「そうだな……無限上昇、全適応能力、経験値100~1000倍(主のレベルに比例して倍率が上がる。上限1000)でいい」
「え? それだけ? 絶対防御とか未来予知とか時間操作とか神の雷とかいらないの?」
神の雷って1発で世界を崩壊させるって書いてあんぞ? それ俺も死ぬだろ、いらんがな。
「今言ったのだけでいい。
どうせすぐ地球に戻るつもりだし、沢山あってもめんどくさい。」
「ちぇっ、バンバン付けたかったのにぃ。
まぁーいいや。それじゃあ、心の準備はいいですね? 魔王討伐期待していますからね。」
そう言って、リリスは大悟に向かって手を翳す。
すると大悟の体が光だし、徐々に意識が遠くなっていく。
そして、大悟は暗闇の中に落ちていった。
ハッと気が付き目を開ける大悟。
そこには俺を抱き抱える男女の姿があった。
これは……「ばぶぅー。」
どうやら俺は赤ちゃんから始めていかないといけないらしい。
ハァー、メンドクサイ
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