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誰もいない準備室

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わたしの中で芽吹き始めた熱い衝動が止められなくなっているのを感じます。
(あぁもう、どうしたらいいのかわかんないよ。自分でも気が付かないうちに、気づいたらこんなことに……)

授業が終わり、クラスの喧騒が残る教室を人目につかぬように抜け出すと、私は人通りの少ない階段を通じて理科室に向かいました。
教室のある東棟から渡り廊下を抜けて西棟に差し掛かると、あたりはシーンと静まり返っています。西棟は移動教室で使用する専門教科の部屋が集まっており、6限目が終わったばかりのこの時間はめったに人がいないのです。

(それでも、もしかしたら)

理科室の奥に行ったら、もしかすると先生と二人きりで会えるかも。淡い期待を持って理科室の古ぼけた引き戸を開けると、ガラガラと意外なほど大きな音がたち、誰かに知られはしないかと慌てました。幸い近くに人の気配はしません。

理科室の中は遮光カーテンの隙間から差し込んだ光でかろうじて照らされるばかりで薄暗く、心細い気持ちになります。部屋の角、黒板の横手に準備室があります。ここで迷っていても仕方がないので、意を決して真っ直ぐ準備室のドアへ向かいました。

カチャリ。鍵はかかっていなかったので、できるだけ静かにドアノブを回してそっと中を覗いてみました。明かりは付いていません。そのままドアを開けると、うすうす感づいてはいましたが誰もいませんでした。

先生がいなかったことにまずは落胆しましたが、準備室の中は先生の痕跡でいっぱいなことに気づきました。先生の使っているペンやノート、コーヒーカップ、フラスコや試験管等の実験器具。椅子の座布団は先生の臀部を象っているであろう凹みがついています。そんな先生の生活臭が充満した部屋に、先生のいない間にこっそり居るなんて、胸がドキドキしてお腹がキュッと少しだけ痛むようです。

すぅーっと、大きく鼻から息を吸ってみました。
「先生の匂いだ」
普通の大人の男性みたいな汗っぽさと、少し甘い爽やかな香りが混じっています。香水でもつけているのでしょうか。何度も深呼吸して匂いを感じていると、頭がボーッとしてきました。

「やばい。何だかわたし、変態みたい」

そう独り言が口をついて出て、その瞬間、私は変態なんだと自覚しました。だって異性の部屋に勝手に入って匂いを嗅いで喜んでいる人が、果たして正常でしょうか。

変態。この言葉が私の心を軽くさせ、心の中の衝動を抑える煩わしさから救ってくれる気がします。変態こそが本当の私なんだ、そう思うことで常識の殻を破って、私は一歩前へ進むことができると思いました。

私は先生の椅子に座り、下腹部を下に押し当てるようにして長い間前屈みで思いに耽っていました。股の間がこそばゆくなってきて、自ずと両腿を内側に締めるような姿勢になりました。机と椅子の周りには先生の香りがより満ちていて、呼吸をしているだけで火照ってきます。

気がつくと私の左手はブラウスの上から双丘を這い回り、右手は私の最も大事な部分へと伸びていました。感覚器官は熱く充血し、愛撫を待ちわびていたようでした。この椅子に座っている妄想上の先生と自分自身が重なり合っているのを想像すると、衝動がエスカレートし頭がボーッとしてきます。無我夢中で指の動きを早め、私は快楽に没頭しました。

絶頂への階段を登る際、頭の中の私は色んな人に謝っているようでした。
(わたしは変態だから、こんなとこでこんな事しちゃってんだ。ごめんなさい先生、わたし変態だったの。みんなごめんね、変態でも友達でいてくれる?)
そんなことが脳内を去来するうち、私は果てていました。気がつくと涙でグズグズの顔で先生の机に突っ伏していました。我を忘れている間に先生が入ってこなくて良かった……そう思ってそそくさと辺りを片付け、準備室を後にしました。

先生に会えなかったのは残念だけど、この行為は癖になっちゃうかもしれません。


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