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第1章・『姫君を狙う者』:ウィーテネ編

#1. 事の始まり

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 とある世界のとある大きな王国。

 ウィーテネと呼ばれる国の玉座の間にてこの物語は静かに動き始める。

「ディーーカッ国王一体いつになったら勇者召喚を行うつもりだ!!」
 そんな玉座の間にて勢い良くドアを開け兵士達を押し退け入ってきた青年。
 ギグルス王国の第一王子にして次期王が従者を一人引き連れやって来た。
 どうして他の国の王子が、ギグルスの王子自らがこの国ウィーテネにやって来たのかと言うと───。

「フフフッ、ハーーーハッハ、ブッヒャヒャヒャヒャ、ギャーヒャッヒャァ───ィ!!王子自ら来て下さるとは実に光栄に思う。ご連絡下されば持て成させて頂くのだが……生憎とすぐに大切な客人を迎えなければならないのだが───」
「ディーーカッ国王!お前がいつまで経っても勇者召喚を行わないから我自ら来てやったんだ!!」
 国王の皮肉と取れる言い回しにも気が付いて居ないのかそれとも気にも留めていないのかお構い無しに要件を伝える。

「フフフッ王子既にお伝えしている通り、我が国にばかり頼られては困る。貴国が勇者を召喚できないからと言って我が国にばかり頼られては非常に困る……国王とっても困る」
「なっ!?まるでギグルスが何もしてないかの様な言い方だな!?我が国程魔物退治に尽力している国は他にありはしまい!!」
 ギグルスは世界随一の武力国家と呼ばれている。

「それが困ると言っている。貴国は力を欲し過ぎる。納得がいかなければ力で、戦争で何でもかんでも解決して来た。魔王復活が近付き休戦協定が結ばれたとは言え所詮は一時に過ぎぬ」
「何が言いたい?」

「今更隠す事でも無いから言うが、勇者召喚の儀には多くの魔力を消費する。我が国が疲弊した隙を着いてギグルスが襲って来ないとも限らない!」
「いやっ、はぁ?なっ、なっ、ななな777何を馬鹿な!?協定を!協定を破れば全世界が黙っていない!!そんな事が分からぬ程馬鹿で無いわ!!」

 魔王は全世界共通の敵。
 魔王が復活する度にどの国も戦争を中止する。
 互いに手を取り合い魔王を滅ぼす為に。
 その為に足並みの揃えない国は他国から袋叩きに合ってしまう。

「魔王オロオロスの時を忘れたか!?勇者召喚で疲弊した我が国を襲撃した事を忘れたとは言わせんぞ!!」
「だから何を言っている!?過去にそんな事が起きた歴史など無い!!デタラメを言うな!!っ……たく、別にそんなんしねぇしはぁ?ふざけんなしマジでなんふざけんなし───」
 後半ブツブツ話す王子の声は王の元へと届く事は無く言葉が続く。

「悪いが他の国が信用しようと我が国ウィーテネが貴国を信用する事は決してありはしない!!」
「いやっ───ではウィーテネは何もしないつもりか!?お前の所為でこの世界が滅んでも良いと言うのか!?お前が滅ぼすんだぞ?この魔王が!魔王ディーーカッ!!この国から勇者召喚を取れば他に何が残るって言うんだよぉお゛!?」

「我々も武力で力添えしよう。勇者に頼らずとも我が国には優秀な人材が沢山居る」
「何が武力だ!これは立派な協定違反だぞ!!各国に要請すれば他の国も黙ってないからな!」

 王子は再びドアを勢い良く開き外に出る。
「後悔しても遅いからなっ!もう知らねぇ!もう知らん!!ホントにホントに遅いからな?」
 そんな捨て台詞と共にドスドスと城を後にする。
 そんな王子の従者が顎を上げ王へと見下す仕草を見せる。
 王は手で払う仕草をし従者も部屋を後にする。

 すぐに従者が王子に追い付くと丁度、目の前から従者の一人も連れずウィーテネの兵士に案内されこちらに向かって歩いて来る一人の青年。
「フフフッ聞いたよ。勇者召喚の催促に来たんだって?」
「……オージ、話が早いな」
 今さっき終わったばかりの話が既に他国の王子へと筒抜けであった。

「頼むから余計な事はしないでくれ。ギグルスが命令した所で一体どこの国が動いてくれるって言うんだ」
「何だと?」

「自分の事しか考えて無い自己中心的な奴の指図なんて聞いてくれるはずが無いだろ?フフフッ、君みたいな奴を寄こすなんてギグルスの王も余程の馬鹿と言う事か」
「共に魔王を滅ぼそうとする事のどこが自己中だと言うのだ!?ギグルスは先陣を切って前線に赴いていると言うのにどいつもそれが分からないのか!?」

「ハーシアイでの決定を無視し魔物を追い払って立派な仕事をしていると言うのかい?」
 オージは『決定を無視し』と強調して伝える。
 ハーシアイとは各国の王が魔王復活に伴って協力する為の話し合いや協定の事を言う。
「現に地上の魔物を追い払い村々を救って見せただろ?」

「魔王誕生が近付くに連れ魔物は一箇所にに集中する。その習性を追い払ったと言っているのかな?まったく……。ギグルスは仕事を終えたから後はお前らが魔王を退治しろと?言ってるのかい?」
「魔物が村を襲わない根拠は何だ!?我が国が護らなければ村が壊滅していた可能性がある!!」
 実際魔物の大群が村を横断し被害が出たのは事実で。

「何も村の中で戦う必要があるのかな?横断しようとしてる魔物を攻撃し続けた結果、村や森は無惨な姿に。人々が生活しにくく逃げずらくし逆に魔物にとっては立ち回りやすい環境のできあがりだ。挙句の果てには貧困な村に留まり続け食料を根こそぎ食べ尽くしたとか。これではどちらが魔物なのか僕には分から無いね」

「そんなはずは───」
「そんな事はない?時期王位を受け継ぐ者が何も把握できて居ないのかい?兵が勝手にやった事なのか?指揮官は何をしていたのかな?それとも報告を怠っていたのか?どちらにしろギグルスは何もしていないどころか『ハーシアイの方針に従わず余計な事をする困った国』と言うのが僕らの見解だ」

「───っ!!」
 何も反論できず苦虫を噛み締める。

「フフフッこれに懲りたら君達ギグルスは何もせず大人しくしててもらいたい。ディーーカッ国王は僕が説得するよ」
「───がペラペラと……」

「フフフッ、今何か言ったかい?」
「王位継承権争いすらさせてもらえないなんちゃって王子がペラペラペラペラと俺様に説教のつもりか!?」

「…………そうだね。君の国には皆迷惑している所だ。これは君へのお説教と捉えてもらっても構わない」
「───っ!!」

 二人の王子は互いに顔を合わせればいつも啀み合ってばかりだ。
 才能も人望も無いのに跡継ぎが他に居ないが故に時期国王に選ばれてしまった王子と、片や才能も人望もあるにもかかわらず自分よりも歳が離れ過ぎた兄が物心ついた時には既に王位を受け継いだ後だった王子。
 二人は正に水と油で合った。

「フフフッ、これは忠告だ。魔王討伐の為に足並み揃えられない国は矯正しなければならない。こんな時期にギグルスと戦争させないでくれ」
「ふんっ!!ギグルスはいつでもその喧嘩買ってやる!!」
 そして互いの王子は足を進め始める。

「……まったく。今ので分からないのか……」
 そんなオージの言葉は近くの兵士にしか届かないのであった。

 一方でもう片方では。
「王子。不躾ながら私からご意見よろしいでしょうか?」
「何だケイナリ……今の俺様はイラついてるんだ下らない話なら後……一生聞かんからなっ!!」

 この一年後、何やかんやあり結局ウィーテネで勇者召喚の儀が行われる事となる。
 その話はまた別の所で。

 この物語は更にその三年後のお話だ。
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