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第1章・『姫君を狙う者』:ウィーテネ編
#5. 1LDKのヘリコプター
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総勢5名が最新鋭のヘリコプターの中、上空1万メートルの雲の上を飛んでいた。
中は快適で回転翼の騒音は全く聞こえずソファーやテレビ、ベッドだけで無くコタツと蜜柑のセットからシャワートイレ別のリビング、ダイニング、キッチン全てを完備と言うとてもヘリコプターとは思えない無駄が詰まっている。
と言うのも、3年前に突如現れた空中都市ウィーテネに内閣総理大臣が赴く事になり百地財閥がたった1ヶ月で作り上げたこの世に一機しか存在ない最新機種である。
そんなオレは自衛隊のパイロットとして総理を送迎している真っ最中である。
の、だが……自動運転の為オレはコックピットを離れ紅茶を入れていた。
そもそも、オレは副操縦士なので何も問題は無かったりする。
「髭総理、宜しければお紅茶を」
オレは落ち着かない様子でソファーに座る内閣総理大臣にお茶を差し出す。
流石の総理も緊張しているご様子だ。
紅茶を差し出そうとするとオレと総理の間にボディーガードの2人が割って入る。
勿論2人のボディーガードが入る隙間があるはずも無くオレの身体は押しのけられる形になる。
ボディーガード達もシートベルトを外し動き回れる様にしていた。
「宜しければ御二人も飲まれますか?」
オレは2人の分の紅茶も用意する意志を示す。
「大丈夫だ2人共。頂こうか千賀地君」
ボディーガードの一人が千賀地と呼ばれたオレからカップを受け取り軽く味を確かめた後、総理へと渡る。
おっさん同士の間接キスだ。
「済まないね。コレも彼らの仕事なんだ」
いくら平和な日本とはいえ、慎重過ぎるに越した事は無いのだろう。
これから向かうのは日本では無いのだから。
「気にしてませんよ。髭総理も初めてのウィーテネで緊張なされてるのではありませんか?」
「あぁ、通訳の居ない海外との交渉と来ると正直不安しか無い。改めて御先祖様方を尊敬させられるよ」
ファンタジーの中でしか見た事の無い空飛ぶ島。
異世界から来たその島との交流はまだまともに進んでいない。
太平洋……ほぼ日本の上に現れたその島にはしっかりとした国が実在する。
人々が生活しているのはもちろん人間と似た様な動物なども存在する。
更には魔法なんてモノまで実在し、戦争を回避したい日本が先陣を切って友好関係を結ぼうとしているのだ。
場所が日本の上と言うのが最もな理由だが、他の国としても日本が戦争をしない事は周知の事実だ。
今までの実績と信用で日本が交渉を任せて貰える事になっている。
日本だけでなく、世界を代表としてこの人は異世界の地に足を運ぶのだから緊張するのは当たり前だ。
「言葉に関しては大丈夫だと思いますよ」
「そういえば君は一度ウィーテネに行ったのだったな」
その言葉にボディーガードの2人が反応を示す。
「そうですね。御二人が驚くのも無理ありませんね。この顔ですから実年齢より若く見られる事が多くて」
総理は3年前現れたウィーテネに調査に向かった日本自衛隊員の事を言って居るのだろう。
勘違いしてもらう為に『千賀地』と名乗ってる訳でもあるのだが。
「私こう見えて今年で24歳なんですよ」
身分証と一緒にそこに書いてある年齢を伝える。
とはいえ身分証の写真と違い今の俺はサングラスとマスクでほとんど顔を隠しており本人かどうかの確認が難しいはずだ。
「ウィーテネに訪れた時、私達の言葉を理解してる人が居ましたからきっと何かしらの方法で言葉を通訳しているのでしょう。もしかしたら魔法かもしれませんね」
「『魔法』ですか……。日本人に生まれたからにはやっぱり憧れますね」
魔法は別に日本と関係ないと思うのだが。
「もしかしたら心を読んで居るのかもしれないので気を付けて下さい」
「それなら大丈夫だ!」
どこから自信が出てくるのか?何故か心を読まれる事への抵抗は見せ無い総理。
「いくつになっても、オタク文化である日本人に生まれた以上は異世界や魔法は身近にあるのと同時に手の届かない憧れ続ける空想物語」
確か総理の若い頃は異世界に転生する漫画やアニメが流行っていたとか、いなかったとか。
「ですが、最近まではそういったの作品は殆ど見られませんでしたね」
「そうなんですよ!転生モノが流行った頃に自殺する人々がたまっっったまっ急増して問題になったのが原因と言われていてね。かと言って転移モノも流行っていたからね行方不明者も年間八万人を超えて居て日本でも次々規制が厳しくなってね。漫画やアニメは間違って居ないのに何も悪く無いのに漫画やアニメが原因と難癖付けられた事があったんだ!!国民が現状に満足行ってないのが原因と考えた私は自分の趣味の為にこの国を良くしたいと思う様になって不純な動機で総理大臣を目指したんだ。ま、それが今の内閣総理大臣です」
自殺や行方不明者は漫画やアニメとは関係無いと思うけど昔の人は何かといちゃもんを付けたかったのだろうか?
そういえば、髭総理になってからアニメ業界のスポンサーが増え何故か日本の景気まで良くなって行った。
少し前まではゲームの方が主流だった。
昔と違ってアニメ、漫画、ゲームは技術が無くても誰でも簡単に作れる様になってしまった。
その中でもバーチャル世界で実際に体験できるゲームは漫画やアニメと違って自分が物語の主人公になり自分の選択次第で物語が広がって行く。
そんなアニメや漫画の氷河期を救ったのが髭総理だったらしい。
総理のおかげで今まさにアニメや漫画が再ブームしているのだからやりたい事を実現したのだ。
「元々は漫画やアニメの為だったとしても、髭総理のおかげで今の日本があるのですからウィーテネでも何も変わらず今まで通りで大丈夫です」
「そう言って貰えると助かるよ」
日本が未だにオタク文化に力を注いで居られるはこの総理の影響がデカいのだろう。
国民もそれを望んでるからこそ支持率が常に高いのかもしれない。
この人は国民を代表して自分のやりたい事をやっているだけなのだ。結果国民の願いを叶えているのだから応援したくなる理由も分かる。
この人ならきっとウィーテネとも上手くやって行けるかもしれないな。
すると突然身体への違和感に襲われる。と同時に───機体が微かに揺れる。
『ビー、ビー、ビー、1キロメートル先飛行物体接近中!!800メートル先から何か飛んできます!!』
レーダーに何か引っかかったのか音声アナウンスが流れる。
フロントガラスの向こう側から小さなモノが飛んでいる。
オレはサングラスの智に触ると飛んで居る物体にピントを合わせ何が飛んで来ているのかを確認する。
鳥と言うにはあまりにも大きく、かと言ってドラゴンの様な空想の生き物よりは小さい。が、それもとても有名な空想上の生き物と同じ姿をしている。
「上昇して下さい!!すぐに!!」
「はっはい!!」
オレの呼び掛けにパイロットがすぐにヘリコプターを急上昇させる。
真っ直このヘリに向かって飛んで来ている!?
オレは最悪を想定して総理の元に向かう。
「しっかりシートベルトしていて下さいね」
総理の元に駆け付けシートベルトがされているか確認する。
「千賀地君!あれってワイバーンだよね!」
こちらの不安を他所に総理はワイバーンに興奮している。
「喋ってると舌噛むかもしれませんよ」
「んっ……」
うるさい総理を黙らせると次はパイロットが叫び声を上げる。
「うぁぁぁぁあ!!?」
強風が吹いたのか熱気と共にヘリコプターが横向きにひっくり返ってしまう。
ボディーガードの二人はシートベルトを閉めて居なかった事で天井に叩き付けられてしまう。
「総理!」
「総理!!」
それでもなんとか受身を取り総理を心配するのは流石ボディーガードと言える。
総理はしっかりシートベルトをしておりそのソファーも床に固定されていて無事だ。
オレもソファーに掴んでいたおかげで無事だったのだが。
「髭総理!!」
だが、総理の手からティーカップが離れてしまっていた。
もちろん中の紅茶が宙を舞っている。
いくら掛かったか分からない新品のヘリコプター。それをオレの目の前で紅茶を零す訳にはいかない。
「コード1113」
『コードを受信しました。コンタクトします』
小さく呟いたオレの声に反応しオレにだけ聞こえる様に脳内に直接声が送られる。
ソファーから手を離しティーカップをキャッチする。
そのまま綺麗に放物線を描き宙に舞う紅茶を掬うも今から一つのルートを辿っても攻略しきる事はできない。
オレは天井に着地すると降ってくる紅茶を上からキャッチしていく。
後は放物線が描いてくれている通りの道順を歩いて貰うだけで元通りティーカップのお腹が満たされて行く。
「ゆっくり立て直して下さい」
紅茶を掬い切り天井に紅茶のシミ一つ無い事を確認してからパイロットに告げる。
「はっ、はい!!」
パイロットはオレの言葉を『さっさと立て直せ』と受け取ったのか萎縮してしまい手際悪く体制を戻していく。
その間フロントガラス越しのワイバーンを確認すると何やら壁に激突している様子だった。
壁と言っても空にそんな物があるはずも無く見えない何かから先に進めずに居る様だった。
「零すと掃除が大変なので飲みきって下さい」
ティーカップを総理へと手渡しオレは操縦席の方へ向い確認を取る。
「さっきの風でどれ程吹き飛ばされましたか?あのワイバーンが飛んでる位置、あれは……」
「えっ?……え~っと」
まるで初めて操縦で緊張しているかの様にアタフタし始める機長。
「貴方コードは?」
「えっ?あっ、……っと1039です」
まさかのオレよりも数字が低かった。
「コンタクト。コード1039」
「───っ!!今のは……?」
代わりにコードを読み上げると一瞬身体を震わせる機長。
「もう一度言います。このヘリはどれ程飛ばされましたか?」
「60メートル程飛ばされたと思われます」
ワイバーンとの距離はざっと見ても40メートル程だ。
さっきまでこのヘリはあの位置を飛んでいた事になる。
それと同時に2人のコンタクトが切れた。
見えない壁があるとは思えないが、突然出現したのか?それとも───。
「ワイバーンと電波を通さない壁か……?」
オレは床に転がる蜜柑を拾う。
「あのワイバーンにお尻を向けてハッチを開けて下さい」
「分かりました。一体何するつもりですか?」
「見えない壁が本当にあるのか確認します」
ワイバーンは何度も壁に衝突しているもののダメージを受けている様子は見られない。
電気が流れている可能性は極めて少ないだろう。
「総理はその場でじっとしていて下さい」
ボディーガードに総理を任せる。
オレは別に総理のボディーガードでは無い。
オレの仕事は総理を無事ウィーテネへ送り届ける事だ。
『後部ハッチ開きます離れてお待ち下さい』
アナウンスを無視しギリギリまで前に出る。
ハッチが開かれた事で強風が室内に吹き荒れる。
強風に耐えながらワイバーンを確認する。
ヘリコプターの羽の影響か向い風をモロに食らって居る状態だ。
「もう少しワイバーンの上に向かって下さい。近付き過ぎない様に気を付けてお願いします」
中は快適で回転翼の騒音は全く聞こえずソファーやテレビ、ベッドだけで無くコタツと蜜柑のセットからシャワートイレ別のリビング、ダイニング、キッチン全てを完備と言うとてもヘリコプターとは思えない無駄が詰まっている。
と言うのも、3年前に突如現れた空中都市ウィーテネに内閣総理大臣が赴く事になり百地財閥がたった1ヶ月で作り上げたこの世に一機しか存在ない最新機種である。
そんなオレは自衛隊のパイロットとして総理を送迎している真っ最中である。
の、だが……自動運転の為オレはコックピットを離れ紅茶を入れていた。
そもそも、オレは副操縦士なので何も問題は無かったりする。
「髭総理、宜しければお紅茶を」
オレは落ち着かない様子でソファーに座る内閣総理大臣にお茶を差し出す。
流石の総理も緊張しているご様子だ。
紅茶を差し出そうとするとオレと総理の間にボディーガードの2人が割って入る。
勿論2人のボディーガードが入る隙間があるはずも無くオレの身体は押しのけられる形になる。
ボディーガード達もシートベルトを外し動き回れる様にしていた。
「宜しければ御二人も飲まれますか?」
オレは2人の分の紅茶も用意する意志を示す。
「大丈夫だ2人共。頂こうか千賀地君」
ボディーガードの一人が千賀地と呼ばれたオレからカップを受け取り軽く味を確かめた後、総理へと渡る。
おっさん同士の間接キスだ。
「済まないね。コレも彼らの仕事なんだ」
いくら平和な日本とはいえ、慎重過ぎるに越した事は無いのだろう。
これから向かうのは日本では無いのだから。
「気にしてませんよ。髭総理も初めてのウィーテネで緊張なされてるのではありませんか?」
「あぁ、通訳の居ない海外との交渉と来ると正直不安しか無い。改めて御先祖様方を尊敬させられるよ」
ファンタジーの中でしか見た事の無い空飛ぶ島。
異世界から来たその島との交流はまだまともに進んでいない。
太平洋……ほぼ日本の上に現れたその島にはしっかりとした国が実在する。
人々が生活しているのはもちろん人間と似た様な動物なども存在する。
更には魔法なんてモノまで実在し、戦争を回避したい日本が先陣を切って友好関係を結ぼうとしているのだ。
場所が日本の上と言うのが最もな理由だが、他の国としても日本が戦争をしない事は周知の事実だ。
今までの実績と信用で日本が交渉を任せて貰える事になっている。
日本だけでなく、世界を代表としてこの人は異世界の地に足を運ぶのだから緊張するのは当たり前だ。
「言葉に関しては大丈夫だと思いますよ」
「そういえば君は一度ウィーテネに行ったのだったな」
その言葉にボディーガードの2人が反応を示す。
「そうですね。御二人が驚くのも無理ありませんね。この顔ですから実年齢より若く見られる事が多くて」
総理は3年前現れたウィーテネに調査に向かった日本自衛隊員の事を言って居るのだろう。
勘違いしてもらう為に『千賀地』と名乗ってる訳でもあるのだが。
「私こう見えて今年で24歳なんですよ」
身分証と一緒にそこに書いてある年齢を伝える。
とはいえ身分証の写真と違い今の俺はサングラスとマスクでほとんど顔を隠しており本人かどうかの確認が難しいはずだ。
「ウィーテネに訪れた時、私達の言葉を理解してる人が居ましたからきっと何かしらの方法で言葉を通訳しているのでしょう。もしかしたら魔法かもしれませんね」
「『魔法』ですか……。日本人に生まれたからにはやっぱり憧れますね」
魔法は別に日本と関係ないと思うのだが。
「もしかしたら心を読んで居るのかもしれないので気を付けて下さい」
「それなら大丈夫だ!」
どこから自信が出てくるのか?何故か心を読まれる事への抵抗は見せ無い総理。
「いくつになっても、オタク文化である日本人に生まれた以上は異世界や魔法は身近にあるのと同時に手の届かない憧れ続ける空想物語」
確か総理の若い頃は異世界に転生する漫画やアニメが流行っていたとか、いなかったとか。
「ですが、最近まではそういったの作品は殆ど見られませんでしたね」
「そうなんですよ!転生モノが流行った頃に自殺する人々がたまっっったまっ急増して問題になったのが原因と言われていてね。かと言って転移モノも流行っていたからね行方不明者も年間八万人を超えて居て日本でも次々規制が厳しくなってね。漫画やアニメは間違って居ないのに何も悪く無いのに漫画やアニメが原因と難癖付けられた事があったんだ!!国民が現状に満足行ってないのが原因と考えた私は自分の趣味の為にこの国を良くしたいと思う様になって不純な動機で総理大臣を目指したんだ。ま、それが今の内閣総理大臣です」
自殺や行方不明者は漫画やアニメとは関係無いと思うけど昔の人は何かといちゃもんを付けたかったのだろうか?
そういえば、髭総理になってからアニメ業界のスポンサーが増え何故か日本の景気まで良くなって行った。
少し前まではゲームの方が主流だった。
昔と違ってアニメ、漫画、ゲームは技術が無くても誰でも簡単に作れる様になってしまった。
その中でもバーチャル世界で実際に体験できるゲームは漫画やアニメと違って自分が物語の主人公になり自分の選択次第で物語が広がって行く。
そんなアニメや漫画の氷河期を救ったのが髭総理だったらしい。
総理のおかげで今まさにアニメや漫画が再ブームしているのだからやりたい事を実現したのだ。
「元々は漫画やアニメの為だったとしても、髭総理のおかげで今の日本があるのですからウィーテネでも何も変わらず今まで通りで大丈夫です」
「そう言って貰えると助かるよ」
日本が未だにオタク文化に力を注いで居られるはこの総理の影響がデカいのだろう。
国民もそれを望んでるからこそ支持率が常に高いのかもしれない。
この人は国民を代表して自分のやりたい事をやっているだけなのだ。結果国民の願いを叶えているのだから応援したくなる理由も分かる。
この人ならきっとウィーテネとも上手くやって行けるかもしれないな。
すると突然身体への違和感に襲われる。と同時に───機体が微かに揺れる。
『ビー、ビー、ビー、1キロメートル先飛行物体接近中!!800メートル先から何か飛んできます!!』
レーダーに何か引っかかったのか音声アナウンスが流れる。
フロントガラスの向こう側から小さなモノが飛んでいる。
オレはサングラスの智に触ると飛んで居る物体にピントを合わせ何が飛んで来ているのかを確認する。
鳥と言うにはあまりにも大きく、かと言ってドラゴンの様な空想の生き物よりは小さい。が、それもとても有名な空想上の生き物と同じ姿をしている。
「上昇して下さい!!すぐに!!」
「はっはい!!」
オレの呼び掛けにパイロットがすぐにヘリコプターを急上昇させる。
真っ直このヘリに向かって飛んで来ている!?
オレは最悪を想定して総理の元に向かう。
「しっかりシートベルトしていて下さいね」
総理の元に駆け付けシートベルトがされているか確認する。
「千賀地君!あれってワイバーンだよね!」
こちらの不安を他所に総理はワイバーンに興奮している。
「喋ってると舌噛むかもしれませんよ」
「んっ……」
うるさい総理を黙らせると次はパイロットが叫び声を上げる。
「うぁぁぁぁあ!!?」
強風が吹いたのか熱気と共にヘリコプターが横向きにひっくり返ってしまう。
ボディーガードの二人はシートベルトを閉めて居なかった事で天井に叩き付けられてしまう。
「総理!」
「総理!!」
それでもなんとか受身を取り総理を心配するのは流石ボディーガードと言える。
総理はしっかりシートベルトをしておりそのソファーも床に固定されていて無事だ。
オレもソファーに掴んでいたおかげで無事だったのだが。
「髭総理!!」
だが、総理の手からティーカップが離れてしまっていた。
もちろん中の紅茶が宙を舞っている。
いくら掛かったか分からない新品のヘリコプター。それをオレの目の前で紅茶を零す訳にはいかない。
「コード1113」
『コードを受信しました。コンタクトします』
小さく呟いたオレの声に反応しオレにだけ聞こえる様に脳内に直接声が送られる。
ソファーから手を離しティーカップをキャッチする。
そのまま綺麗に放物線を描き宙に舞う紅茶を掬うも今から一つのルートを辿っても攻略しきる事はできない。
オレは天井に着地すると降ってくる紅茶を上からキャッチしていく。
後は放物線が描いてくれている通りの道順を歩いて貰うだけで元通りティーカップのお腹が満たされて行く。
「ゆっくり立て直して下さい」
紅茶を掬い切り天井に紅茶のシミ一つ無い事を確認してからパイロットに告げる。
「はっ、はい!!」
パイロットはオレの言葉を『さっさと立て直せ』と受け取ったのか萎縮してしまい手際悪く体制を戻していく。
その間フロントガラス越しのワイバーンを確認すると何やら壁に激突している様子だった。
壁と言っても空にそんな物があるはずも無く見えない何かから先に進めずに居る様だった。
「零すと掃除が大変なので飲みきって下さい」
ティーカップを総理へと手渡しオレは操縦席の方へ向い確認を取る。
「さっきの風でどれ程吹き飛ばされましたか?あのワイバーンが飛んでる位置、あれは……」
「えっ?……え~っと」
まるで初めて操縦で緊張しているかの様にアタフタし始める機長。
「貴方コードは?」
「えっ?あっ、……っと1039です」
まさかのオレよりも数字が低かった。
「コンタクト。コード1039」
「───っ!!今のは……?」
代わりにコードを読み上げると一瞬身体を震わせる機長。
「もう一度言います。このヘリはどれ程飛ばされましたか?」
「60メートル程飛ばされたと思われます」
ワイバーンとの距離はざっと見ても40メートル程だ。
さっきまでこのヘリはあの位置を飛んでいた事になる。
それと同時に2人のコンタクトが切れた。
見えない壁があるとは思えないが、突然出現したのか?それとも───。
「ワイバーンと電波を通さない壁か……?」
オレは床に転がる蜜柑を拾う。
「あのワイバーンにお尻を向けてハッチを開けて下さい」
「分かりました。一体何するつもりですか?」
「見えない壁が本当にあるのか確認します」
ワイバーンは何度も壁に衝突しているもののダメージを受けている様子は見られない。
電気が流れている可能性は極めて少ないだろう。
「総理はその場でじっとしていて下さい」
ボディーガードに総理を任せる。
オレは別に総理のボディーガードでは無い。
オレの仕事は総理を無事ウィーテネへ送り届ける事だ。
『後部ハッチ開きます離れてお待ち下さい』
アナウンスを無視しギリギリまで前に出る。
ハッチが開かれた事で強風が室内に吹き荒れる。
強風に耐えながらワイバーンを確認する。
ヘリコプターの羽の影響か向い風をモロに食らって居る状態だ。
「もう少しワイバーンの上に向かって下さい。近付き過ぎない様に気を付けてお願いします」
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