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004.入学試験乱入
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俺の言葉に、ルシファーは速攻で物言いをふっかけてきた。
「えええぇ!? 美味しいもの食べに行きましょうよ~」
そういえばそんな話もあったなと、俺は思い出した。本当に忘れていた。
「それは後でいいだろ。何を優先すべきかを考えろ」
「…はいぃ」
返事は情けなく、その顔は納得のいっていない顔だったが、とりあえず今は気付かないふりをしておこう。一先ず事態を落ち着ける必要がある。まずは勇者学院とやらを探さなければならないのだ。
どうやら、この中央区の西の外れに、ヒュマニア王国随一の勇者学院があるらしい。何でも、王国を護る王国騎士団や、他国への遠征を目的とした王国遠征隊のエリート達は、皆その学院を卒業しているようだ。これは少しばかり期待しても損はしないかもしれない。
「とばすぞ、ルシファー」
「…はい」
ルシファーのテンションはだいぶ落ちているようだった。
俺は転移魔法を使った。目的地がどこにあるのかを知らなければ正確に転移することは出来ないが、西の外れにあると分かれば、西の方に転移すればそのうち見つかるだろう。
ルシファーと共に転移した先で、すぐに相当量の魔力を感知した。魔眼を使うまでも無い。俺は魔力を感知した後ろを振り向いた。少し距離があるが、そこには巨大な城のような建物が聳え立っていた。中央区の王城ほど巨大ではないが、学院にしては巨大な建物がそこにはあった。国内随一と言われる所以か。
建物のてっぺんには赤い旗が幾つか立てられており、三本の剣が交わったような模様が描かれていた。あれが、ここの学院のマークだろうか。
「これが学院か。思ったよりデカいな」
「何人の生徒がいるんでしょうね…。ちょっと想像つきませんね」
確かに。学院というもの自体初めてだしな。
それにしても、人間の数が多い。ここは中央区西の外れ、先ほどの王城周りに比べれば人の数は少なくて然るべきだが、同等か、下手をすれば更に多い気がする。
「今日は祭りでもあるのか?」
「見てきます!」
ルシファーは猛スピードで飛んでいき、学院の周りを見て回った。
「朗報ですよ!」
息を切らしながらも笑みを絶やさず戻ってきたルシファーは、息を整える。
「きょ、今日! 入学試験をやっているみたいなんです!」
「入学…ということは、新しく学院に通う生徒を選別している最中ということか」
「はい!」
さて、どうしたものか。
生徒として入学するのは容易いだろうが、それが最善の策と言えるだろうか。勇者を育成する立場にいなければならない以上、先生として学院に忍び込む方が合理的ではないだろうか。しかし先生というのは、学生に物事を教える役割だ。全く興味の無い生徒に対してもある程度対応しなきゃいけなくなりそうだ。最悪力でねじ伏せることは無論出来るが、面倒事を起こして魔王の実子であることがバレるようなことがあれば本末転倒だ。今回のケースでいえば、勘づかれることですらあってはならないのだ。
父上から課せられた勇者育成計画を頓挫させるわけにはいかないのだから。
「入学試験とやらに参加しよう」
「おっ、いいですね~応援しますよ!!」
「不要だ」
俺は宙に浮き、門を越え、学院の本棟の裏を覗いた。そこには、円形の闘技場のようなものが十数個並んでおり、一つ一つに大勢の人間の姿を見ることが出来た。
「入学試験会場はあそこか」
俺は魔眼で闘技場を見やる。ふむ、確かに相当な魔力量があるが…どうも少なすぎる気もする。
一緒に上空を付いてきたルシファーも、見たこと無いものを見るかのように、闘技場を一つ一つ物色していた。
「どこに入ります?」
「どこでも一緒だろう。…ルシファー、お前はここにいろ」
「ええ!? レイラ様を見下ろすなんて事…」
「俺が許す」
「でもどうせ入っても向こうに私の姿は見えませんよ?」
「何となく、そこにいろ」
俺はそう言い残し、闘技場目掛けて降り立った。ルシファーは言うことを聞いているようで、上空から一歩も動かずに闘技場を見下ろしていた。何となく、頬を膨らませているようにも見える。
ドーム状の窓を砕き、俺は闘技場のど真ん中に降り立った。
「?」
先ほどまで盛り上がっていた闘技場は、俺の登場に静まり返っていた。俺は辺りを見渡し様子を見るが、皆開いた口が塞がっていないようだった。
そして、俺を挟み込むようにして立っている二人の男は、同時に俺を見つめていた。
「入学試験の会場はここか?」
問い詰めても返事はなかった。
やがて、一人の観客が声を上げた。
「乱入者だー!」
その声を皮切りに、会場中が一斉に沸き立った。何をそんなに騒ぐことがあるのか。人間、これだけ集まると相当な喧しさを発揮できるものか。
少しうるさすぎるな。
俺は手を上げ、指を鳴らした。
瞬間、闘技場内は静まり返り、俺の指音だけが響いた。やがて、観客席にいた人間が一人、また一人と泡を吹いて倒れだした。
「なんだ!?」
再びざわめき出すが、観客の半数以上はその場に倒れ込んでしまった。
やれやれ、少し指を鳴らしただけで倒れるとは情けない。勿論、殺さないように手加減はしているが、半数以上も倒れるとは想定外だ。
あろうことか、俺を挟み込むようにして立っていた二人も、泡を吹いて倒れ込んでいた。恐らくこの二人は受験生だろうに、情けない。
本当にここが国内随一の勇者学院なのか?
本当にここに、俺の求める人材はいるのか?
すると、観客席の一部、ゲートのある中央部分の方から、数名の人間が俺を囲むようにして闘技場に降りてきた。
その数十二人。男が八人、女が四人だ。
「見たところ…そこで泡を吹いて倒れている男共より年はいっているな。お前達も生徒か?」
「俺たちはここの監視員だ。部外者を片付けにきた!」
十二人のうちの一人の男がそういった。監視員?それは先生とは違うのか?
「何者だ貴様! 部外者は立ち去れ!我が学院の秩序を乱すつもりか!」
「秩序…?」
何を言っているのか分からないが、部外者と言われるのは心外だ。俺はこの勇者学院の…いわば受験生だぞ?部外者と言われる筋合いはない。
「俺は受験生だ。入学試験を受けに来た」
「試験を受けたきゃ、正当な手続きを受けてから来るんだったな」
正当な手続き?なんだそれは。
「お前にはもうこの学院に立ち寄る資格はねえよ!」
「資格がない?」
「そうだ!抵抗するなら命を失う覚悟をしろ!」
ほう。
十二人は各々に身構えだした。武器を手にする者、手に魔法を溜め込む者、魔法陣を展開する者。色々な手段を講じるつもりだろうが、どいつもこいつも低レベルな魔力ばかりだった。神経を集中させなければ感じ取れぬ程の微弱な魔力ばかりだ。
殺すか。
『ダメですよ!』
俺の頭の中に声がした。ルシファーの声だ。
思念交換を使って俺にだけ聞こえる声で注意喚起をしてきている。
『お言葉ですけど、ここでその人間達を殺したら、本末転倒です!』
一理ある。
俺は一斉に襲いかかってきた十二人を殺そうとするのを止め、一歩も動かずに大地を揺らしてみせた。十二人はバランスを崩し、攻撃の手を止めた。
俺はしゃがみ込み、地面に手を当てる。すると、地に足を付けた十二人の身体が黒い光を帯び、それぞれの色をした魔力を地面を通して吸い込んだ。魔力が失われていく十二人の人間共は、次々とその場に力無く倒れてしまった。
「命までは取らない。俺にも事情があるからな」
「こ、こいつ……俺達の魔力を…!」
監視員十二人が俺に敵わないと分かってか、闘技場にいて最初の指鳴らしで気を失わなかった観客達が、皆一斉に逃げ出した。
『レイラ様! これまずくないですか?』
ふむ、まずいとは言えばまずいか。
このままでは俺の立場が怪しくなる。勇者育成計画に支障が出る。
俺は倒れていた十二人のうち、まだ意識のある男の元に歩み寄った。そして、男の前髪を掴み顔を近づけた。
「俺は入学試験を受けたいだけだ。正当な手続きとは何だ?」
「お、お前なんかに…秩序を乱されて溜まるか…!」
「さっきからその秩序とやらが好きなようだが…」
俺は男の顔を地面に叩きつける。男は白目を剥くが、まだ気を保っている。
「お前は根性があるな」
「黙れ…外道が…!」
「正当な手続きとは何だ?教えてくれれば許してやろう」
「お前なんかに…誰が教えるか…!」
ふむ、言って分からぬとなると…。
俺は男の左腕を引きちぎった。男は声にならない声を上げる。俺は男が痛みのあまり気を失わないように魔法を掛ける。
「痛いだろう? 俺も小さい頃は腕をもがれて痛がってたものだ。だが安心しろ、痛みというのは慣れればどうってことはない。俺は今や痛みを感じ得ない体になったんだ」
「がっ……ああっ…」
無理矢理意識を保たせているせいか、男はまともな言葉を発せない状態になっていた。仕方ない、強行突破だ。
俺は男の後頭部を握り地面に叩きつける。そして、思念教唆の魔法を行使し、男の頭の中の入学試験に関する情報を盗み出した。
「用紙に書いて提出後、ヤミフクロウの受付を経て闘技場に入場。呼ばれた番号毎に一対一の戦闘試験で合否を決める……」
ふむ、これか。正当な手続きとやらは。
「……しかしこれは…なるほど。期限が締め切られている。となると他に入学手段は……」
代替案を探っていると、興味深い情報を見つけた。
「追試験…?」
やむを得ない事情で入学試験を受けられなかった者は、一週間後の追試験で合格すれば入学を許可される。しかし試験内容は通常の入学試験よりも難関になる…とな。
これか。
「ふむ、少しは使い物になったな。お前も」
男の命は既に絶たれていた。俺は男の頭から手を離した。
さて、監視員一人を殺したとなれば編入試験とやらも受けられない可能性が出てきたな。どうやらこの大陸では、慎ましく生きることを強いられるようだ。全く息苦しい。
これは、少しばかり時間を戻すしかないか。
俺は時逆魔法を発動した。
指定した空間の時間を巻き戻すことが出来る。過去は変えられるのだ。
俺は念のためデイン大陸全体を指定し、ルシファーのみを対象外とし、その全ての時間を10分程戻し、闘技場の上空にいるルシファーの元へ戻った。
闘技場は、10分前と変わらぬ盛り上がりを見せていた。
「いきなり時逆魔法を使い出したのでビックリしましたよ~」
「悪いな。少し暴れすぎた。だが、いい情報を手に入れた」
「なんです?」
「追試験だ。一週間後の追試験で合格すれば、入学が許可されるらしい」
ルシファーは「なるほど」と頷いていた。しかしその後、何やら不安げな表情を浮かべながら闘技場を見下ろした。
「レイラ様。本当にここで、勇者となるべき人材が見つかるんでしょうか」
「奇遇だな。俺も同じ懸念を抱いていたところだ」
俺は闘技場を、そして城のように巨大な本棟を一瞥した。
「だがまあ、まだ見限るのは早いさ。まずは追試験だ」
「えええぇ!? 美味しいもの食べに行きましょうよ~」
そういえばそんな話もあったなと、俺は思い出した。本当に忘れていた。
「それは後でいいだろ。何を優先すべきかを考えろ」
「…はいぃ」
返事は情けなく、その顔は納得のいっていない顔だったが、とりあえず今は気付かないふりをしておこう。一先ず事態を落ち着ける必要がある。まずは勇者学院とやらを探さなければならないのだ。
どうやら、この中央区の西の外れに、ヒュマニア王国随一の勇者学院があるらしい。何でも、王国を護る王国騎士団や、他国への遠征を目的とした王国遠征隊のエリート達は、皆その学院を卒業しているようだ。これは少しばかり期待しても損はしないかもしれない。
「とばすぞ、ルシファー」
「…はい」
ルシファーのテンションはだいぶ落ちているようだった。
俺は転移魔法を使った。目的地がどこにあるのかを知らなければ正確に転移することは出来ないが、西の外れにあると分かれば、西の方に転移すればそのうち見つかるだろう。
ルシファーと共に転移した先で、すぐに相当量の魔力を感知した。魔眼を使うまでも無い。俺は魔力を感知した後ろを振り向いた。少し距離があるが、そこには巨大な城のような建物が聳え立っていた。中央区の王城ほど巨大ではないが、学院にしては巨大な建物がそこにはあった。国内随一と言われる所以か。
建物のてっぺんには赤い旗が幾つか立てられており、三本の剣が交わったような模様が描かれていた。あれが、ここの学院のマークだろうか。
「これが学院か。思ったよりデカいな」
「何人の生徒がいるんでしょうね…。ちょっと想像つきませんね」
確かに。学院というもの自体初めてだしな。
それにしても、人間の数が多い。ここは中央区西の外れ、先ほどの王城周りに比べれば人の数は少なくて然るべきだが、同等か、下手をすれば更に多い気がする。
「今日は祭りでもあるのか?」
「見てきます!」
ルシファーは猛スピードで飛んでいき、学院の周りを見て回った。
「朗報ですよ!」
息を切らしながらも笑みを絶やさず戻ってきたルシファーは、息を整える。
「きょ、今日! 入学試験をやっているみたいなんです!」
「入学…ということは、新しく学院に通う生徒を選別している最中ということか」
「はい!」
さて、どうしたものか。
生徒として入学するのは容易いだろうが、それが最善の策と言えるだろうか。勇者を育成する立場にいなければならない以上、先生として学院に忍び込む方が合理的ではないだろうか。しかし先生というのは、学生に物事を教える役割だ。全く興味の無い生徒に対してもある程度対応しなきゃいけなくなりそうだ。最悪力でねじ伏せることは無論出来るが、面倒事を起こして魔王の実子であることがバレるようなことがあれば本末転倒だ。今回のケースでいえば、勘づかれることですらあってはならないのだ。
父上から課せられた勇者育成計画を頓挫させるわけにはいかないのだから。
「入学試験とやらに参加しよう」
「おっ、いいですね~応援しますよ!!」
「不要だ」
俺は宙に浮き、門を越え、学院の本棟の裏を覗いた。そこには、円形の闘技場のようなものが十数個並んでおり、一つ一つに大勢の人間の姿を見ることが出来た。
「入学試験会場はあそこか」
俺は魔眼で闘技場を見やる。ふむ、確かに相当な魔力量があるが…どうも少なすぎる気もする。
一緒に上空を付いてきたルシファーも、見たこと無いものを見るかのように、闘技場を一つ一つ物色していた。
「どこに入ります?」
「どこでも一緒だろう。…ルシファー、お前はここにいろ」
「ええ!? レイラ様を見下ろすなんて事…」
「俺が許す」
「でもどうせ入っても向こうに私の姿は見えませんよ?」
「何となく、そこにいろ」
俺はそう言い残し、闘技場目掛けて降り立った。ルシファーは言うことを聞いているようで、上空から一歩も動かずに闘技場を見下ろしていた。何となく、頬を膨らませているようにも見える。
ドーム状の窓を砕き、俺は闘技場のど真ん中に降り立った。
「?」
先ほどまで盛り上がっていた闘技場は、俺の登場に静まり返っていた。俺は辺りを見渡し様子を見るが、皆開いた口が塞がっていないようだった。
そして、俺を挟み込むようにして立っている二人の男は、同時に俺を見つめていた。
「入学試験の会場はここか?」
問い詰めても返事はなかった。
やがて、一人の観客が声を上げた。
「乱入者だー!」
その声を皮切りに、会場中が一斉に沸き立った。何をそんなに騒ぐことがあるのか。人間、これだけ集まると相当な喧しさを発揮できるものか。
少しうるさすぎるな。
俺は手を上げ、指を鳴らした。
瞬間、闘技場内は静まり返り、俺の指音だけが響いた。やがて、観客席にいた人間が一人、また一人と泡を吹いて倒れだした。
「なんだ!?」
再びざわめき出すが、観客の半数以上はその場に倒れ込んでしまった。
やれやれ、少し指を鳴らしただけで倒れるとは情けない。勿論、殺さないように手加減はしているが、半数以上も倒れるとは想定外だ。
あろうことか、俺を挟み込むようにして立っていた二人も、泡を吹いて倒れ込んでいた。恐らくこの二人は受験生だろうに、情けない。
本当にここが国内随一の勇者学院なのか?
本当にここに、俺の求める人材はいるのか?
すると、観客席の一部、ゲートのある中央部分の方から、数名の人間が俺を囲むようにして闘技場に降りてきた。
その数十二人。男が八人、女が四人だ。
「見たところ…そこで泡を吹いて倒れている男共より年はいっているな。お前達も生徒か?」
「俺たちはここの監視員だ。部外者を片付けにきた!」
十二人のうちの一人の男がそういった。監視員?それは先生とは違うのか?
「何者だ貴様! 部外者は立ち去れ!我が学院の秩序を乱すつもりか!」
「秩序…?」
何を言っているのか分からないが、部外者と言われるのは心外だ。俺はこの勇者学院の…いわば受験生だぞ?部外者と言われる筋合いはない。
「俺は受験生だ。入学試験を受けに来た」
「試験を受けたきゃ、正当な手続きを受けてから来るんだったな」
正当な手続き?なんだそれは。
「お前にはもうこの学院に立ち寄る資格はねえよ!」
「資格がない?」
「そうだ!抵抗するなら命を失う覚悟をしろ!」
ほう。
十二人は各々に身構えだした。武器を手にする者、手に魔法を溜め込む者、魔法陣を展開する者。色々な手段を講じるつもりだろうが、どいつもこいつも低レベルな魔力ばかりだった。神経を集中させなければ感じ取れぬ程の微弱な魔力ばかりだ。
殺すか。
『ダメですよ!』
俺の頭の中に声がした。ルシファーの声だ。
思念交換を使って俺にだけ聞こえる声で注意喚起をしてきている。
『お言葉ですけど、ここでその人間達を殺したら、本末転倒です!』
一理ある。
俺は一斉に襲いかかってきた十二人を殺そうとするのを止め、一歩も動かずに大地を揺らしてみせた。十二人はバランスを崩し、攻撃の手を止めた。
俺はしゃがみ込み、地面に手を当てる。すると、地に足を付けた十二人の身体が黒い光を帯び、それぞれの色をした魔力を地面を通して吸い込んだ。魔力が失われていく十二人の人間共は、次々とその場に力無く倒れてしまった。
「命までは取らない。俺にも事情があるからな」
「こ、こいつ……俺達の魔力を…!」
監視員十二人が俺に敵わないと分かってか、闘技場にいて最初の指鳴らしで気を失わなかった観客達が、皆一斉に逃げ出した。
『レイラ様! これまずくないですか?』
ふむ、まずいとは言えばまずいか。
このままでは俺の立場が怪しくなる。勇者育成計画に支障が出る。
俺は倒れていた十二人のうち、まだ意識のある男の元に歩み寄った。そして、男の前髪を掴み顔を近づけた。
「俺は入学試験を受けたいだけだ。正当な手続きとは何だ?」
「お、お前なんかに…秩序を乱されて溜まるか…!」
「さっきからその秩序とやらが好きなようだが…」
俺は男の顔を地面に叩きつける。男は白目を剥くが、まだ気を保っている。
「お前は根性があるな」
「黙れ…外道が…!」
「正当な手続きとは何だ?教えてくれれば許してやろう」
「お前なんかに…誰が教えるか…!」
ふむ、言って分からぬとなると…。
俺は男の左腕を引きちぎった。男は声にならない声を上げる。俺は男が痛みのあまり気を失わないように魔法を掛ける。
「痛いだろう? 俺も小さい頃は腕をもがれて痛がってたものだ。だが安心しろ、痛みというのは慣れればどうってことはない。俺は今や痛みを感じ得ない体になったんだ」
「がっ……ああっ…」
無理矢理意識を保たせているせいか、男はまともな言葉を発せない状態になっていた。仕方ない、強行突破だ。
俺は男の後頭部を握り地面に叩きつける。そして、思念教唆の魔法を行使し、男の頭の中の入学試験に関する情報を盗み出した。
「用紙に書いて提出後、ヤミフクロウの受付を経て闘技場に入場。呼ばれた番号毎に一対一の戦闘試験で合否を決める……」
ふむ、これか。正当な手続きとやらは。
「……しかしこれは…なるほど。期限が締め切られている。となると他に入学手段は……」
代替案を探っていると、興味深い情報を見つけた。
「追試験…?」
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これか。
「ふむ、少しは使い物になったな。お前も」
男の命は既に絶たれていた。俺は男の頭から手を離した。
さて、監視員一人を殺したとなれば編入試験とやらも受けられない可能性が出てきたな。どうやらこの大陸では、慎ましく生きることを強いられるようだ。全く息苦しい。
これは、少しばかり時間を戻すしかないか。
俺は時逆魔法を発動した。
指定した空間の時間を巻き戻すことが出来る。過去は変えられるのだ。
俺は念のためデイン大陸全体を指定し、ルシファーのみを対象外とし、その全ての時間を10分程戻し、闘技場の上空にいるルシファーの元へ戻った。
闘技場は、10分前と変わらぬ盛り上がりを見せていた。
「いきなり時逆魔法を使い出したのでビックリしましたよ~」
「悪いな。少し暴れすぎた。だが、いい情報を手に入れた」
「なんです?」
「追試験だ。一週間後の追試験で合格すれば、入学が許可されるらしい」
ルシファーは「なるほど」と頷いていた。しかしその後、何やら不安げな表情を浮かべながら闘技場を見下ろした。
「レイラ様。本当にここで、勇者となるべき人材が見つかるんでしょうか」
「奇遇だな。俺も同じ懸念を抱いていたところだ」
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