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プロローグ
第2話
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パリ―ン!
リュウガの魂は、くだけ散り、跡形もなく消えてしまった。
「ほら、安心して。わたしの必殺技で、リュウガの魂を完全に消し去ったから。もう、咲也くんは解放されたの。リュウトになることは二度とないから……」
わたしがほほ笑んでも、咲也くんは表情をゆるめない。
「いや、ボクの罪は決して許されるものじゃないよ。どうせなら、ボクの体ごと消し飛ばしてほしかった……」
吐きすてるように言って、顔をそむける咲也くん。
「咲也くん。アイカの力は、人を傷つけるためのものじゃないよ」
思わず腹が立った。
ヤケになる気持ちもわかるけれど、そんな言葉は聞きたくなかった。
「……そうだったね」
ため息まじりに声をもらすと、咲也くんは言葉をつづけた。
「ならば……頼みがあるんだ」
「なに? 言ってみて」
咲也くんは、わたしを見つめた。
その瞳に、悲しい色がにじんでいる。
「アイカの力で、ボクの記憶を消してほしい」
「そんなこと!」
「おねがいだ。アイカならできるはず。犯した罪を後悔しながら生きるには、これから先、あまりに長すぎるよ……。傷つけるのが無理なら、せめて……」
咲也くんの切実なねがいに、胸がしめつけられる。
「ごめん。それはできないよ」
「どうして……だよ……」
咲也くんの顔がゆがむ。
「えっと……魔力をぜんぶ使いきっちゃったんだよね」
わたしは、魔法のステッキを咲也くんに見せた。
花の女神さまから託された、大切なもの。
光の魔石が埋めこまれていて、虹色にかがやき、わたしを魔法少女に変身させてくれた。
魔石にこめられた魔力を少しずつ使いながら、魔法少女アイカとして、魔神リュウト率いる魔界軍と戦ってきたんだ。
だけど――。
リュウトを倒すときの必殺技で、すべての魔力を使いきってしまった。魔石にはヒビが入り、ステッキの色はくすんでしまっている。
「だからさ、わたしももう、アイカに変身できないの。おたがい、フツーの女の子と男の子に戻ったってワケ」
わたしが苦笑いして頬をかくと。
「…………ボクは、フツーの生活には戻れない。そんなこと……許されない」
咲也くんはうめくように言って、目を閉じた。
わたしは咲也くんに顔を近づけて、語りかける。
「咲也くん。自分のやったことを許せない気持ち、わかるよ。ゆっくりでいい。しっかり目をひらいて、前を向いて歩いていこうよ。罪の意識があるなら、この開花町のためになにができるか、考えてほしい。わたしもいっしょに考えるから」
ハッとしたように目をひらいた咲也くんと、視線がぶつかる。
「不思議な人……だね」
ぽつりと、咲也くんが言った。
「不思議? そう? ポジティブなことが、わたしの取り柄だもん。あんまり深く考えてないだけかもしれないけど……」
どちらからともなく、クスッとして、笑いあった。
そして――。
「残念だけど、ボクは開花町のためには、なにもできそうにない」
「えっ、どうして?」
「父さんの、ボクの本当の父さんの仕事の都合でね、神戸に引っ越すことになってるんだ」
「そうなんだ……」
「一千花さんに言われたこと、しっかり考えるよ。神戸に……行っても……」
咲也くんは意識を失ってしまった。
えっ!? どうしよう!?
「咲也くん! 咲也くんっ!」
あわててさけぶわたし。
「一千花! だいじょうぶよ、気がゆるんで眠っているだけ」
そう言って、わたしの肩に乗ってきたのは、花の妖精・ブルームスだ。
白い毛に、ピンク色の毛がまじった猫の姿――。人間の言葉をしゃべって、自由に空中を飛びまわることもできる。わたしよりずっと頭もいいし、頼れる相棒なんだ。
「ホント!? よかったあ」
わたしはホッと胸をなでおろした。
ブルームスが、わたしの頭をぽんぽんしてくれて。
「一千花。ようやく終わったね。おつかれさま……」
「ありがとう、ブルームス! わたし、この町を守りきったよー!」
うれしくなって、ぎゅうっとブルームスを抱きしめる。
「い、一千花ってば、くるしいよ~」
「あっ、ゴメン!」
力をゆるめて、ハッと気づいた。
「ブルームス、帰っちゃうの? ブルームガーデンに……」
ブルームガーデンからやってきたブルームス。魔神リュウトとの戦いが終わったら、帰ることになっていたんだ。
「それがその……アタイもそのつもりでいたんだけど……帰れなくなっちゃった」
「えっ……?」
「一千花がアイカに変身して、魔法でゲートをひらく必要があるんだけど、光の魔石の魔力を使いきったでしょ。もう変身できないし……」
「そんな! ……あっ、ブルームガーデンからお迎えとかは?」
ブルームスの表情がくもる。
「魔法のステッキが、ただの棒になっちゃったもの。ブルームガーデンとのつながりが切れちゃった」
わたしは、がっくりと肩を落とした。
「ごめん、ブルームス。わたし……わたし……」
「いいのよ、一千花。残っていた魔力を使いきらなければ、リュウトには勝てなかったわ。それに、一千花とお別れしなくてもいいんだもん。アタイはうれしい!」
「わたしもうれしいよ。でも……」
ブルームスは、愛する家族が待っている故郷に帰れなくなっちゃった。
そう思ったら、悲しくて、くやしくて……。
わたしの頬を、つーっと涙がつたう。
「一千花、泣かないでよ」
やさしい声とともに、ブルームスの前足が、わたしの頬にそえられた。
肉球がひんやりと冷たいけれど、心地いい。
「ブルームス……」
この日、一年にもわたる、魔神リュウト率いる魔界軍との戦いが終わった――。
開花町を守れてよかった、とホッとしたキモチ。
これから先、咲也くんが「罪悪感に苦しめられませんように」という祈り。
そして、これからもブルームスといっしょにいられるという喜びと、ブルームスが故郷に帰れなくなったことへの悲しみ。
いろんな感情がごちゃまぜになって、わたしは泣きつづけたんだ。
リュウガの魂は、くだけ散り、跡形もなく消えてしまった。
「ほら、安心して。わたしの必殺技で、リュウガの魂を完全に消し去ったから。もう、咲也くんは解放されたの。リュウトになることは二度とないから……」
わたしがほほ笑んでも、咲也くんは表情をゆるめない。
「いや、ボクの罪は決して許されるものじゃないよ。どうせなら、ボクの体ごと消し飛ばしてほしかった……」
吐きすてるように言って、顔をそむける咲也くん。
「咲也くん。アイカの力は、人を傷つけるためのものじゃないよ」
思わず腹が立った。
ヤケになる気持ちもわかるけれど、そんな言葉は聞きたくなかった。
「……そうだったね」
ため息まじりに声をもらすと、咲也くんは言葉をつづけた。
「ならば……頼みがあるんだ」
「なに? 言ってみて」
咲也くんは、わたしを見つめた。
その瞳に、悲しい色がにじんでいる。
「アイカの力で、ボクの記憶を消してほしい」
「そんなこと!」
「おねがいだ。アイカならできるはず。犯した罪を後悔しながら生きるには、これから先、あまりに長すぎるよ……。傷つけるのが無理なら、せめて……」
咲也くんの切実なねがいに、胸がしめつけられる。
「ごめん。それはできないよ」
「どうして……だよ……」
咲也くんの顔がゆがむ。
「えっと……魔力をぜんぶ使いきっちゃったんだよね」
わたしは、魔法のステッキを咲也くんに見せた。
花の女神さまから託された、大切なもの。
光の魔石が埋めこまれていて、虹色にかがやき、わたしを魔法少女に変身させてくれた。
魔石にこめられた魔力を少しずつ使いながら、魔法少女アイカとして、魔神リュウト率いる魔界軍と戦ってきたんだ。
だけど――。
リュウトを倒すときの必殺技で、すべての魔力を使いきってしまった。魔石にはヒビが入り、ステッキの色はくすんでしまっている。
「だからさ、わたしももう、アイカに変身できないの。おたがい、フツーの女の子と男の子に戻ったってワケ」
わたしが苦笑いして頬をかくと。
「…………ボクは、フツーの生活には戻れない。そんなこと……許されない」
咲也くんはうめくように言って、目を閉じた。
わたしは咲也くんに顔を近づけて、語りかける。
「咲也くん。自分のやったことを許せない気持ち、わかるよ。ゆっくりでいい。しっかり目をひらいて、前を向いて歩いていこうよ。罪の意識があるなら、この開花町のためになにができるか、考えてほしい。わたしもいっしょに考えるから」
ハッとしたように目をひらいた咲也くんと、視線がぶつかる。
「不思議な人……だね」
ぽつりと、咲也くんが言った。
「不思議? そう? ポジティブなことが、わたしの取り柄だもん。あんまり深く考えてないだけかもしれないけど……」
どちらからともなく、クスッとして、笑いあった。
そして――。
「残念だけど、ボクは開花町のためには、なにもできそうにない」
「えっ、どうして?」
「父さんの、ボクの本当の父さんの仕事の都合でね、神戸に引っ越すことになってるんだ」
「そうなんだ……」
「一千花さんに言われたこと、しっかり考えるよ。神戸に……行っても……」
咲也くんは意識を失ってしまった。
えっ!? どうしよう!?
「咲也くん! 咲也くんっ!」
あわててさけぶわたし。
「一千花! だいじょうぶよ、気がゆるんで眠っているだけ」
そう言って、わたしの肩に乗ってきたのは、花の妖精・ブルームスだ。
白い毛に、ピンク色の毛がまじった猫の姿――。人間の言葉をしゃべって、自由に空中を飛びまわることもできる。わたしよりずっと頭もいいし、頼れる相棒なんだ。
「ホント!? よかったあ」
わたしはホッと胸をなでおろした。
ブルームスが、わたしの頭をぽんぽんしてくれて。
「一千花。ようやく終わったね。おつかれさま……」
「ありがとう、ブルームス! わたし、この町を守りきったよー!」
うれしくなって、ぎゅうっとブルームスを抱きしめる。
「い、一千花ってば、くるしいよ~」
「あっ、ゴメン!」
力をゆるめて、ハッと気づいた。
「ブルームス、帰っちゃうの? ブルームガーデンに……」
ブルームガーデンからやってきたブルームス。魔神リュウトとの戦いが終わったら、帰ることになっていたんだ。
「それがその……アタイもそのつもりでいたんだけど……帰れなくなっちゃった」
「えっ……?」
「一千花がアイカに変身して、魔法でゲートをひらく必要があるんだけど、光の魔石の魔力を使いきったでしょ。もう変身できないし……」
「そんな! ……あっ、ブルームガーデンからお迎えとかは?」
ブルームスの表情がくもる。
「魔法のステッキが、ただの棒になっちゃったもの。ブルームガーデンとのつながりが切れちゃった」
わたしは、がっくりと肩を落とした。
「ごめん、ブルームス。わたし……わたし……」
「いいのよ、一千花。残っていた魔力を使いきらなければ、リュウトには勝てなかったわ。それに、一千花とお別れしなくてもいいんだもん。アタイはうれしい!」
「わたしもうれしいよ。でも……」
ブルームスは、愛する家族が待っている故郷に帰れなくなっちゃった。
そう思ったら、悲しくて、くやしくて……。
わたしの頬を、つーっと涙がつたう。
「一千花、泣かないでよ」
やさしい声とともに、ブルームスの前足が、わたしの頬にそえられた。
肉球がひんやりと冷たいけれど、心地いい。
「ブルームス……」
この日、一年にもわたる、魔神リュウト率いる魔界軍との戦いが終わった――。
開花町を守れてよかった、とホッとしたキモチ。
これから先、咲也くんが「罪悪感に苦しめられませんように」という祈り。
そして、これからもブルームスといっしょにいられるという喜びと、ブルームスが故郷に帰れなくなったことへの悲しみ。
いろんな感情がごちゃまぜになって、わたしは泣きつづけたんだ。
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