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2 出会いの春です
第5話
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開花中学校の校門には、立派な桜の木がある。
あたたかい春の風が吹くたびに、うすいピンクの花びらが雪のように舞いおりてくる。
「う~ん、やっぱり桜はいいなあ」
心のなかでつぶやいて、桜吹雪に目を細める。
手を広げると、花びらが手のひらにのってきた。
きれいだけど、なんだか切ない気分にもさせてくれる。和の心というか、そんな二面性がみんなに愛される秘密かな。
「一千花!」
掲示板のところにできた人だかりから、わたしのほうへ女の子がかけてくる。
親友の望月里桜だ。
名前に「桜」が入っているというのに、桜吹雪には無頓着な様子で、興奮気味にわたしに抱きついてきた。
「あたしたち、また同じクラスになれたよ! 二年B組!」
「ホント!? やったあ!」
里桜とは小学校からの仲で、バスケ部も里桜に誘われたから入ったようなものだ。
ふたりではしゃいだけど、万理花に言われたことをふと思いだした。
「あっ、そういえば、本屋さんで万理花に会ったんだって?」
じとーっと、里桜を見つめてたずねる。
「えっ? ああ、うん」
目を泳がせる里桜。
「ずいぶんと余計なことを話してくれちゃったみたいだけど……」
「あはは。『お姉ちゃん、バスケ部でどんな感じ?』って聞かれちゃったからさ~」
「アンタねえ。ペラペラと……」
怒りのヘッドロックをかけようと思ったら。
「おはようございます!」
里桜は声を張りあげて、わたしの肩越しにあいさつした。
「ああ、おはよう」
ふり返ると、女子バスケ部のキャプテンで、今日から三年生の椿亜美センパイが足を止めたところだった。
「あっ……椿センパイ! おはようございます!」
あわてて頭を下げるわたし。
「おはよう」
そっけなく返すと、椿センパイはじっとわたしを見つめた。
ボーイッシュでよく日に焼けていて、スラリと背が高く、凛々しい顔立ち。女子に人気の高い先輩だ。
全身に緊張が走る。
「あのさ、愛葉……」
「は、はい!?」
「アンタがバスケ部と園芸部の掛けもちしてるのは清水先生が許可してるし、私がどうこう言うことではないけど……」
「はい……」
「いや、ヤッパいいや」
軽く手をあげると、椿センパイはぷいっと行ってしまった。
「はあ~~~~」
全身から力がぬけて、大きく息をついた。
「こ、こわかったぁ」
泣きそうになっていると、里桜が、肩にポンと手をのせてきた。
「椿センパイ、相当怒ってるね。ご愁傷さまです」
「やっぱり怒ってるよね。どうしよう~?」
里桜にすがりつくわたし。
「どうしようって、ハッキリさせるしかないんじゃない? バスケ部か、園芸部か」
「やっぱり? うちの学校、掛けもちは認められてるのに~」
「それはそうだけど、バスケ部はホラ、バスケに命かけてる人が多いしさ……」
苦笑いを浮かべる里桜。
わかってはいたんだ。このままじゃいけないって。
うちの女子バスケ部は地区大会でも無敵の強豪。わたしみたいな運動オンチがついていける部活じゃなかった。
里桜はわたしとちがって、めきめきと上達していって、二年生になればレギュラー確実と言われるようになった。
それにひきかえ、わたしは……。
やめようかどうしようか悩んでるとき、園芸部顧問の植草先生に誘われたんだ。「掛けもちでやってみれば?」って。バスケ部顧問の厳しい清水先生もなぜか許可してくれて。
気が向いたときだけバスケ部に顔を出すという中途ハンパな状況がつづいたけれど、わたしがいなくても特に困ることはないようで、怒る先輩もいなかったんだ。
それに甘えて、ズルズルと結論を引きのばしてきたけれど、もう決めなくちゃね。
◆
体育館で始業式が行われたあと、新入生が入場してきて、そのまま入学式に突入した。
真新しい学ランとセーラー服に身をつつみ、緊張した面持ちの新入生たち。
去年の自分たちを思いだして、思わずくすりとした。
そういえば――。
乙黒咲也くんも、この四月から中学生だよね。
あの戦いのあとすぐ、咲也くんは本当に、神戸に引っ越してしまったんだよね。
今、どうしてるんだろう? 元気かな?
ああ、それよりも、部活をどうしようか? 本当にバスケ部をやめる?
途中でやめちゃうのは逃げるみたいで、なんだかカッコ悪い。
だけど、続けるのも無理がある。
自分で決めなくちゃいけないのはわかってる。
ブルームスに相談したけど、「自分で決めなさい」って言われちゃったしなぁ。
魔法少女アイカをやってたころは、大事なことをちゃんと自分で決断して行動していたように思う。
でも、今のわたしは……。
なんでこんなダメダメな子になっちゃったんだろ。
あたたかい春の風が吹くたびに、うすいピンクの花びらが雪のように舞いおりてくる。
「う~ん、やっぱり桜はいいなあ」
心のなかでつぶやいて、桜吹雪に目を細める。
手を広げると、花びらが手のひらにのってきた。
きれいだけど、なんだか切ない気分にもさせてくれる。和の心というか、そんな二面性がみんなに愛される秘密かな。
「一千花!」
掲示板のところにできた人だかりから、わたしのほうへ女の子がかけてくる。
親友の望月里桜だ。
名前に「桜」が入っているというのに、桜吹雪には無頓着な様子で、興奮気味にわたしに抱きついてきた。
「あたしたち、また同じクラスになれたよ! 二年B組!」
「ホント!? やったあ!」
里桜とは小学校からの仲で、バスケ部も里桜に誘われたから入ったようなものだ。
ふたりではしゃいだけど、万理花に言われたことをふと思いだした。
「あっ、そういえば、本屋さんで万理花に会ったんだって?」
じとーっと、里桜を見つめてたずねる。
「えっ? ああ、うん」
目を泳がせる里桜。
「ずいぶんと余計なことを話してくれちゃったみたいだけど……」
「あはは。『お姉ちゃん、バスケ部でどんな感じ?』って聞かれちゃったからさ~」
「アンタねえ。ペラペラと……」
怒りのヘッドロックをかけようと思ったら。
「おはようございます!」
里桜は声を張りあげて、わたしの肩越しにあいさつした。
「ああ、おはよう」
ふり返ると、女子バスケ部のキャプテンで、今日から三年生の椿亜美センパイが足を止めたところだった。
「あっ……椿センパイ! おはようございます!」
あわてて頭を下げるわたし。
「おはよう」
そっけなく返すと、椿センパイはじっとわたしを見つめた。
ボーイッシュでよく日に焼けていて、スラリと背が高く、凛々しい顔立ち。女子に人気の高い先輩だ。
全身に緊張が走る。
「あのさ、愛葉……」
「は、はい!?」
「アンタがバスケ部と園芸部の掛けもちしてるのは清水先生が許可してるし、私がどうこう言うことではないけど……」
「はい……」
「いや、ヤッパいいや」
軽く手をあげると、椿センパイはぷいっと行ってしまった。
「はあ~~~~」
全身から力がぬけて、大きく息をついた。
「こ、こわかったぁ」
泣きそうになっていると、里桜が、肩にポンと手をのせてきた。
「椿センパイ、相当怒ってるね。ご愁傷さまです」
「やっぱり怒ってるよね。どうしよう~?」
里桜にすがりつくわたし。
「どうしようって、ハッキリさせるしかないんじゃない? バスケ部か、園芸部か」
「やっぱり? うちの学校、掛けもちは認められてるのに~」
「それはそうだけど、バスケ部はホラ、バスケに命かけてる人が多いしさ……」
苦笑いを浮かべる里桜。
わかってはいたんだ。このままじゃいけないって。
うちの女子バスケ部は地区大会でも無敵の強豪。わたしみたいな運動オンチがついていける部活じゃなかった。
里桜はわたしとちがって、めきめきと上達していって、二年生になればレギュラー確実と言われるようになった。
それにひきかえ、わたしは……。
やめようかどうしようか悩んでるとき、園芸部顧問の植草先生に誘われたんだ。「掛けもちでやってみれば?」って。バスケ部顧問の厳しい清水先生もなぜか許可してくれて。
気が向いたときだけバスケ部に顔を出すという中途ハンパな状況がつづいたけれど、わたしがいなくても特に困ることはないようで、怒る先輩もいなかったんだ。
それに甘えて、ズルズルと結論を引きのばしてきたけれど、もう決めなくちゃね。
◆
体育館で始業式が行われたあと、新入生が入場してきて、そのまま入学式に突入した。
真新しい学ランとセーラー服に身をつつみ、緊張した面持ちの新入生たち。
去年の自分たちを思いだして、思わずくすりとした。
そういえば――。
乙黒咲也くんも、この四月から中学生だよね。
あの戦いのあとすぐ、咲也くんは本当に、神戸に引っ越してしまったんだよね。
今、どうしてるんだろう? 元気かな?
ああ、それよりも、部活をどうしようか? 本当にバスケ部をやめる?
途中でやめちゃうのは逃げるみたいで、なんだかカッコ悪い。
だけど、続けるのも無理がある。
自分で決めなくちゃいけないのはわかってる。
ブルームスに相談したけど、「自分で決めなさい」って言われちゃったしなぁ。
魔法少女アイカをやってたころは、大事なことをちゃんと自分で決断して行動していたように思う。
でも、今のわたしは……。
なんでこんなダメダメな子になっちゃったんだろ。
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