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8 フラワーロードの戦い

第27話

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 あれよあれよと時間は過ぎて。
 ゴールデンウィークに突入して、三日目の朝。
 駅前の開花商店街に、制服姿の園芸部員が集合していた。
 少し遅れてやってきたのは――。

「一千花! やっほー!」
「里桜! 来てくれたの!?」
「バスケ部の練習、休みになったからさ」
「いいの? 貴重な休みに?」
「いいよ、いいよ。予定なんてないもん」

 飛び入りで、里桜が助っ人として来てくれた!

「蓮! 来てやったぞ! てか、おい赤松あかまつ、寝るなよ」
「ふぁー、ねみぃ」
「おう、おまえら、ご苦労!」

 腕組みしながら、蓮くんが迎えたのは、ふたりの男の子。
 クラブガイダンスにも遊びにきてた、蓮くんの友だちだ。
 ふたりとも水泳部で、歩きながら寝そうになってたのが赤松センパイ、もうひとりが高梨たかなしセンパイだって、あとから知った。


「よーし、これで全員かな?」

 植草先生が、みんなを見まわす。

「今日は、部員以外にも助っ人で来てもらってる。すごく助かるよ。ありがとう」

 うれしそうな植草先生は、にこやかにお礼を言うと、作業について説明をはじめた。

「町の緑化運動の一環で、商店街をフラワーロードにするのが最終目標だ。すでにプランタ―を設置してあるし、苗も用意してある。えーと、ジニア、ペンタス、キンレンカ、ベゴニア、ロベリアかな。ぜんぶプランタ―に植えてくれ。商店街のみなさんと協力してやるように」
「はい!」

 みんなで元気よく返事する。
 小百合センパイが班分けをして、班ごとに作業を進めていった。
 わたしは、里桜と同じ班だよ。
 あと、咲也くんもいっしょだ。
 これについては、小百合センパイのはからいがあったと思われ……。

「愛葉センパイ、このプランタ―はキンレンカでよかったですか?」
「あ、うん。だいじょうぶ」

 咲也くんは、控えめで、すなおな後輩モードだ。ふたりっきりのときと、態度がまったくちがう。
 だんだんと、そのギャップが楽しくなってきちゃった。


 それにしても、今日は快晴で、だんだんと日差しが強くなってきた。
 気温もぐんぐん上昇してる。
 まるで、真夏の予告編みたい。

「一千花ちゃん」

 作業の合間に、声をかけられた。

「あっ、おばさん!」

 商店街の一角にある、アジサイ書店のおばさんだった。

 かたわらには、おじさんもいて、
「やあ、一千花ちゃん。ご苦労さま」
 とねぎらってくれた。

 アジサイ書店は、わたしが小さなころからよく漫画を買いに行っている本屋さん。このご夫婦が経営しているんだ。すっかり顔なじみなの。

「暑いでしょ。これ飲んで」

 ご夫婦は、班のみんなに、冷え冷えのスポーツドリンクのペットボトルを差しいれしてくれた。
 わあっ! うれしい!
 みんなでお礼を言って、休憩することにした。

「お花でいっぱいになれば、ここも少しは明るくなるかねぇ」

 おばさんに言われて、あらためて商店街を見わたしてみる。
 シャッター商店街なんて表現があるけれど、それに近づいているのを感じる。

 ここ数年、閉店がつづいていて、新しく入るお店もなく、シャッターがやたら目立つような……。わたしが小さかったころを思えば、さびれてしまった感はいなめない。
 駅ビルが改装されて立派になったのと、駅から少し歩いたところに、ショッピングモールができてしまったことと、無関係とは思えない。

 そういった、便利でオシャレな施設でお買いものするのも好きだけど、この商店街には思い出がたくさんあるし、なくなってしまうのはイヤだ。
 さびしそうな表情のおばさんに、元気を出してほしくて。

「うん! フラワーロードになれば、活気がでてくるよ、きっと! 園芸部が全面協力しちゃうからね!」

 わたしが明るく言うと、咲也くんも味方してくれて。

「雰囲気は大事ですからね。花のもつ力は絶大ですよ。おれも園芸部員として、がんばりますから」

 おばさんは、うれしそうにアハハッと豪快に笑った。

「若い子たちがそう言ってくれるなら、もうひとがんばりしようかね」

 わたしは咲也くんと顔を見あわせ、たがいに、にっこりした。


「乙黒くん?」


 声がして、ふりむくと、かわいらしい女の子が立っていた。
 キャップをかぶり、派手なロゴの入ったTシャツに、デニムのGジャン。下は、淡いイエローのショートパンツに、真っ赤なスニーカーを合わせている。
 いわゆるスポーツカジュアルがキマっている、オシャレな女の子。
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