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10 恋の開花宣言

第33話

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 開花パークに着くと、その人の少なさにびっくりした。
 バスが空いていたから予想ついたとはいえ、祝日だし、もっと混んでるかと思った。

「昔はもっとにぎわってたのになぁ」

 ため息をつくわたしに、咲也くんが言った。

「みんな、遊園地とかテーマパークに行っちゃうのかもね」

 うーん。ここはお花でいっぱいだし、芝生でお弁当も食べられるし、なにより入園料が無料なのに。
 まあ、わたしもひさしぶりに来たんだけどね。

「でもさ、一千花センパイとゆっくり見てまわれるから、おれとしてはうれしいけど」

 ニコッとして、わたしの手をぎゅっと握りなおす咲也くん。

「行こうか」
「うん」

 クールな咲也くんがふいに見せる笑顔にドキッとしたり、握っている手のぬくもりに安心したり……。
 でも、ブルームスに出された恋愛禁止令が、心にストップをかけてしまうんだ。


     ◆


 最初のエリアは、色とりどりのチューリップが咲きほこっていた。

「とってもきれいね!」

 シンプルな一重咲きはもちろん、花びらが広がって咲いている八重咲きもある。

「わあっ! アンジェリケだ!」

 テンションの上がるわたし。
 淡いピンク色の花びらをバラのように広げているのが、チューリップ・アンジェリケ。
 咲也くんも興味津々しんしんで。

「これもチューリップなの?」
「うん、天使の羽みたいでかわいいよね」

 わたしはスマホを取りだして、パシャパシャ撮りはじめた。

 アングルにったりして、夢中で撮影していると、咲也くんが苦笑いして、
「チューリップもいいけどさ、一千花センパイを撮ってあげるよ」
 って言って、チューリップを背景に、わたしを撮ってくれた。

 そして――。

「おつぎは、ツーショットね」

 咲也くんに肩を抱きよせられ、自撮りのスマホに向かってスマイル!
 画像を確認したら、わたし、緊張で顔が引きつってるよ……。

 わたしはあらためて、あたりを見まわした。

「――それにしても、ここ本当に広いよね。うちの学校もこれくらい広かったら、もっと花壇を増やせるのに……」
「いやいや、園芸部だけじゃ管理できないでしょ。今でも手一杯じゃん」

 すぐさま咲也くんにつっこまれて、がっくりと肩を落とすわたし。

「ダメかあ」
「でも……この開花パークのスペースを借りて、うちの園芸部でなにか木を育てるとか、そういう計画があるらしいよ」
「ホント!?」

 うれしい情報に、声が弾む。

「御堂センパイに聞いたんだけどね。まだ決定じゃないと思うけど……」

 実現してほしいなぁ。
 期待に胸をふくらませていると――。


 ――ぐぅうううううううう。


 わたしのおなかが、爆音を響かせた。
 まだお昼食べてなかったし、おなかペコペコなんだ。
 咲也くんに聞かれたかな!?
 はずかしくなって、ごまかすようにせきばらいしたけど、咲也くんはなにも言わない。
 よかった、気づかれてない!
 すると、咲也くんはぽつりと言ったの。

「花より団子かぁ」

 わたしは、握っていた手をはなすと、無言で咲也くんの腕をぎゅうっとつねった。

「いってぇ!」

 飛びあがる咲也くん。
 フンだ、もう知らないっ!

「ごめん! 冗談だって!」

 咲也くんは腕をさすりながら、平謝り。
 だけど、わたしはツーンとそっぽを向いたまま。
 乙女をからかうなんて許せない。

「おっ、あそこに売店あるじゃん。なんかおごるから許してよ」

 おごるから――に耳がぴくりと反応して、わたしは機嫌をなおした。

「ホント!?」
「もちろん」

 わたしたちは足を売店へと向けた。

「もうとっくにお昼すぎてるもんな。ごめんよ、気づかなかった」
「咲也くんは、おなかすいてないの?」
「一千花センパイとデートできてるんだぜ? 興奮して、おなかいっぱいだよ」
「~~~~っ」

 また、胸がキュンとした。
 キザな台詞なのに、咲也くんが言うと、そう感じさせない。
 すなおに、スッと胸に入ってきて、心をゆさぶってくるんだ。


     ◆


 売店で買ったものを、飲食スペースの丸テーブルにならべた。
 焼きそば、たこ焼き、フランクフルト――ぜんぶ二人前。

「ホントにいいの? わたしも出すよ」

 財布を出そうとしたら、すぐ咲也くんに止められた。

「おれが誘ったんだから、これくらいさせてよ」
「あ、ありがと……」

 いただきますして、わたしたちは焼きそばから食べはじめた。
 食欲を解放して、夢中で食べる! 食べる! 食べる!
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