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16 光と闇

第49話

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「「咲也くん!」」

 わたしとブルームスは、同時にさけんだ。

「ま……魔神リュウト!? なぜここにいる――――っ!?」

 きょうがくするテュポーン。

「その呼び名はとっくに捨てた。おれは、乙黒咲也だ。忘れるんじゃねーぞ」

 にやりとする咲也くん。
 約束通り、咲也くんが助けにきてくれたんだ!

「バ……バカな……。ここは地中深くの闇空間。フツーの人間に入ってこられるはずはないっ!」

 うろたえるテュポーンを、鼻で笑う咲也くん。

「おれはフツーの人間には戻れなかった。この魔眼があるからだ」

 咲也くんは、紫色の光をはなっている左目を指さして、
「力が日増しに強くなってる。一千花センパイを守るためには力が必要で、その求めに、魔眼が応えてくれている」
 と言いはなった。

「魔石もなしに……? 魔力を感じとるくらいしかできないはずだ!」

 テュポーンがさけぶと、咲也くんは言葉をつづけた。

「おれは、北海道で魔女に会った」
「魔女だと!?」

 ――え? 魔女って言ったの、咲也くん?

「テュポーンよ、おまえも知ってるだろ? 魔界軍から離れて、のんびり地上で暮らしてる魔物がいることは……。人間の女の人が、魔物と契約して、魔女になるケースがある。旅先の北海道で、おれは魔女に会った。魔眼が引きあわせてくれたんだろうな」

 そこまで言って、咲也くんは肩をすくめた。

「魔女といっても、悪い人じゃないぜ? 魔物からもらった闇の魔石をつかって、若返りの薬をつくってる人だった。その魔女が教えてくれたのさ。魔眼の力を強くする方法を。それから――」

 咲也くんは、わたしのほうを指さした。

「一千花センパイにあげたネックストラップに、【身の安全を守る】おまじないをかけてもらった」
「おまじない……?」

 きょとんとするわたしに、やさしくほほ笑む咲也くん。

「おれは、一千花センパイを守る印をつけたし、魔力のこもったストラップもある。それに……一千花センパイの匂いだって覚えてる」

 あっ、おでこにキスと、ローズマリーのシャンプー……。

「それだけあれば、この魔眼が一千花センパイを見失うことはないんだ。どこに連れていかれても、魔眼が導いてくれる」
「そんなバカなっ!」

 テュポーンは絶叫して、舌をにゅーっと伸ばして、わたしの首に突きつけた。
 舌先が、針みたいになってるっ!

「こっちには人質がいることを忘れるなよ、乙黒! 魔眼があっても、おまえの体は人間だ! 魔物にふれることは不可能だ!」

 おぞましい笑い声が、闇空間に響いた。

 すると――。
 あきれたように、ふぅと息を吐く咲也くん。

「おれの魔眼をナメるなよ。おまえはもう、一歩も動けない。声も出せない。その汚い舌も、一ミリだって動かせないぞ」

 魔眼の光が強くなったかと思うと、咲也くんの胸から、半透明の腕が出てきたっ!
 その腕は、みるみる伸びていって、テュポーンの舌をつかみ、ポキリと折ってしまった。
 それでもテュポーンは動かないし、声をあげることもなかった。
 本当に、魔眼で石みたいにされちゃったんだ!

 半透明の腕はさらに、テュポーンの胸をパンチして、中に手をつっこんだ。

「【魔神の見えざる手】とでも名づけようかな。魔物にだってふれることのできる手さ」

 咲也くんが言うと、テュポーンから引きぬかれた手には、黒い石が握られていた。
 テュポーンの核――闇の魔石だ!

「これをとられると、肉体は滅びるだけだ」

 まさにその通りで、テュポーンの体は、黒い霧となって散った。
 同時に、ブルームスをとらえていたカゴが消えて、わたしをはりつけにしていた十字架も消えたんだ。

「きゃあ!」

 落ちていくわたし。
 地面にたたきつけられるっ! と思ったら。

「おっと!」

 咲也くんが、がっちりと抱きとめてくれた。
 これって……まさかの……お姫さまっこ!?

「やあ、一千花センパイ。いや、お姫さま。ナイトが助けに参りました」

 おどけたように言う咲也くん。

「咲也くん……ホントに……助けにきてくれたんだね……」
「あったりまえだろ? 一千花センパイは、おれの大切な人なんだからさ」
「ありがとう……」

 安心したのと、うれしいのとで、じんわりと涙が出てきて、視界がにじむ。

「一千花ーっ!」

 ブルームスが飛びついてきた。

「ブルームス! わたしたち、助かったよーっ」

 抱きあうわたしたち。

 わたしをそっと下ろした咲也くんは、蓮くんにかけよって、ひざまずき、
「御堂センパイはだいじょうぶ。気を失ってるだけだよ」
 と、ホッとしたように言った。

 よかったぁ。
 蓮くんを巻きこんでしまったのが、心苦しい。
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