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第2章 君のことは俺が守る

第11話

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「――ところで、部活は吹奏楽部に来てくれるんだろ? 前の学校でやってたって? 担当は?」

 宮島くんはメガネをクイッと押し上げ、前のめりになってきいた。黒江くんが涼しい顔で答える。

「一応、クラリネットだけど」
「歓迎するよ。クラリネットは人数が足りてない。さらに言うと、女子ばっかりで肩身がせまいから男子は大歓迎だ!」
「はあ……」
「放課後、音楽室に行こう。みんなに紹介するよ」
「いや、待ってくれ。まだ入部するかどうかは決めてないよ」
「はへっ!?」

 宮島くんはズッコケて、裏返った声を出した。メガネもズレてるし。
 わたしは吹き出しそうになるのをこらえ、にやける口元を手でかくした。

「ええっ! 吹奏楽部に来てくれるんじゃないの!?」

 この世の終わりみたいな顔をしている宮島くん。男子が入ってくれると、期待してたんだろうなぁ。
 でも意外だな。黒江くん、自己紹介のとき、「吹奏楽を続けるつもり」って言ってたような……?
 宮島くんも同じことを思ったみたいで、必死に食い下がった。

「あの自己紹介はなんだったんだよぉ。続けるつもりって言ってたじゃん!」

 頭をかきむしる宮島くんの肩をぽんぽんとたたいて、山川さんがなだめる。

「まあまあ、気が変わっちゃうことだってあるよ。運動部のほうがよくなったんでしょ? 黒江くん、背が高いし……」
「そうそう! バスケ部に入ってよ! ウチの男子弱いからさ、黒江くんみたいにタッパのある子は即戦力!」
「いや、それなら、ぜひ柔道部に来てくれよ!」
「陸上部がいいよ、黒江くん!」

 うわぁ。いきなり勧誘合戦がはじまった。黒江くん、すごい人気!
 だけど、当の黒江くんは落ち着いたもので、手で制した。

「ごめん。そう一気に言われても困っちゃうよ」

 わたしは本を読んでいるふりをして、隣をチラチラ見ていたのだけれど、ふいに黒江くんがわたしのほうを見た。あわてて本に視線を戻すと――。

「赤木さん」
「は、はい……」

 本から目を離して、黒江くんのほうを見た。
 相変わらずクールな眼差しでわたしを見つめている。
 黒江くんを囲んでいる人たちの視線もわたしに向いたから、余計にドキドキするよ! クラスのみんなの前で、黒江くんと会話するのははじめてだ。

「君は、どこの部に入ってるの?」
「……文芸部だよ」

 わたしが答えると、宮島くんは山川さんにきいた。

「どこの部だって?」

 声が小さくてごめんね!

「文芸部だって」
「そんな部、あったっけ?」

 ごめんねパート2! 文芸部は地味な存在! 文化系の部活のなかでも、ダントツで存在感がない。というか、存在することすら知らない人も多いと思う。

「そうか。文芸部……いいね。俺に合ってるかも」

 黒江くんから出た言葉が意外すぎて、思わず自分の耳を疑った。
 しかも黒江くんは、わたしに向かってほほ笑んだの!
 さっきクスッとしてたのより、さらにやさしい表情で、わたしを見ている。
 ドキドキして、顔がカーッとしてきた。
 わたしの顔、真っ赤になってないかな!?

「おいおい、まさか文芸部に入るつもり!?」

 信じられないといったように、また頭をかきむしる宮島くん。
 黒江くんはクールな表情に戻って答えた。

「興味はあるかな」
「…………」

 宮島くんはメガネをクイッと押し上げて、堅い表情になってきいた。

「……あのさ、黒江と赤木って、どういう関係?」

 ドキッとした。
 な、な、なに、その質問はっ!?

「え……?」

 黒江くんがきき返すと、宮島くんはあわてたように手をふった。

「いやっ! 別にからかうつもりはないんだ。ただ……。なあ?」

 宮島くんが山川さんに助け舟を求める。

「ふたりは前から知り合いなの?」

 山川さんは、黒江くんとわたしを交互に見てたずねてきた。

「いや、昨日はじめて会ったよ」

 黒江くんがきっぱり言ったけど、山川さんは納得しなかった。

「赤木さん、ホントなの?」
「う、うん。ホント……」
「そう……」

 今度は黒江くんがたずねた。

「どうしてそんなこと……?」

 苦笑いする宮島くん。

「いや、いきなりスゲェ仲良くなってるから、前から知り合いなんかと思って……。授業中にメモ回してるし」

 あっ、みんなにバレてたんだ。まあ、何回もやりとりしたし、バレて当然か。

「今朝もいっしょにあいさつ運動してたでしょ? なんだか、前からずーっといっしょにいたんじゃない? って感じでしっくりきてたというか……」

 山川さんが真顔ですごいことを言った。そして、宮島くんが続ける。

「決定的なのはさっきのアレだね。赤木のことを守ったし。赤木もケンカにならないよう、黒江のことを必死に止めてたしさ。なんだか昨日はじめて会ったような雰囲気じゃないというか……。だから、前から知り合いだったのかと思ったよ」

 すると、黒江くんは首を横にふった。

「赤木さんは、俺と同じでおとなしいから……。気が合うっていうか、仲良くなれそうっていうか。だから、守るのは当然だよ」

 ドキドキして、鼓動が高鳴る。

 ――守るのは当然。

 こんなイケメンに、みんなの前で言われて、恥ずかしいやら、うれしいやら。
 黒江くんがあまりに自然に、きっぱりと、照れることもなく、カッコいいことを言ったので、みんな感心したようにポーッとなっている。
 そして、わたしの頭のなかに、またあの疑問がうかんできた。

 ――やっぱり、黒江くんとわたし、前に会ったことあるの……?
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