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第一章 リスナー
あたらしい世界
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「あゆちゃんはさぁ、足綺麗なんだねぇ」頭はずいぶんと後退し、鼻頭には脂をてからせたおじさんは、口からは内臓が腐った匂いをまき散らしながら私の膝を、円を描くようにして撫でている。
「そんなことないですよぉ」とこれ以上触り続けないように手を取り、握った。やけに男の手は湿っている。
目の前の男はずっと自分がやっているビジネスがどんなに上手くいっているのかを繰り返し同じ話をし、そして私に胸やお尻や腰や足を好きあらば触ろうとしてくる。
「だからね、僕のビジネスはもうすぐ海外進出するんだよ」
「えーっすごい!あゆ、海外行ったことないからなー。北村さんのこと尊敬しちゃう」
「じゃあ、いずれあゆちゃんをシンガポールの一番いいホテルに連れて行ってあげるよ」男の目頭には大きな目糞が付いている。
「ほんとですかぁ?あのおっきな船がのってるところですよね。あゆ、うれしぃー。北村さんって、本当に男らしいですよね」
「えぇーそうかな。そう思う?」北村さんは品の欠片もなくいやらしく笑った。
「うん。北村さんて、男の中の男って感じしますもん」
「あゆちゃん。どんなお酒飲みたい?」北村さんは気を良くしたのか、鼻穴を膨らませながらお酒をすすめてきた。
「あゆ、ピンクのアルマンド飲みたいなぁ」私は、上目遣いで最大限甘えた声を出した。
「いいよ。あゆちゃんにピンクのアルマンド入れちゃう」
「きゃー。北村さん大好き」私は、少しだけ胸を押し付けるようにして北村さんに抱きついた。
北村さんの人格がどうであろうと、人となりがどうであろうとも、私にとってはお金を落としてくれる太客に違いはない。
再び北村さんの自慢話聞いていると、すぐに黒服がアルマンドを持ってきた。
私がスマホを構えると、ポンっと小気味の良い音共にボトルから炭酸が弾ける音が聞こえる。カクテルグラスお酒が注がれ、私は少しだけ口に含んだ。この数ヶ月で何度も飲んだ味だ。
「あゆちゃん、この後どう?」北村さんはズボンのポケットから煙草を取り出した。
「この後ですかぁー?」私は素早く、ライターを取り出し、火を手で覆うようにして北村さんの口元へ近づける。
「うん。ずっとあゆちゃんといたい」煙が宙に舞う。
「えー、あゆも一緒にいたいんだけどぉー。どうしよう」
「このあと何か用事でもあるの?彼氏?」似合っていない紫のスカーフが目に刺さる。
「彼氏なんていませんよー。北村さんが彼氏みたいな存在ですもん」
「じゃあ、いいじゃん」
「でもぉー」私は黒服に目で合図をした。すると、すばやく私の元に跪き「五番卓へ」と耳打ちした。
「北村さんごめんね。呼ばれたからちょっと行ってくるね」
「えーー。あゆちゃん、行っちゃうの?僕のあゆちゃんにいて欲しいのに」
「すぐに戻ってきますよ」
「本当に?本当にね?」
「はい。ちょっとだけ行ってきますね」だだをこねる男の手を振りほどき、私は立ち上がった。
机の通りを歩きながら、助けてくれた黒服の飯島ちゃんに素早く目を合わせ、小さく顎をひいてありがとうと顔で伝えた。飯島ちゃんの髪の毛は前まではロン毛だったのに、サイドを刈り上げ、トップは整髪料でツンツン頭になっている。飯島ちゃんはこともなげに笑った。
「そんなことないですよぉ」とこれ以上触り続けないように手を取り、握った。やけに男の手は湿っている。
目の前の男はずっと自分がやっているビジネスがどんなに上手くいっているのかを繰り返し同じ話をし、そして私に胸やお尻や腰や足を好きあらば触ろうとしてくる。
「だからね、僕のビジネスはもうすぐ海外進出するんだよ」
「えーっすごい!あゆ、海外行ったことないからなー。北村さんのこと尊敬しちゃう」
「じゃあ、いずれあゆちゃんをシンガポールの一番いいホテルに連れて行ってあげるよ」男の目頭には大きな目糞が付いている。
「ほんとですかぁ?あのおっきな船がのってるところですよね。あゆ、うれしぃー。北村さんって、本当に男らしいですよね」
「えぇーそうかな。そう思う?」北村さんは品の欠片もなくいやらしく笑った。
「うん。北村さんて、男の中の男って感じしますもん」
「あゆちゃん。どんなお酒飲みたい?」北村さんは気を良くしたのか、鼻穴を膨らませながらお酒をすすめてきた。
「あゆ、ピンクのアルマンド飲みたいなぁ」私は、上目遣いで最大限甘えた声を出した。
「いいよ。あゆちゃんにピンクのアルマンド入れちゃう」
「きゃー。北村さん大好き」私は、少しだけ胸を押し付けるようにして北村さんに抱きついた。
北村さんの人格がどうであろうと、人となりがどうであろうとも、私にとってはお金を落としてくれる太客に違いはない。
再び北村さんの自慢話聞いていると、すぐに黒服がアルマンドを持ってきた。
私がスマホを構えると、ポンっと小気味の良い音共にボトルから炭酸が弾ける音が聞こえる。カクテルグラスお酒が注がれ、私は少しだけ口に含んだ。この数ヶ月で何度も飲んだ味だ。
「あゆちゃん、この後どう?」北村さんはズボンのポケットから煙草を取り出した。
「この後ですかぁー?」私は素早く、ライターを取り出し、火を手で覆うようにして北村さんの口元へ近づける。
「うん。ずっとあゆちゃんといたい」煙が宙に舞う。
「えー、あゆも一緒にいたいんだけどぉー。どうしよう」
「このあと何か用事でもあるの?彼氏?」似合っていない紫のスカーフが目に刺さる。
「彼氏なんていませんよー。北村さんが彼氏みたいな存在ですもん」
「じゃあ、いいじゃん」
「でもぉー」私は黒服に目で合図をした。すると、すばやく私の元に跪き「五番卓へ」と耳打ちした。
「北村さんごめんね。呼ばれたからちょっと行ってくるね」
「えーー。あゆちゃん、行っちゃうの?僕のあゆちゃんにいて欲しいのに」
「すぐに戻ってきますよ」
「本当に?本当にね?」
「はい。ちょっとだけ行ってきますね」だだをこねる男の手を振りほどき、私は立ち上がった。
机の通りを歩きながら、助けてくれた黒服の飯島ちゃんに素早く目を合わせ、小さく顎をひいてありがとうと顔で伝えた。飯島ちゃんの髪の毛は前まではロン毛だったのに、サイドを刈り上げ、トップは整髪料でツンツン頭になっている。飯島ちゃんはこともなげに笑った。
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