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第一章 リスナー
怒り
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入店して二週間の女の子が号泣している。
「もう、むりやって。うちはやっぱり駄目なんや」
しゃっくりを上げ、この世の終わりかと思うほど大きな声で涙を流している。
うるさい。
何が駄目なのか分からない。
彼女は頭のいい大学の現役女子大生で、私とは違って将来の道は開けている。普通の幸せをつかむことができる。どんな事情があってここで働いているのか分からないが、それでも美しい将来が彼女にはある。
結婚するかもしれないし、バリバリ働くキャリアウーマンになるかもしれない。嫌ならとっとと辞めればいい。
「いいですよね。あゆさんは。可愛いし、強いし。人生楽しそう」
出来るだけ関わらないようにと端っこでスマホの画面をガン見していた私にそう投げかけた。
「それ本当に言ってる?」人生が楽しいなんて感じたことなどない。それに、こんなに苦しんで生きる私に、それは一番言っちゃいけない言葉だ。
「うちはあゆさんなら、もっと簡単に人生生きられたのに。私、親が学費払ってくれないんですよ。ひどくないですか?皆は学費も生活費も払ってもらって、その上にお小遣いまでもらっているんですよ?ブランドものとかコスメとか洋服買って、休みのたびに友達や彼氏と旅行に行くんです。
それなのに、学費も生活費も払ってくれないから、私は遊ぶ代わりに働くしかないんです。お金がないから、遊びの誘いも断ってばかりいたら、友達もいなくなっちゃいました」女の苦労話が始まった。
「それで、普通の塾講師とかコンビニとかでバイトしたって、全然お金にならないんですよ。全然。私だって、皆みたいにキラキラ輝く大学生活を送りたいんです。人生不平等すぎませんか?それで、私も普通の大学生活送りたいから、お金が簡単に稼げるっていうキャバクラに来たのに全然稼げないのおかしいですよ」
「それで?」怒るのなんて無駄なエネルギーだと分かっているのに湧き上がってくる感情を抑えられない。
「それで、せめて私もあゆさんみたいな顔があったらお金稼げるのになって話ですよ。あゆさんは可愛くていいですよね。ずるいです。月何百万、何千万って稼いでいるんですよね。あさみさんが言ってました。
それだけあれば、余裕で学費払えるし、タワマン住めるし、けちけち節約なんて貧乏くさいことせずに好きなだけ好きなもの買えるじゃないですか。皆が羨ましがるような人生送れるんですよ。
こんなみみっちい貧乏生活から、インスタ載せたらバズるような生活したいんです。あゆさん、いいな。生まれた時からその顔で、笑ってるだけで勝手にお金入ってくるじゃないですか。親ガチャ成功ですね。私もあゆさんに生まれたかったなー。本当にずるい」
私は自分をも気づかぬうちに立ちあがり、目の前の女を平手打ちしていた。
女は、何が起こったのか分からない、と呆けたのもつかの間、次の瞬間には私の頬を力強く叩いていた。頬に痛みが走る。もう考えるということを放棄し、皮膚を覆う怒りが勝手に体を動かしていた。
引っ張られ、引っ張り、蹴り、蹴られ、殴られ、殴っていた。
数分もたつと黒服の上西君と飯島ちゃんが中に入り、私たちを仲裁していた。化粧はとれ、髪の毛はさかだち、衣装はボロボロになっていた。息が上がっている。
私は思わず笑ってしまった。おかしくてしょうがなかった。お酒を何倍も飲み、酔った時のように何もかもがおもしろく見えた。何もないのに、勝手に笑いが零れ落ちてゆく。
店長は女には「帰って休め」と言い、私には「とりあえず落ち着け。話はそれからだ」とまるで映画のようなセリフを放った。それがまた面白くって、私は再び笑っていた。
女はドタバタと怒りを分散させるかのように物に当たりつけてcandleを出ていった。
飯島ちゃんがさりげなく私の背中をさすってくれている。
まもなくして、その女の子は大学院に行くためにこのキャバクラを辞めた。
「もう、むりやって。うちはやっぱり駄目なんや」
しゃっくりを上げ、この世の終わりかと思うほど大きな声で涙を流している。
うるさい。
何が駄目なのか分からない。
彼女は頭のいい大学の現役女子大生で、私とは違って将来の道は開けている。普通の幸せをつかむことができる。どんな事情があってここで働いているのか分からないが、それでも美しい将来が彼女にはある。
結婚するかもしれないし、バリバリ働くキャリアウーマンになるかもしれない。嫌ならとっとと辞めればいい。
「いいですよね。あゆさんは。可愛いし、強いし。人生楽しそう」
出来るだけ関わらないようにと端っこでスマホの画面をガン見していた私にそう投げかけた。
「それ本当に言ってる?」人生が楽しいなんて感じたことなどない。それに、こんなに苦しんで生きる私に、それは一番言っちゃいけない言葉だ。
「うちはあゆさんなら、もっと簡単に人生生きられたのに。私、親が学費払ってくれないんですよ。ひどくないですか?皆は学費も生活費も払ってもらって、その上にお小遣いまでもらっているんですよ?ブランドものとかコスメとか洋服買って、休みのたびに友達や彼氏と旅行に行くんです。
それなのに、学費も生活費も払ってくれないから、私は遊ぶ代わりに働くしかないんです。お金がないから、遊びの誘いも断ってばかりいたら、友達もいなくなっちゃいました」女の苦労話が始まった。
「それで、普通の塾講師とかコンビニとかでバイトしたって、全然お金にならないんですよ。全然。私だって、皆みたいにキラキラ輝く大学生活を送りたいんです。人生不平等すぎませんか?それで、私も普通の大学生活送りたいから、お金が簡単に稼げるっていうキャバクラに来たのに全然稼げないのおかしいですよ」
「それで?」怒るのなんて無駄なエネルギーだと分かっているのに湧き上がってくる感情を抑えられない。
「それで、せめて私もあゆさんみたいな顔があったらお金稼げるのになって話ですよ。あゆさんは可愛くていいですよね。ずるいです。月何百万、何千万って稼いでいるんですよね。あさみさんが言ってました。
それだけあれば、余裕で学費払えるし、タワマン住めるし、けちけち節約なんて貧乏くさいことせずに好きなだけ好きなもの買えるじゃないですか。皆が羨ましがるような人生送れるんですよ。
こんなみみっちい貧乏生活から、インスタ載せたらバズるような生活したいんです。あゆさん、いいな。生まれた時からその顔で、笑ってるだけで勝手にお金入ってくるじゃないですか。親ガチャ成功ですね。私もあゆさんに生まれたかったなー。本当にずるい」
私は自分をも気づかぬうちに立ちあがり、目の前の女を平手打ちしていた。
女は、何が起こったのか分からない、と呆けたのもつかの間、次の瞬間には私の頬を力強く叩いていた。頬に痛みが走る。もう考えるということを放棄し、皮膚を覆う怒りが勝手に体を動かしていた。
引っ張られ、引っ張り、蹴り、蹴られ、殴られ、殴っていた。
数分もたつと黒服の上西君と飯島ちゃんが中に入り、私たちを仲裁していた。化粧はとれ、髪の毛はさかだち、衣装はボロボロになっていた。息が上がっている。
私は思わず笑ってしまった。おかしくてしょうがなかった。お酒を何倍も飲み、酔った時のように何もかもがおもしろく見えた。何もないのに、勝手に笑いが零れ落ちてゆく。
店長は女には「帰って休め」と言い、私には「とりあえず落ち着け。話はそれからだ」とまるで映画のようなセリフを放った。それがまた面白くって、私は再び笑っていた。
女はドタバタと怒りを分散させるかのように物に当たりつけてcandleを出ていった。
飯島ちゃんがさりげなく私の背中をさすってくれている。
まもなくして、その女の子は大学院に行くためにこのキャバクラを辞めた。
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