降る、ふる、かれる。

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第二章 歌い手

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いつもより早く帰る街並みは少しだけ違って見えた。

大学をサボり、バイトを辞めさせられ、平和で死んでしまいそうになるクズな僕には、茜色に美しく染まる街並みに明らかにここにいてはいけない存在だった。

 僕の城である安普請の1kに帰ると、自分の匂いがしてほっとした。と、同時に喉の奥が黒いものでべた付いているのを感じた。

 肺に穴が開き、ヒューヒューと頼りない音を立てている。苦しい。

引き出しから剃刀を取り出して、左腕に何本も這っている細長い傷の間に刃をあてた。ぷつりと細胞が引き裂かれ、赤黒い液体が青白い肌をつたった。いつもより力を強くこめたせいか、鮮血はだらだらと出てくる。

ふわりと脳みそが揺れている気分だ。痛みが今抱えるすべてを飲み込んでくれる。取り除いてくれる。

 じっと赤いものを流れるのを見詰めていると、なんだかものすごく楽しくなってきた。ふつふつと熱いものが温泉のように湧き上がってくる。

僕はパソコンから大音量でボカロを流した。苦しみを歌ってくれるボカロを。ベッドの上をぴょんぴょんと飛び跳ね、泣きながら笑った。それから、大声で歌をうたった。

 僕の歌を誰でもいいから聞いてほしくって、スマホで録音したものを真っ黒の画面のままユーチューブに上げた。

 外からパラパラと雨が地面に打ち付ける音が聞こえる。

 僕は大声で歌い、暴れ、疲れてしまって流れ出る血の手当もせずにそのままベッドの上で眠りに落ちた。
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