降る、ふる、かれる。

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第二章 歌い手

ユークロニア

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画面はスタジオへと戻った。

〈はい、というわけで今回ご登場していただいたのは歌い手のユークロニアの皆さんでーす〉
〈よろしくお願いします〉

〈あすらなちゃんは知ってた?ユークロニアのことは〉

〈もちろんですよ。一谷さん、私もファンですもん〉ピンクのふりふりのお洋服を着、高いヒールをはき、ツインテールにした女の子が答える。

〈すごいね。結成一年目でもうすぐ登録者数百万人いくんだ〉

〈はい、ありがたいことに〉

〈最初のきっかけはさ、なんなの?歌って、ネットにあげてみようって思ったのは〉

〈ノリ、ですかね〉

〈えっ?〉

〈話の流れで、動画あげてみようってなって、僕がダンスと歌が好きだったから、その二つを同時にやってみようかなって思って。そしたら、その動画が思いのほかバズっちゃって〉

〈その動画が、今画面にながれてるやつですね〉

〈いやー、すごいね。歌もうまくて、ダンスもできて、顔もイケメンで〉

〈いやいや。そんなことないですよ〉

〈まーた謙遜しちゃって。ねぇ、よしりん家〉

〈そうだよ。おーれーのーかーおーをみーろっ〉よしりん家と呼ばれたタンクトップのお笑い芸人が持ちネタなのか、一発芸をかました。ささやかながらの笑い声があがる。

〈ここで、ユークロニアの皆さんから重大発表があるみたいです〉

〈はい。僕たちユークロニアは武道館でのライブが決定しました〉

〈全力で歌って、踊って、しゃべって、皆さんを笑顔に出来るようなライブにしたいと思っています〉

〈よかったら、皆さん遊びに来てください〉

〈はい。というわけで、今回のゲストはユークロニアの皆さんでしたー〉

画面はコマーシャルに変わった。

お茶を飲みほし、会計をして外に出た。

生暖かい風が肌をさらった。

僕は泣きそうであった。良く分からないけど、じりじりと足元の土がどんどんと削れていくような気がする。

ユークロは伸びる。僕は悔しいながらもその確信があった。長年人気商売で生きてきた僕だ。伸びる人とそうでない人の見分けくらいつく。

ユークロは特に爆発的人気を誇る。僕以上の存在になりうる。

 僕は走った。まだ死にたくない。歌を歌い続けなければ。もっと、もっと、もっと。この一分、一秒の間にも差は埋まりつつある。僕はもっともっともっと頑張らないといけない。

 酸素がのめりこみ、心臓が激しく波打って痛かった。


アスコーン・ティ・ディック・アンサー。/無夢
二千六十三万回視聴・五か月前
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