降る、ふる、かれる。

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第四章 ライブ

お話

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無夢は五曲続け様に歌った後、一つ軽い呼吸を床に落としてしゃべりはじめた。

「皆さん、こんにちは。無夢と申します。
本日は、僕の初めてのライブに来てくださり、ありがとうございます。

 このライブはyoutubeでの全世界配信、それから東京、ニューヨーク、ロサンゼルス、ブラジル、フランス、中国で街角の大型テレビで同時配信させていただいております。
Hell.everyone.
皆、見えてる?」

無夢は楽し気に手を振っている。

「こんな、初めてのライブが東京ドームで、それに全世界の人に見られているって中々ない経験ですよ。いやー、もうずっと緊張しっぱなしで、膝がくがくです。

そういえば、こうやって僕が話すのも初めてですね。

ずっと歌ってばかりいたからね。

僕の声、ちゃんととどいているでしょうか?

ずっとさ、ライブもしないで、SNSもしないで、メディアの露出も一切なかったものだから、ネット上では謎の王子様とか、AIとか、神様とか言われていましたけど、全然そんなことないんですよ。」

 クフフと無夢は軽やかに笑った。

「僕は元々何でもないただの大学生だったんですよ。それなのに、いつの間にかこんなところまで来ました。なんか、僕の方が驚いていますよ。

 あー、ちょっと、お水のませてもらいます」

無夢はストローがさしてあるペットボトルに入った水を口に含んだ。

「うわー皆のペンライト綺麗だね。ちゃんと客席の方見えてますからね。一人、一人。

 ずっとさ、皆のことってこう登録者数とか再生数とか数字でしか見れなくって、時々、だまされてるんじゃないかなって。本当は僕のことなんて誰も見てくれていないんじゃないかなって思うこともあったけど、今日実際に会うことができて、ちゃんと皆がいるんだなって実感できてうれしいです」

「僕さ、皆にずっと聞きたかったことがあるんです。いいですか?聞いても。」


沈黙がさっきまでの軽やかな雰囲気を変えた。
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