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新たな世界
旅立ち
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ハッ。ここは……天国か? 眩しくてよく見えないが、何人かの大きな人影と、羽の生えた天使のような人影がある。そして真下にはあろうことか真っ白な雲が広がっている。うん。やっぱり天国だな。
「マサマンディオス。お前は神の規律を破り、人間を虐殺したそうだな」
「断じてそんなことはしておらん! カロヌガンが事実を捻じ曲げて言っているだけのことなのだ。現に人間たちはカロヌガンとそのしもべたちに虐殺され――」
「まだそのような往生際の悪いことを言うか!」
どうやらこれはマサマンディオスの記憶のようだな。何やら他の神の前でお説教をされているみたいだが。
「何故カロヌガンの言っていることを信じるのだピナグムラン。我は正義と審判を司る神なのだぞ」
「黙れ! 正義と審判を貴様に委ねたのが間違いであった。それに告発してきたのはカロヌガンだけではない」
俺にはマサマンディオスの視点から周りが見えるんだけど……。あちゃー。周りの人影のほとんどが頷いてるわ。これはもう駄目かもわからんね。
つか本当に胸糞悪いなこういうの。マサマンディオスの話、誰もまともに聞いてないじゃん。
「お前たち……みなカロヌガンに付くというのか? ヤツは知略の神らしく我を貶めているのだぞ!」
「いい加減にしろマサマンディオス。貴様はもう神としてふさわしくない。地獄で永久に悔い改めよ!」
怒鳴られたと同時に足元から雲が消え、代わりに闇が現れて、俺もといマサマンディオスは虚しくそこに呑まれていった――。
次の瞬間、俺はまた洞窟の中で目を覚ました。記憶を見ている間、俺は倒れていたようだ。とりあえず上体を起こして座り、落ちて倒れていたランタンを立てた後、邪剣ことパルーサを傍に置いておく。
「おわかりになられたでしょう? マサマンディオス様は元は正義と審判の神。ですがとある他の神によって謀られたのです」
「……」
“サムよ。最初に伝えなかったことについては謝罪しよう。だが悪気があったわけではないのだ”
「……」
「サム様、どうかマサマンディオス様のために……その素晴らしいお力をお貸しください」
二人そろって俺を騙そうとしている可能性もなくはない。でも……記憶を見ている間感じた悲しみや怒りは、どう考えても本物だった。それすら邪神につくられたものなら、俺はもうとっくに操られてるはずなんだ。だから……。
「…………わかったよ。とにかくマサマンディオスの名前を“善い”意味で知らしめればいいんだな?」
「さ、左様でございます! ああ! 主様、ようございましたね!」
“感謝する。我が大司教サムよ”
「仕方なくだからな!」
こうして俺は邪神に力を貸すことになってしまったのであった。
「そういうことであればもう私は剣のままでいる必要はありませんね」
そう言ってパルーサは俺の右手から離れて、その姿を変えた。不気味な剣から変わったパルーサの姿は――まさに悪魔だった。
「完全に悪魔だねパルーサ」
「はい。残念ながら……」
「アンヘル=ニ=マサマンディオスはあの審判の後に我に付き従い、地獄までやって来た忠臣の天使なのだ。地獄に来てからは邪剣パルーサとなってしまったが、未だに我が信頼のおける唯一の天使だ」
「エッ。パルーサ……いやアンヘルってわざわざ堕落した神様についていったの?」
“……”
イタッ! 堕落って言葉が悪かったのね。分かったから! 訂正するから!
「下に行った神様な……ふう。それにしてもアンヘルは本当に主人思いなんだな」
「全ての神の中で最も偉大なお方だと私は信じておりますから……」
「ふうん」
すごい忠誠心だな。それだけ天界の神だった頃のマサマンディオスは善い神様だったってことか。
まあ今でも邪神の割には親切だし、天罰って言っても頭痛だけだもんな。ちょっと強引だけど。
「ところでこの倒した蛇は放置しておいて大丈夫なのか? 消えたりはしないみたいだけど」
「ううむ、そうですね。これだけの大物でしたら幾らかお金になるでしょう。解体してみてはいかがですか?」
「ええ。俺解体なんてやったことないよ? 道具もないし何よりちょっとキモい……」
「大丈夫です。神のお力を信じてください」
「ん? ああ。奇跡を使えってことね」
解体の方法を紋章に聞いてみると、それらしい奇跡が頭に浮かんでくる。早速ランタンをかざして……あ、このランタン、邪光ランタンって言うのね。何だかカボチャのあれに似てるな。鬼火のヤツ。
っとそうじゃなかった。ランタンをかざして死体に向けて祈ろう。
【黒き排除】
奇跡を行使するとすぐに死体の表面が黒い闇にさらされて徐々に肉が削がれ、有用な骨や蛇皮だけが残った。いやはや便利だなこの奇跡。有用なものだけが残るのか。
「ああ。なんて素晴らしいお力なのでしょう。ここまで正確に解体してしまうとは……」
「ん? そういう奇跡なんだろ?」
「私が使ってもせいぜい残るのは骨だけです。このように綺麗に蛇皮が残ったりはしません。そもそもこの奇跡は行使する者が要らないと判断したものを消し去る奇跡です。一部だけを残すという調節は難しく、しかも解体という目的に特化したものではありません……」
「そうなの?」
「はい。それだけの神力があれば、もしかしたら低位の魔物を消し去ることもできるかもしれませんね」
「ほう。即死攻撃みたいに使えるのか。なかなかありがたいな」
“大体紋章に聞いた時点でそのような使い方は知識になかったであろう……人間にはそこまで扱えないと思っていたからだ”
「まあ確かにゴミを捨てるとかそんな使い方って感じだったな」
“信徒が強力であるのは良いことではあるのだが……力というのは自覚しないと危険なのだぞ”
「それもそうか。他の人間がいるときは加減するようにするよ」
「是非そうなさってください。これでは異国風の容姿と合わせてあまりにも目立ちすぎてしまいます」
「あーやっぱり日本人の容姿だと目立っちゃう感じ?」
「そうですね。こちらの世界ではもう少し堀が深いお顔立ちの人間が多いように思います」
「そっか」
あんまり浮くのは勘弁だけどまあ仕方ないか。とりあえず元の世界の服装はアウトなので、奇跡でスーツからそれっぽい司祭服みたいなのに着替えた。
司祭服の全体の色は黒だが、襟と裾の部分だけ紫のグラデーションになっている。金具も光沢があってしっかりしているから存外気に入ったぞ。
服装はこれで変わったが、人種の方は自分じゃ変えられない。だからせめて、堂々として胸を張っていくか!
「マサマンディオス。お前は神の規律を破り、人間を虐殺したそうだな」
「断じてそんなことはしておらん! カロヌガンが事実を捻じ曲げて言っているだけのことなのだ。現に人間たちはカロヌガンとそのしもべたちに虐殺され――」
「まだそのような往生際の悪いことを言うか!」
どうやらこれはマサマンディオスの記憶のようだな。何やら他の神の前でお説教をされているみたいだが。
「何故カロヌガンの言っていることを信じるのだピナグムラン。我は正義と審判を司る神なのだぞ」
「黙れ! 正義と審判を貴様に委ねたのが間違いであった。それに告発してきたのはカロヌガンだけではない」
俺にはマサマンディオスの視点から周りが見えるんだけど……。あちゃー。周りの人影のほとんどが頷いてるわ。これはもう駄目かもわからんね。
つか本当に胸糞悪いなこういうの。マサマンディオスの話、誰もまともに聞いてないじゃん。
「お前たち……みなカロヌガンに付くというのか? ヤツは知略の神らしく我を貶めているのだぞ!」
「いい加減にしろマサマンディオス。貴様はもう神としてふさわしくない。地獄で永久に悔い改めよ!」
怒鳴られたと同時に足元から雲が消え、代わりに闇が現れて、俺もといマサマンディオスは虚しくそこに呑まれていった――。
次の瞬間、俺はまた洞窟の中で目を覚ました。記憶を見ている間、俺は倒れていたようだ。とりあえず上体を起こして座り、落ちて倒れていたランタンを立てた後、邪剣ことパルーサを傍に置いておく。
「おわかりになられたでしょう? マサマンディオス様は元は正義と審判の神。ですがとある他の神によって謀られたのです」
「……」
“サムよ。最初に伝えなかったことについては謝罪しよう。だが悪気があったわけではないのだ”
「……」
「サム様、どうかマサマンディオス様のために……その素晴らしいお力をお貸しください」
二人そろって俺を騙そうとしている可能性もなくはない。でも……記憶を見ている間感じた悲しみや怒りは、どう考えても本物だった。それすら邪神につくられたものなら、俺はもうとっくに操られてるはずなんだ。だから……。
「…………わかったよ。とにかくマサマンディオスの名前を“善い”意味で知らしめればいいんだな?」
「さ、左様でございます! ああ! 主様、ようございましたね!」
“感謝する。我が大司教サムよ”
「仕方なくだからな!」
こうして俺は邪神に力を貸すことになってしまったのであった。
「そういうことであればもう私は剣のままでいる必要はありませんね」
そう言ってパルーサは俺の右手から離れて、その姿を変えた。不気味な剣から変わったパルーサの姿は――まさに悪魔だった。
「完全に悪魔だねパルーサ」
「はい。残念ながら……」
「アンヘル=ニ=マサマンディオスはあの審判の後に我に付き従い、地獄までやって来た忠臣の天使なのだ。地獄に来てからは邪剣パルーサとなってしまったが、未だに我が信頼のおける唯一の天使だ」
「エッ。パルーサ……いやアンヘルってわざわざ堕落した神様についていったの?」
“……”
イタッ! 堕落って言葉が悪かったのね。分かったから! 訂正するから!
「下に行った神様な……ふう。それにしてもアンヘルは本当に主人思いなんだな」
「全ての神の中で最も偉大なお方だと私は信じておりますから……」
「ふうん」
すごい忠誠心だな。それだけ天界の神だった頃のマサマンディオスは善い神様だったってことか。
まあ今でも邪神の割には親切だし、天罰って言っても頭痛だけだもんな。ちょっと強引だけど。
「ところでこの倒した蛇は放置しておいて大丈夫なのか? 消えたりはしないみたいだけど」
「ううむ、そうですね。これだけの大物でしたら幾らかお金になるでしょう。解体してみてはいかがですか?」
「ええ。俺解体なんてやったことないよ? 道具もないし何よりちょっとキモい……」
「大丈夫です。神のお力を信じてください」
「ん? ああ。奇跡を使えってことね」
解体の方法を紋章に聞いてみると、それらしい奇跡が頭に浮かんでくる。早速ランタンをかざして……あ、このランタン、邪光ランタンって言うのね。何だかカボチャのあれに似てるな。鬼火のヤツ。
っとそうじゃなかった。ランタンをかざして死体に向けて祈ろう。
【黒き排除】
奇跡を行使するとすぐに死体の表面が黒い闇にさらされて徐々に肉が削がれ、有用な骨や蛇皮だけが残った。いやはや便利だなこの奇跡。有用なものだけが残るのか。
「ああ。なんて素晴らしいお力なのでしょう。ここまで正確に解体してしまうとは……」
「ん? そういう奇跡なんだろ?」
「私が使ってもせいぜい残るのは骨だけです。このように綺麗に蛇皮が残ったりはしません。そもそもこの奇跡は行使する者が要らないと判断したものを消し去る奇跡です。一部だけを残すという調節は難しく、しかも解体という目的に特化したものではありません……」
「そうなの?」
「はい。それだけの神力があれば、もしかしたら低位の魔物を消し去ることもできるかもしれませんね」
「ほう。即死攻撃みたいに使えるのか。なかなかありがたいな」
“大体紋章に聞いた時点でそのような使い方は知識になかったであろう……人間にはそこまで扱えないと思っていたからだ”
「まあ確かにゴミを捨てるとかそんな使い方って感じだったな」
“信徒が強力であるのは良いことではあるのだが……力というのは自覚しないと危険なのだぞ”
「それもそうか。他の人間がいるときは加減するようにするよ」
「是非そうなさってください。これでは異国風の容姿と合わせてあまりにも目立ちすぎてしまいます」
「あーやっぱり日本人の容姿だと目立っちゃう感じ?」
「そうですね。こちらの世界ではもう少し堀が深いお顔立ちの人間が多いように思います」
「そっか」
あんまり浮くのは勘弁だけどまあ仕方ないか。とりあえず元の世界の服装はアウトなので、奇跡でスーツからそれっぽい司祭服みたいなのに着替えた。
司祭服の全体の色は黒だが、襟と裾の部分だけ紫のグラデーションになっている。金具も光沢があってしっかりしているから存外気に入ったぞ。
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