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悲しみとの決別
暖かな家
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そんなこんなで一通り話し終わると、シビルがおもむろに口を開いて問いかけてくる。
「それで、お前自体は何物なんじゃ? 見たところ神官のようだが、有力者のようには見えんな」
「あ、あはは。ご覧の通り、とある神様を信仰するただの神官ですよ」
やべー。超怪しいよ俺。邪神に仕えてることを素直に言えなくて微妙な態度になっちゃった。とある神様ってなんだよ……。怪しすぎるよ……。
「とある神様か……イーヒッヒ! 我慢できんわ! お前は邪神の神官じゃろう!」
「ウッ。 何故バレてしまったんだ?」
「闇の精霊がお前の周りを飛んでおるのよ。まあ安心せい。それだけでここから追い出したりはせん」
「そ、それは良かった。彼女が心配だからな」
「それにしてもお前は変わっとるな。邪神の神官などイカれた輩しかおらんと思っておったが、話を聞く限りではお前はその類ではなさそうじゃな。嘘を吐けるような人間にも見えん」
「はあ」
嘘を吐けない……あれ? 微妙に馬鹿にしてないか? 気のせいか?
「邪な目的がないならお前が何者なのかなんて興味もない。だが、この娘は別じゃ。霊力からして強力な精霊使いになる素養を秘めていながら、この身なりに何かに怯えたような目つき。気がかりじゃな」
「彼女が回復するまでお世話になってもいいか? 金は払えるし、食料も調達できる」
「ん。弱ったものを放り出すような趣味はないから元々そのつもりじゃったが、そういうことならお前には働いてもらうとしよう。……使い物になるんじゃろうな?」
「……多分、それなりに?」
「イッヒッヒ。冗談じゃよ。じゃが働いてもらいたいのは本当じゃ。最近魔物が手ごわくなってきていてな。月の光が強くなってから徐々にその傾向が強くなっとる」
老婆がその話をした直後、マサマンディオスが反応する。
“! やはりそうであったか”
やはりって何だ。月の光とか魔物が強くなってるとか、なんか心当たりがあるのか?
“月の光はカロヌガンの司るところ。ヤツが勢力を増しているということだ”
カロヌガンは確か知略の神とかいう、マサマンディオスをハメた張本人だったよな。仮にも光の神なんだからそんなにも悪影響はないんじゃないか? マサマンディオスには複雑かもしれないが。
「サム様、それがそうではないのです。いくら光の神でもその司る部分が過剰になれば、悪影響は出てしまいます。知略の象徴である月の光が過剰になれば、魔物はより賢く、そしてより狂暴になるのです」
確かに何事も適度な量ってものがあるよな。俺がそういう感じで頭の中で話をしていると、年季の入った顔が俺を覗き込んでくる。うわっ。何だよ。
「どうした? ワシの話を聞いておったか?」
「あ、ああ。もちろんだとも。魔物を退治すればいいんだな?」
「そうじゃ。じゃが気をつけるんじゃぞ。お前の実力は知らんが、魔物は強くなっておる。この辺は人が住めるくらいには魔物が弱いが、たまに強力な個体が出るからの」
「わかった。十分に気を付けるよ。でも今夜はさすがに休ませてくれ」
「よかろう。睡眠不足のまま魔物狩りに行かせて死なれたら、ワシの寝覚めが悪いわ」
「助かる。まあ今日はこれで勘弁してくれ」
何もお礼をしないまま休ませてもらうのも気が引けたので、【闇の領域】からイノシシらしき魔物の肉を取り出した。出せるものがあって良かった。何となくお金は使わなそうだからな。
邪神の神官であることがバレたので、そんな感じで気兼ねなく奇跡を使ったのだが、それを見た途端にシビルは目をまん丸にして固まってしまった。
「べ、便利な奇跡じゃな。この肉はいつのものじゃ?」
「う~ん、今日の昼過ぎくらいかな?」
「何!? ん? でも全く傷んでいないようじゃな」
「入れたときの状態のまま置いておけるからな。新鮮な肉だぞ」
「そ、そうじゃったか」
シビルは半ば喰い気味に器を用意して肉を受け取った。それからその肉を精霊魔法で凍らせて、戸棚に突っ込んでいる。何だかんだ精霊魔法もかなり便利だよな。
それから俺は客間らしきところにお邪魔させてもらって、そこで大胆に横になった。シビルの寝る場所がなくなってしまうからと最初は遠慮したが、どの道彼女は夜の見回りに行くから別にいいらしい。でもそれは建前できっと譲ってくれたのだろう。
精霊とやらが言っていた通り優しい人みたいだな。しかもこのベッド。どんな植物の綿を使っているのかは知らないが、すごくほわほわだ。
俺はそれに完全に身を委ねて、一日の疲れを癒すために目を瞑る。今日は転移したり魔物に襲われたり災難だったけど、思いの外、悪くない一日だったな。
「それで、お前自体は何物なんじゃ? 見たところ神官のようだが、有力者のようには見えんな」
「あ、あはは。ご覧の通り、とある神様を信仰するただの神官ですよ」
やべー。超怪しいよ俺。邪神に仕えてることを素直に言えなくて微妙な態度になっちゃった。とある神様ってなんだよ……。怪しすぎるよ……。
「とある神様か……イーヒッヒ! 我慢できんわ! お前は邪神の神官じゃろう!」
「ウッ。 何故バレてしまったんだ?」
「闇の精霊がお前の周りを飛んでおるのよ。まあ安心せい。それだけでここから追い出したりはせん」
「そ、それは良かった。彼女が心配だからな」
「それにしてもお前は変わっとるな。邪神の神官などイカれた輩しかおらんと思っておったが、話を聞く限りではお前はその類ではなさそうじゃな。嘘を吐けるような人間にも見えん」
「はあ」
嘘を吐けない……あれ? 微妙に馬鹿にしてないか? 気のせいか?
「邪な目的がないならお前が何者なのかなんて興味もない。だが、この娘は別じゃ。霊力からして強力な精霊使いになる素養を秘めていながら、この身なりに何かに怯えたような目つき。気がかりじゃな」
「彼女が回復するまでお世話になってもいいか? 金は払えるし、食料も調達できる」
「ん。弱ったものを放り出すような趣味はないから元々そのつもりじゃったが、そういうことならお前には働いてもらうとしよう。……使い物になるんじゃろうな?」
「……多分、それなりに?」
「イッヒッヒ。冗談じゃよ。じゃが働いてもらいたいのは本当じゃ。最近魔物が手ごわくなってきていてな。月の光が強くなってから徐々にその傾向が強くなっとる」
老婆がその話をした直後、マサマンディオスが反応する。
“! やはりそうであったか”
やはりって何だ。月の光とか魔物が強くなってるとか、なんか心当たりがあるのか?
“月の光はカロヌガンの司るところ。ヤツが勢力を増しているということだ”
カロヌガンは確か知略の神とかいう、マサマンディオスをハメた張本人だったよな。仮にも光の神なんだからそんなにも悪影響はないんじゃないか? マサマンディオスには複雑かもしれないが。
「サム様、それがそうではないのです。いくら光の神でもその司る部分が過剰になれば、悪影響は出てしまいます。知略の象徴である月の光が過剰になれば、魔物はより賢く、そしてより狂暴になるのです」
確かに何事も適度な量ってものがあるよな。俺がそういう感じで頭の中で話をしていると、年季の入った顔が俺を覗き込んでくる。うわっ。何だよ。
「どうした? ワシの話を聞いておったか?」
「あ、ああ。もちろんだとも。魔物を退治すればいいんだな?」
「そうじゃ。じゃが気をつけるんじゃぞ。お前の実力は知らんが、魔物は強くなっておる。この辺は人が住めるくらいには魔物が弱いが、たまに強力な個体が出るからの」
「わかった。十分に気を付けるよ。でも今夜はさすがに休ませてくれ」
「よかろう。睡眠不足のまま魔物狩りに行かせて死なれたら、ワシの寝覚めが悪いわ」
「助かる。まあ今日はこれで勘弁してくれ」
何もお礼をしないまま休ませてもらうのも気が引けたので、【闇の領域】からイノシシらしき魔物の肉を取り出した。出せるものがあって良かった。何となくお金は使わなそうだからな。
邪神の神官であることがバレたので、そんな感じで気兼ねなく奇跡を使ったのだが、それを見た途端にシビルは目をまん丸にして固まってしまった。
「べ、便利な奇跡じゃな。この肉はいつのものじゃ?」
「う~ん、今日の昼過ぎくらいかな?」
「何!? ん? でも全く傷んでいないようじゃな」
「入れたときの状態のまま置いておけるからな。新鮮な肉だぞ」
「そ、そうじゃったか」
シビルは半ば喰い気味に器を用意して肉を受け取った。それからその肉を精霊魔法で凍らせて、戸棚に突っ込んでいる。何だかんだ精霊魔法もかなり便利だよな。
それから俺は客間らしきところにお邪魔させてもらって、そこで大胆に横になった。シビルの寝る場所がなくなってしまうからと最初は遠慮したが、どの道彼女は夜の見回りに行くから別にいいらしい。でもそれは建前できっと譲ってくれたのだろう。
精霊とやらが言っていた通り優しい人みたいだな。しかもこのベッド。どんな植物の綿を使っているのかは知らないが、すごくほわほわだ。
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